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第十一話 魔弾の本領

 宣言通り、オランジュの攻撃は苛烈な物へと化していた。

 彼女が魔力弾を一発放つ。魔力弾が手近な魔法陣を潜った瞬間、急激に弾速が上がり、エリアへと襲いかかる。

 対するエリアが、


「くっ……」


 なるべく魔力の消費を抑えるべく、防御範囲を最小限に絞った防御魔法で身を守る。

 すると、第二第三の魔力弾がエリアへと襲いかかる。その数は数えることすら億劫になるほど。


 ジャブ代わりの超高速射撃。テンポを崩してからの一斉攻撃。

 実に嫌らしく、効果的な攻め。


 戦闘に対する経験値の違いが如実に出ていた。

 徐々にエリアの表情が厳しいものとなっていく。


「どうしたの? 急に勢いが無くなったわね」


 オランジュが握り拳大の魔力弾を作り、魔法陣へと通した。すると、それが一気に炸裂し、彼女の前方全てを覆い尽くすように広がっていった。


「これは……!?」


 この攻撃の正体は以前、エリアも使用したことがある攻撃魔法、魔力の散弾(スキャター・ショット)である。

 威力、攻撃範囲、弾速。そのどれもがエリアのソレを凌駕している。

 違いすぎて、エリアへ未知の攻撃魔法だという錯覚を与えていた。


「きゃああ!!」


 人は津波の前では無力なように、怒涛の攻めはエリアが地に足をつけることを許さなかった。

 攻撃の勢いに負け、エリアは吹き飛ばされる。防御魔法を展開していたお陰で重大なダメージこそなかったが、それでもこの攻防は彼女の気持ちにヒビを入れるには十二分が過ぎた。


「いい眺めね。私、少しでも魔法が出来ますって奴の自信を折るのが大好きなのよね。……折られるのは大嫌いだけど」


「貴方は……どうして、プロジアさんに手を貸しているんですか?」


 オランジュはエリアをじっと見つめた。

 時間稼ぎの意図は見えない。そんな頭が回るような相手ではないだろう。

 純粋な疑問と受け取ったオランジュは一切の油断をしないように、しかし一時期は興味を抱いた相手に対し、珍しく回答をしようという気になった。


「私、プーラガリア魔法学園を卒業した後は冒険者をやってたの。まあまあ退屈だったわ」


 それを皮切りに、オランジュは語り始めた。


「冒険者ってつまらなくてね。相手からの依頼を受けて、何かを為す。これがつまらない。私は誰に何かを指図されるというのがよっぽど嫌なんだなって分かったわ。まあそれでも生きていくにはそれ相応の物が必要だから、仕方なく常に命をかけられるフリーの賞金稼ぎになったの」


「賞金稼ぎ……」


「常に自分の力量を試せる割りかし良い仕事よ? ……まあ、それである日、ある人物の首を狙おうと仕掛けた。まあこれが異常でね。私がどんな攻撃を放っても真正面から叩き潰された。それであっさり負け。普通ならその時点で私はこの世にいなかった。だけど、あいつは言ったのよ」


「何て、言ったんですか?」


「“力を振るう場所をあげましょう”ってね。あいつは私の飢えを、欲求を見通した。殺しに来た相手を完全に見抜いた上で、そんな事を言ったの。……馬鹿みたいに強くて、馬鹿みたいな事を言ったあいつに興味を持ったの」


「それがプロジアさん……」


「そゆこと。私という人間をちゃんと見てくれたあいつの言うことを聞こうと思った。それだけよ」


 話は終わりよ、とオランジュが口を閉ざした。

 彼女の前に四つの魔力弾が浮かぶ。その一つ一つから放たれる魔力量は今までの比ではない。

 その辺の攻撃魔法を軽く凌駕する威力であることはエリアの眼から見ても、明らかであった。


「さて、そろそろ終わりにさせてもらうわよ。これ以上やっても貴方は防戦一方で私の勝利は揺るがなそうだしね。ボロボロの貴方を見ているのは楽しかったわ」


 実際、度重なる攻撃でエリアの魔力は減り、服もボロボロだった。

 そこで繰り出されるのは絶対的な一撃。


 控えめに言って、敗戦濃厚。


 だと言うのに、


「……オランジュさん。私がやられるか、オランジュさんがやられるか、まだ決まってはいませんよ」


 エリアの眼には一切の諦めはなかった。

 彼女は知っている。これほどの状況になってもまだ諦めようとしない人間を。

 彼女は見ている。頭と肉体をフル回転させ、なお目の前の“絶対”に食らいつこうとする人間を!


「……ディー、私に勇気をくれないかな」


 小さく呟くは大事な人の名前。

 どんな時も優しく、そして厳しく、強い。

 彼女に出会ってなければ自分はもうちょっと違う人間になっていただろう。

 小さなトゲを抱え、いなくなった父親をいつまでも追いかけ続ける人間に。


「すぅーはぁー」


 深呼吸一回。

 不安を吹き飛ばした彼女は右手を横に伸ばし、魔力の放出を開始する。


「へぇ、何をする気かしら? 何をやっても無駄よ無駄」


「無駄じゃないです。私はまだ負けていませんから」


 エリアはありったけの魔力を拳に集中させていた。そして、両足に魔力を回し、強化する。

 これから始めるのは一世一代の大博打。

 しくじったらそのまま死亡。しかし成功すれば一発逆転。


「何をする気か分からないけど、近づく前に倒させてもらうわよ!」


 四つの魔力弾が重なり、放たれるは全てを薙ぎ払う魔力の奔流。

 飲み込まれることはそのまま死を意味する死の光を前に、エリアは臆すること無く駆け出した。


「私が! 倒します! オランジュさんを!」


 魔力の奔流が無慈悲にエリアへと迫る。

 それでもなお、エリアは走るのを止めなかった。

怖くない怖くない……。私は、絶対に勝つ! byエリア

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