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最終話 誰よりも“未来”を視ている者

「ディー! ごめん抜けられた!」


「了解」


 ファーラ王国領内にあるジルギア平原。常に穏やかな風が吹き、『安らぎの平原』とも呼ばれるこの平原でディリスとエリアは走り回っていた。

 ぴょこぴょこと飛び跳ねては捕獲の手をすり抜けていく魔物『フェザーラビット』。

 二人は協力し、逃げようとするその魔物をひたすら追いかけていた。


「エリア、そっちから行ける?」


「頑張る!」


 フェザーラビットが大きく跳躍したのを見計らい、エリアが着地点へ急行。すると、フェザーラビットは持ち前の身体の軽さで絶妙に着地点を変更。そのままの勢いで別方向へ跳んでいく。


「うっそー!? そんなのあり!?」


「いいや、これを待っていた」


 フェザーラビットの跳躍と平行になるよう、ディリスもその身を宙へ舞い上がらせる。フェザーラビットはその愛くるしい眼を丸くさせた。ばっちりと視線を合わせるディリス。フェザーラビットは脳内で警鐘が鳴り響いていた。

 ディリスが後腰の短剣へ手をかけた。それを見てしまった時点でフェザーラビットは負けを確信した。

 抵抗すれば間違いなくとんでもない目に遭う、と理解してしまったのだから。


「捕まえた」


 両手でぎゅっと掴み、地面を転がるディリス。思わずエリアは駆け寄り、彼女に付いた土を払ってやった。


「ディー大丈夫? とんでもなくアクロバティックな転がり方したけど」


「平気。この程度は傷の内に入らないから」


「もー。このくらいの依頼でそれじゃあ、ランク高い依頼を引き受けた時どうするの?」


「む……」


 あの戦いが終わった一週間後、ディリスとエリアはプロジアとの一件で休業していた冒険者稼業を再開していた。

 変わったことと言えば、ディリスが最低ランクから一段階上のブロンズランクになったことぐらい。エリアと同じになったとはいえ、そのランク帯が引き受けられる依頼は限られている。

 だから二人はまずランク上げを目標にし、地道に依頼をこなしていたのだ。


「いやーそれにしても私達っていつになったらランク上がるんだろうね~。一応蓄えがあるとはいえ、日々のご飯を豪華にしていくためにはもっと稼がないといけないのに」


「……虚無神を倒したと言えば、一気に最高ランクにならないかな」


「話が非現実的過ぎて誰も信じてくれないと思うよ」


 苦笑するエリア。事実は事実なのだが、それを客観的に証明してくれる者は誰もいない。

 当然ディリスもそれは分かっていたため、次の手を考える。


「ならフィアメリアからギルドに口利きしてもらおうか。フィアメリアならここら辺の組織の幹部や代表クラスとコネクションがあるだろうし、そこから私達を超例外扱いということで最高ランクに……」


「それは駄目ー! フィアメリアには頼らないって言ったのはディーだからね?」


「……人は時として意見を曲げなければならない事がある」


「それは曲げちゃいけない意見だと思うよ! ……それにしてもディー」


「ん?」


 エリアはディリスが抱えているフェザーラビットを指差した。


「殺そうとしたり、物騒な方法で捕まえなかったね」


 ディリスはそこで初めてその事を自覚した。前の自分ならば最初から殺すという方法もあったのだが、先程までの自分はその選択肢を一切取ろうとはしなかった。


「……私も少しは前へ進めているってことなのかな」


「そだよ! ディーは前に進んでる! 私が保証するよ!」


 ピースサインを前へ突き出し、得意げに笑うエリア。その顔を見ていたディリスは何となくこの言葉を口にしていた。


「ありがとうエリア」


「へ? 急にどうしたの?」


「エリアと出会って、私は色々なことに出会えた。もし私がプーラガリアに立ち寄らず、別の所に行っていたらこうはならなかったと思う」


 運命。

 この二文字が強くディリスの胸に浮かんでいた。

 もしプーラガリアに寄らなかったら、もし酒場に入らなかったら、もしエリアを助けなかったら。色んな“もしも”が浮かんでは消える。

 同時に、怖くもなった。あまりにも出来すぎていると。これは何かの夢で、目覚めたら血風の中にいるのではないかと。


「エリアには沢山教えられたね。エリアがいなかったら、私はきっと《蒼眼(ブルーアイ)》のままだった。『七人の調停者(セブン・アービターズ)』出身の殺人者として、今も無意味で無感動な殺しをしていたと思う」


