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第二十一話 津波

 熱と光と魔力が空間内に充満する。ディリス達三人に加え、『六色の矢』が虚無神との戦いに参加したのが大きな要因。

 今まで以上に熾烈を極める戦闘。それぞれが虚無神の分体や本体に攻撃を仕掛けている。

 それをただ眺めているだけしかできないディリスは歯噛みしていた。


「くそ……いい加減動け、私の身体」


 皆が死力を尽くして戦っている。それなのにただ見ているだけしか出来ないこの無力さ。

 徐々に身体に力が戻っているが、それでも戦闘に堪えるものではない。


「ほらほらエリア! このオランジュさんが魔弾の真髄を見せてあげるわよ!」


 オランジュが放った魔弾は全ての人間の死角にいた分体を撃ち抜くことに成功した。魔力盛りだくさん、一撃で分体の身体に風穴を開けていった。

 それに触発されたロッソが二刀を持ち、手当り次第目についた分体を切り刻む。


「はぁぁはっ! 手ぬるいねぇ!」


「ロッソ、背後ががら空きだ」


 ジョヌの雷がロッソの背後にいた分体数十体を纏めて焼き尽くす。彼は礼を言うことなく、再び剣を振るう。

 それを見ていたヴェールは面白そうに笑っていた。


「あはは! やっぱりロッソはイカれてるねぇ! そういうのさいっこう!」


 パールスの全方位を囲む虚無神の分体へ軽く腕を払う動作をすると、囲まれている彼女の身体に新緑のモヤが掛かった。


「このヴェール様にかかれば、この程度の騙しは簡単なんだよね」


 分体から伸びる刃。だがその刃はどれもパールスを害することはなく、むしろ他の分体を斬りつけていた。

 それがヴェールの魔法だと気づいていたパールスは一瞬だけ彼女を見た。そして返礼とばかりに彼女はヴェールの近くにいた分体目掛けて突進、攻撃魔法顔負けの突きを放った。


「これで貸し無しですね」


「あーららちゃっかりしてるねぇ」


「皆、ふざけすぎ」


 『六腕のルム』の背中に乗っていたアズゥは呆れた表情を浮かべていた。彼女が見ていない間にも『六腕のルム』は音速の拳で次々に分体を殴り飛ばしていた。

 そんな圧倒的な光景を見ながら、エリアはルゥの護衛を務めていた。


「ルゥちゃん大丈夫!?」


「はい! クァラブさんが護ってくれています!」


 疾風の剣運びでクァラブは虚無神の分体を斬って回っていた。一撃で両断していくその様はさながら死神を思わせる。

 状況は優勢。そんな中、エリアはがら空きの虚無神目掛けて、拳を突き出していた。


「今なら! 『城壁崩しの光槍ブラスティング・スピア』ァ!!」


 エリアの拳から無音の極光が放たれた。全てを滅ぼす光の槍は盾になろうとする分体すら巻き込み、一直線に虚無神へと突き刺さる。


「ほぉ~~~!!! 人間にしては中々! 我が痛みを感じたぞ!」


 虚無神の身体に光が収束する。その膨大な戦気はその場にいる全ての人間を戦慄させる。

 虚無神の光に導かれるように、分体が本体へと戻っていく。


「滅ぼしてやらなきゃな人間。今の小ヌルいデコピンでそれがよ~~~~~~~~く分かったよ」


 腕も引っ込み、虚無神はとうとう元の八面体へと姿を戻した。途端、魔力量が桁違いに吹き上がっていく。

 その異常にいち早く気づいたのはエリアだった。


「あれは……爆発しようとしている!?」


「エリアちゃんの想像通りかもね。形式で言うならシンプルな爆発系の攻撃魔法に近い。だけど――」


 オランジュの言葉をジョヌが引き継いた。


「爆発系の魔法は単純だ。魔力を込めれば込めるほど威力を増す。となれば、それが放たれるということはそういうことだ。感じる魔力量だけで被害を見積もるとするのなら……おぉ、これは相当だ」


 大仰に振る舞うジョヌを冷めた目で見ながら、アズゥはルゥへ答えを言った。


「この大陸の半分は消し飛ぶと思う」


「えぇ!? そんな威力が!?」


「喚いてんなよガキんちょがよぉ! 口動かしてる暇あるんならさっさとあのダセェインテリアをぶっ壊せや!」


 言いながら、ロッソは飛びかかり、虚無神へ剣を振るっていた。圧倒的不利な状況にも関わらず終始ギラギラした笑顔で剣を振るうのは流石と言うべきだろう。

 そんなロッソを援護しながら、オランジュは虚無髪をジッと見つめていた。


「ねぇパールス、アレどう思う?」


「そうですね。あれがまだ召喚霊という前提で話しますが、あそこまで強烈な力を持つ召喚霊というのは普通存在しないはずです。それがここまではっきりと存在感を出しているということはやはり……」


「プロジアが核になったからなんじゃないかな? ボク的には中心核をどうにかすればそれで終了だと思う。ね、正解かなアズゥ?」


「……多分、そう。あれはまだ召喚霊。だけど、プロジアを媒介にしたことで限りなく“本物”に近づいた召喚霊」


 各々の考察をジョヌが纏め上げる。


「じゃあ俺達がやれる手は総動員して、虚無神の核を破壊してプロジアを救出、もしくは抹殺。これしかないということだな」


「でも、あの虚無神にどうやって攻撃を通せば……!」


 エリアは確かに視ていた。虚無神の身体が修復しているということを。

 皆が全力で攻撃していたというのにも関わらず、全く通用している気配がない。

 そこで彼女は虚無神の言葉を思い出していた。


「徒労……だっていうの? 私達がやってきたことは」


「そんなことありませんっ!」


 ルゥがエリアの手を握る。少女の手は小刻みに震えていた。


「どんな相手でも、私達は諦めなかった! 諦めなかったからここにいるんですっ! 思い出してくださいエリアさん!!」


「今回はルゥの勝ちだね」


「ディー……!」


 エリアの方に手を置くディリス。その顔色は徐々に戻りつつある。


「諦めない、これは私達三人がいつもやってきたことだ。だから今回も諦めない。私達は勝つんだ。あの神様気取ったナルシストを殺すんだ」


 ディリスの発言に、虚無神は世界の全てに響くような声でこう言った。


「言うに事欠いて神様気取りだと!? だが、どーーーーーだって良い! 私の魔力の全てを今! この瞬間にも詰め込んでいる! 蒸発しろよ虫ケラがぁ!」


「その虫ケラに食い殺されんだよゴッドちゃんよぉ!」


 ロッソが大きく剣を振りかぶり、虚無神に降り掛かる。

 その瞬間、虚無神の背後から巨大な魔法陣が展開された。


「片手間の防御でもハエのように追い払えるんだよ人間共がぁ!!!」


 魔法陣から飛び出したのは、津波のような光の本流。これが何を意味するかは分からない。

 しかし、ディリスを始めとする戦士たちは為す術もなく、その波に呑み込まれることとなる。

ディー……! 私は、諦めないよ! byエリア

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