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第十八話 三人の力、穴を穿つ

「愚かな」


 虚無神は嘆息した。

 力は見せた。本来ならば既に命乞いでもしている時間であった。


 しかし、まだ諦めていない。


 蒼い瞳を輝かせ、虚空と無尽の力を持つ己を見据えるディリスという名の人間。

 彼女の闘志は一体どこから湧いてくるのか。人間には微塵も興味がなかった虚無神はその認識を改める。


「力は見せたはずだ」


「それがどうした? 私は殺せると知った。ならやるだけなんだよ。それ以外の選択肢はない」


 跳躍し、体を捻る。そのまま独楽(こま)のように回転し、その勢いを虚無神へ叩きつける。

 しかし虚無神に刃は届かない。『無尽の左腕』によって魔力を纏わせた天秤の剣が受け止められたのだ。

 弾かれたディリスはそのまま着地、持ち前の脚力で虚無神の背後へ回り込み、剣を走らせる。


 手応えあり。


 ちらりと虚無神の背中の傷を確認し、口の端を吊り上げる。


「まずは小さな一歩だ」


 虚無神が振り向く。しかしその場には既にディリスはいなかった。

 ディリスの姿を探す虚無神。次の瞬間、虚無神は飛んでくる無数の魔力で構成された斧を見る。


「『花開く斧フラワリング・アックス』!」


 絶対の防御を誇る左腕を突き出したが、一手遅かった。頭部から胸にかかる部分は防ぐことが出来たが、それ以外に部位には全て直撃することとなる。

 エリアは突き出し、開いていた手を握りしめる。


「咲いて!!」


 彼女が叫んだ次の瞬間。

 魔力で構成された斧の柄頭から花が咲く。柄頭から刃部分へ向かうようにどんどん花が咲いていく。

 やがて一つの巨大な花になり、それらが一気に爆発を起こす。


 対象の魔力を吸うことで成長し、一輪の花となり、爆発を引き起こす攻撃魔法『花開く斧フラワリング・アックス』。魔力があればあるほど、威力が倍化していく。


 巻き起こる煙の中で、虚無神は己のメンテンスを行っていた。


「我を構成する魔力、それを狙ってきたか」


 召喚霊への対処法はいくつかある。

 術者を倒す、召喚霊自体の魔力切れを狙う、もしくは正面から召喚霊を倒す。最後は魔力を吸いきること。

 今の攻撃では、何億回やられても虚無神の魔力を枯渇させる事は出来ない。


 危険度は低い。そう、虚無神は結論づけた。



「お願いしますクァラブさん!」



 煙の中から黒剣を握りしめたクァラブが現れる。

 虚無神が構える前にクァラブはすれ違い、真一文字に斬りつけていた。

 直後、体の向きを変え、今度は虚無神の背中を下から縦一文字に振り上げた。


ズイ『ヘク』(これぞ『躱し十字』)


「ほぉ……! あがいたな!」


 魔界最強の剣士の絶技は虚無神に届いた。

 そしてクァラブの持つ黒剣で与える傷は呪いと同義。つまり、回復が出来ない。


 動作に多少の不安を感じる虚無神。しかし、これで終わりなどではない。


 『虚空の右腕』。


 虚無神の右腕に光が収束していく。この右腕から生み出される破壊は天災と同じ意味を持つ。

 一度でもまともに振るわれたらディリス達など一瞬で塵と消える。


 それが分かっていたからこそ。


 クァラブの陰に隠れていたディリスが飛び出した。蒼い眼を光らせ、虚無に終わりをもたらすために。


(ちっ……! 間に合わないか……!!)


 虚無神はディリスの出現に素早く反応していた。

 彼女が出現したのと同時に、破壊を秘めた右腕を振り上げていたのだ。


 天秤の剣に込められた魔力は最高。『ウィル・トランス』で底上げされた身体能力で繰り出される斬撃は確実に虚無神へ深手を負わせられるという確信があった。


 しかし、“間に合わない”。


 あと一秒、足りない。


 鮮明に浮かび上がる死のイメージ。


「滅びろ」


 虚無神は無感情に言い、そして右腕を繰り出した。


 その時だった。


「ディー!!」


 右腕に魔力で構成された輪が出現した。

 エリアが繰り出した拘束(バインド)だ。本来ならばただ拘束するだけだが、彼女は友の絶体絶命の瞬間に、成長の壁を越えていた。


 右腕が動かない。


 そう、エリアは魔法の発動方法を変え、“空間ごと拘束”したのだ。


「無駄だ」


 だが、それも一瞬。すぐに拘束(バインド)が破壊された。

 虚無神の声には呆れの感情が込められていた。



「無駄じゃない」



 閃光のような瞬間だった。

 破壊を司る右腕はディリスへ振るわれることはなかった。虚無神が足元へ視線を落とすと、そこには自身の右腕があった。


「エリアが稼いだ一秒は、無駄なんかじゃないんだよ」


 魔力の粒子となり、消えていく『虚空の右腕』を見ながら、ディリスはそう言った。


「チェックメイトだ」


 天秤の剣を握り直し、ディリスは再び魔力を込める。

 厄介な右腕が消えた。後はエリアとクァラブと協力して、左腕を使われないように攻撃を仕掛ける。


 そこまで計算した所で、虚無神が笑いをあげた。


「見事。矮小ではない人間もいたものだ。しかし、それだけだ。たかがこれだけで我が――虚空と無尽を司る者が沈むなどあり得ない」


 虚無神の四肢が引っ込み、八面体の物体へと形を変える。


 ディリスが対応を検討しようとした次の瞬間、八面体となった虚無神から七色の光が放たれる。


「エリア! ルゥ!!」


 その速度は光速、と言ってもまだ足りない。

 ディリスを以てしても、無防備にその光に呑み込まれる。


 空いた左手は大切な仲間を求め、ただ伸ばしていた。

エリア、ルゥ、どこだ……! byディリス

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