「わ、私だって! ディーがいたから楽しいことや、ちょっと怒っちゃうこと、悲しいこと、そして嬉しいことに出会えた! みんなディーのお陰なんだよ! 私だって、ありがとうだよ!」


 ディリスとエリア。

 互いが抱いている気持ちは、同じだったのかもしれない。

 最初は小さなキッカケだった。だけど、そんなキッカケを大きなものに昇華させたのも間違いなく二人である。

 フェザーラビットを袋に入れ、ディリスは立ち上がり、エリアへ近づいた。


「エリア。私はこれからもエリアと、そして戻ってくるルゥの三人と居たい。良いかな?」


「もちろんだよディー! 私もディーとそしてルゥちゃんの三人とでいつまでも一緒に居たい! だから……居なくならないでね?」


 ディリスはゆっくりと頷いた。深く、噛み締めるように。


「もちろん。私はもう、どこにも居なくならない」



 その時だった。



「何? この声……鳴き声!?」


「ここに来れば妙な事が起きるって、何かで決まっているのかな?」


 空を見上げると、一匹の巨大な竜が真っ直ぐこちらへ向かってきていた。

 それを見たエリアは驚きで腰が抜けそうになる。


「あ、あれって『グランド・フライヤー』!? 竜を食べる竜……特級の竜殺し(ドラゴンスレイヤー)である弩級の強さを誇る怪物が何でここに!?」


 『グランド・フライヤー』と眼が合ったディリスは、それで全てを理解した。


「なるほど、どうやら私が目当てのようだね。……この辺の雑魚を遥かに越えた食いでのある相手が現れたのなら、そりゃあ出てこない方が無礼だからね」


 ディリスは天秤の剣を抜いた。その輝きはいまだ褪せず、彼女の心の強さを如実に表しているようだった。


「エリア、援護頼めるかな?」


「もち! ディーは存分にやっちゃって!」


 ディリスが前、そしてエリアが後ろ。理想的なポジションだ。

 目の前に降り立つ『グランド・フライヤー』はその巨大な顎を大きく開き、威嚇をする。もう完全に敵として認識しているようだ。

 だが、それはディリスとて同じであった。

 彼女は静かに眼を閉じる。


「私の前に殺意を以て現れたのならどういうことになるか、理解しているよね?」


 目を開くと、彼女の眼は蒼くなっていた。

 誰よりも“死”だけを視ているはずの眼だった。

 だが、昔と今で違うことがたったの一つだけある。



「《蒼眼(ブルーアイ)》――このディリス・エクルファイズの眼の前に立って、生きて帰れると思うなよ」



 その蒼い眼は、誰よりも“未来”を視ている。




【ディーとエリアの冒険記~蒼眼の世界最強の女殺し屋は訳あって冒険者に転職します~ 完】

私は生きる。生きて、生きて、生き抜いてやる。エリアとルゥと一緒に。いつまでも byディリス



作者の右助です。

今回の話をもって「ディーとエリアの冒険記~蒼眼の世界最強の女殺し屋は訳あって冒険者に転職します~」は完結となります。

いかがでしたでしょうか?楽しんでくれたのなら作者冥利に尽きます。

実は一次創作を何度もエタらせてしまい、一時期文章を書くことが嫌になりかけていた時があります。ですが、それでも挫けずに書き続け、今日作家としての目標の一つであった「一次創作を完結させる」という目標を達成することが出来ました。

頑張ってよかったなと思います。ですが、これはゴールでもあり、スタートでもあります。

これからも違う作品を書き、私の想像の世界を皆様に見せていけたらなと思います。


今まで読んでくれた皆様、本当にありがとうございました!

また違う作品でお会いしましょう!


それでは!

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