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第七話 白銀の少女

 ――神様っているのかな。


 銀髪の少女ルゥ・リーネンスは息が切れ、身体が動かなくなりそうになりながら思っていた。


 ただ、理解出来ていたのは揺られる馬車から飛び出さなければ自分は今頃どうなっていたか分からない、ということだけ。


 だから走るのだ。ただ、走るのだ。


 例え、武器を持った大人が相手でも力の限り。


(もう……無理、だな)


 比喩表現抜きで、もうルゥの体力は限界を超えていた。


 所詮は小娘の体力なのだ。屈強な、ましてや戦闘が仕事の傭兵から逃げるのは不可能である。


 ルゥへ男たちの手が迫る。


 あと少し、もう少し――。


「そこの人たち、止まりなさい!」


 眼前に立つ黒みがかった赤髪の女性と桃髪の女性が、ルゥはやけに神々しく見えてしまった。


「何だ貴様ら? 邪魔立てするなら痛い目を見てもらうぞ」


 そんな二人組に対し、追手の代表である男が鋭い眼光を放つ。


 二人対四人。人数絡みても、圧倒的不利だというにも関わらず、二人は臆さない。


「痛い目? こんな往来で大勢で一人の女の子を追い回す貴様らの末路の事か?」


 長年の経験から、すぐに傭兵だとディリスは察する。それも割と腕利きばかり。


 それが四人も動員されていることの意味を推察しようとしたが、ディリスはまず目的を達成することにする。


 これ以上、埒が明かないと判断した傭兵の一人が剣を抜き、ディリスとエリアへ向かってくる。


「殺意を伴って向かってくるならぶっ殺しても良いってことだよね?」


「ディー、駄目だからね?」


「じゃあ四分の三殺し」


 剣と天秤の剣がぶつかる。初太刀で深手を負わせるつもりだったが、流石は腕利きと言った所だろう。

 だが、それだけだ。


 傭兵の剣が再び迫るが、腕を斬りつけ、怯ませたところでディリスの眼光は傭兵の首へ。


 しかし今回はエリアの言いつけがある。


 適当な部位を斬り刻んだところで、蹴り飛ばして終了。


 余りにも一瞬の出来事だったが、血まみれの傭兵は他の傭兵たちにとって、何よりも説得力のある“脅し”であった。


「この子が命より大事なら掛かってきな」


「……退くぞ」


 逃げ足の良さは良い傭兵の証左である。


 傭兵たちが去っていき、ようやく落ち着いたこの状況。そうなればまずやることがある。


 エリアが銀髪の少女へと顔を向ける。


「大丈夫だった?」


「私……たすか……」


 極限状態から解放された子供はどうなるのか、答えは明白である。


 倒れる少女へエリアは手を伸ばした。



 ◆ ◆ ◆



「……ぅ」


「エリア」


「あっ、起きたんだね!」


 銀髪の少女・ルゥは自分の置かれた状況を理解出来なかった。


 暖かいベッドの上、見守っていたのは先程助けてくれた赤髪の女性と桃髪の女性。


 お盆を片手に持っていた桃髪の女性が近づいてくる。


「起き上がれる? あと、これ食べれる? お粥」


「ありがとう、ございます……」


 ゆっくりと起き上がり、ルゥは部屋を見回す。小さく、簡素な部屋。だが、自分のいた所に比べればとてもマシに感じた。


「私はエリア・ベンバー。で、あっちの短剣使って布の塊をお手玉しているのはディリス・エクルファイズだよ」


「エリアさん……ディリスさん……」


「貴方の名前は?」


「私は……ルゥ。ルゥ・リーネンス、です」


 おっかなびっくり、といった様子で自己紹介するルゥ。

 それに対し、エリアは笑顔を崩さない。


「そっか! ルゥちゃんだね! よろしく!」


「あの、助けてくれてありがとうございます……」


「何で追われてたの?」


「ちょ、ディー! 順序があるんだよこーいうのは!」


 ルゥは逡巡する。素直に助けを求めても、良いのかどうか。

 口を開くが、言葉を発せない。そんなルゥの手をエリアはそっと握る。


「大丈夫だよ。ゆっくりでいいから。ルゥちゃんが喋りたいときに喋って良いから」


 エリアの笑顔を見て、ルゥは決心する。


「私……実は……」


 つっかえつっかえ彼女は喋りだす。自分の身の上、そして今までどんな扱いを受けていたのか。全部全部。


 その内容はディリスとエリアの想像を超えていた。


「人体実験か。エリア、思った以上の当たりクジを引いたね」


「何それ……何それ!? 誰がそんなことを!?」


「……それ、は分からないんです。ごめんなさい」


 ルゥ自身もよく分かっていなかった。

 そこで、ディリスはルゥを指差す。


「私は魔力の扱い下手だから読み取りきれないけど、エリアならルゥの、特に魔力について何か感じられるでしょ?」


 ディリスの言葉に促され、エリアはルゥをじっと見る。そして、感じた。むしろどうして今まで気づかなかったのか。


「えっ!? この魔力量……何? すごい……」


 自分で意識的に制御しているのかは分からないが、近くにいて初めて感じる膨大な魔力量。


 エリア自身、魔力量が多いほうだという感じていたが、ルゥを目の当たりにするとそれはただの思い上がりだったと思わされる。


 十人掛かりで魔力を注入することで動く魔法仕掛けの道具があるとして、ルゥはそれを一人で賄う事が可能な、そんな量。


 魔力とは、自らの生命力や意志の力、そして世界に満ちる力が複合された存在である。故に、その量や質は先天的な才能による所が大きく、訓練で力を伸ばすことには限度がある。


 だからこそ、まだ十代のルゥがこれほどの魔力量を持っていることは異常なのだ。


「多分、私達はもう答えを知っているはずだよ」


「答え……? あっ」


 思い出すは、先程の酒場での一幕。


 そうだ、確かにそんな話を聞いていた。

 

 人間の魔力量を増大させる研究。

 

 そして、それを行っているとされる人物とは――。


「プラゴスカ領の領主アーノルド・プラゴスカの弟、ルドヴィ・プラゴスカ。少なからず一枚噛んでいるはずだ」


 まさかの人物に、エリアは思わず息を呑む。

神様って、本当にいるんだね。 byルゥ

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