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第六十二話 示されたのは決戦の地

「と、まあこんなところですね」


 突きつけていた剣を下げたプロジアは両の剣を鞘に収め、そのまま背中を向ける。


「……どういうつもりだ」


 地面に落ちていた目隠しでまた目を塞ぎながら、彼女は言う。


「私は最初から貴方とここで殺し合う気はないということです。もっとふさわしい場所がありますからね」


 自分が逆の立場なら迷わず殺している。

 そして、今後もそれは変わらない。


 それが分かっているというのに、彼女はそんな危険の芽を摘もうとしない。


 何故か、それは分かっている。


 “いつでも”殺せるということの自身の表れ。


「ふざけるなよ……もう一度やるぞ、今度こそ殺してみせる」


「ハルゼリア大神殿」


 ハルゼリア大神殿、突然出てきた単語に、思わず身体が止まってしまったディリス。

 黙って続きを促すと、プロジアはこう言った。


「私はそこで虚無神を蘇らせ、そしてディリス。貴方がほんの少しも手の届かない領域へとたどり着きます。今更逃げる、だなんて思ってはいませんが、待っていますよ」


 歩くプロジアを後ろから斬りつけたかったディリス。しかし、その足は動かず。

 オランジュとアズゥがじっとこちらを見ているのだ。


 もし、少しでもプロジアの身に危険が及ぼうものなら、迷わず攻撃する。そんな意志を込めて。


(ちっ……動けよ、私の身体。今が楽に殺せる最後のチャンスかもしれないんだぞ……)


 だが、それは不幸中の幸いだったのかもしれない。

 ロッソ、そしてプロジアとの連戦で負ったダメージは自分が思っている以上に、深くのしかかってきている。


 無理を通すのはまだ早い。


 悔しいが、この瞬間だけ、ディリスは“敗北”を受け入れることにした。

 次はない。次は殺す、絶対に殺してみせる。


 噛んだ唇、そして握った拳から血が流れているのにも気づかず、ディリスは必死に心を落ち着かせていた。


 プロジアが『魔刀鳥(まとうちょう)ヤゾ』まで辿り着いた時、アズゥがとある方向をじっと見つめていることに気づいた。


「アズゥ? どうしたのですか?」


「あれが……」


 アズゥの視線に気づいたルゥが見つめ返す。


「……あれ? どこかで会ったことが……」


「アズゥ、あなたのこと、嫌い。私はあなたより、優秀だから、絶対に倒す」


「え……私をっ?」


 図らずも、これが『宿命の子供達(フェイトチルドレンズ)』のファーストコンタクトなのであった。

 だが、ルゥはアズゥのことは知らない。初めて会うはずなのに、言いようのない既視感。シンパシーと言っても良い。妙な親近感を感じてしまうのだ。


 対するアズゥ、ルゥはよく知っていた。よく、知りすぎていた。


「あなたのせいで、アズゥ達はひどい目に遭った。だから、倒す」


「もしかして、貴方は私と同じ……?」


「知らない」


 それきりアズゥはそっぽを向いた。纏う敵意は一切変わらず。

 そんな彼女の様子を珍しげに見る者が一人。


「へーアズゥがここまで敵意見せるなんて珍しー。ね、そう思わないエリア」


「オランジュさん、私たちは戦わないという選択肢は無いのでしょうか?」


「無い」


 オランジュは即答する。

 当然だろう、といった風に手をプラプラとさせながら、続きを語る。


「私自身はあんた達に何も恨みは無いわ。だけど、私の雇い主様とも言えるプロジアが《蒼眼(ブルーアイ)》を、貴方達を倒せ、と言ってるの。だから私はやるわよ。それだけの義理があるしね」


「どうしても、止めてくれないんですか?」


「ええ。ただまあ、次は私の本気を見せる。その本気を乗り越えた先に、あんたがまだ生きていて、その安っぽい正義感を振りかざせるってんなら、聞いてあげても良いわよ」


 冷たい視線が、エリアへ突き刺さる。

 敵意を多分に込めた、特別な視線だ。


 じっと受け止めるエリアを見て、オランジュはふっと鼻で笑った。


 我ながら大人げないと思った。

 確かに魔法の腕は目を見張るものがある。だが、それだけだ。


 彼女には覚悟が足りない。

 色々と、だ。

 適当にビビらせたことに満足したオランジュは会話を打ち切ろうとしたその時、


「分かりました。じゃあ本気の貴方に、私が勝ったら、お話を聞いてもらいますからね。絶対に」


「は……はは、あんた良い眼になったんじゃない?」


 臆さず、エリアがそう言いきった。

 その瞬間、オランジュはエリアを見る目が変わった。


 ただの虫の一匹から、一人の倒すべき敵へ。


「良いわ。じゃあ私が思い知らせてあげるわ。ただの天才が、超天才に敵うわけないってことを教えてあげる」


「オランジュ、だいぶ熱くなったんじゃないですか?」


「まあね、私も少しは張り合い出てきたって感じするわ」


 『魔刀鳥(まとうちょう)ヤゾ』が高く舞い上がる。

 その上昇速度は凄まじく、もはや手が届くところにはいなかった。


 魔刀鳥が大きく(いなな)き、羽を大きく振り上げる。

 一度だけ振り下ろすと、既にその場には居らず、圧倒的な速度で離脱したことを否が応でも思い知らされる。


「……ねぇ、フィアメリア」


「何ですかディリス?」


「私は負けたのかな?」


「死んでないもの、まだ負けていませんよ」


「だよね、良かった」


 ようやく少し動けるようになったディリスは天秤の剣を杖に立ち上がる。

 視線は上空へ。


「行くのですね」


「もちろん。あいつを放ってはおけない」


「ええ、そうですね」



「私はまだ負けていない。だから、次は勝つ。死ぬまで戦って、絶対に、勝つんだ」



 プロジアが告げるは最終決戦の地。

 自らが受けた敗北の屈辱。


 この瞬間、ディリスはそれを飲み干しきった。


 ならば、後はどうする?


 そうだ、自らの命が尽きるまで、死ぬまで、プロジアを追い続けるのみなのだ。


ハルゼリア大神殿、そこでプロジアが待っている。 byディリス


次回から、最終章となります!

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