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第六十一話 意志の力

「ディリス、色々お待たせしましたね」


「何を? 殺してくれることをか?」


 事態は硬直していた。

 エリアとルゥを除き、この場にいるのは皆一流揃い。

 下手に動けば、どちらかが死ぬまで戦うことになるのは目に見えていた。


 だが、ディリスはそんなことは関係なかった。

 最速で動き、最速で殺す。


 それだけだ、あとは何も要らない。


 斬りかかろうとした時、フィアメリアがそれを止めた。


「ディー、今はその時じゃありませんよ」


「止めるなよフィアメリア。私は今ここで――」


「周 り を 見 な さ い。今ここで開戦することがどういうことかを」


 言われなくても、分かっていた。

 ここで戦えば、この教会が崩壊する。それはそのままエリアとルゥに危険を及ぼすことを意味して。


「ディリス、そろそろ貴方とは決着をつけようと思っています」


 ちらりと、プロジアはルゥを見てからこう言った。


「ですがまあ、今の貴方の状態を確かめるのも必要ですかね?」


 『魔刀鳥(まとうちょう)ヤゾ』の背から降りたプロジアは、左腰から剣を抜いた。

 その剣の刀身には天秤の刻印が施されていた。

 そして、もう一本。右腰から左手用短剣(マンゴーシュ)を引き抜く。その柄にも天秤の刻印が刻まれていた。


「良くも私の前でその短剣を出せるな」


 蒼い眼光はプロジアの左手へ向いていた。

 忘れもしない。その左手用短剣(マンゴーシュ)のことだけは!


「貴方とやり合うなら、このコルステッド愛用の左手は欠かせない物かなと思いまして」


「貴様ァ……」


「三手。三手だけ、貴方に付き合ってあげます。オランジュとアズゥ、手出しは無用ですよ」


 オランジュとアズゥはそれぞれ頷く。


「分かってるわよ。というか、間に入ったら《蒼眼(ブルーアイ)》に殺されるだろうし」


「プロジア、がんばって」


 そして二人は、エリアとルゥ、そしてフィアメリアへと顔を向けた。

 誰からも邪魔が入らないようにするためだ。


 対するフィアメリア、細剣を握り直す。

 そして思考を始める。


(……あの二人を殺してから、ディリスの助けに入りましょうかね)


 自分の速度ならば、この程度の距離は瞬きをする間に詰められる。

 即刻、頸動脈を撫でて、そして返す刀でプロジアを背後から仕留める。


 フィアメリアがプランを立て終わった直後、オランジュは魔法を発動させる。


「『防壁(プロテクション)』。あんたのやりそうなことは分かっているのよフィアメリア」


「あらら、もっと早く仕掛けていれば良かったですね」


 パッと見、破壊することは不可能では無さそうだ。

 しかし、一撃で破壊しなければ、オランジュからの手痛い反撃は目に見えていた。


 それでもフィアメリアは細剣を握る手を緩めない。

 一瞬でも動きがあれば即、仕掛けられるように。


 彼女は駆け出すディリスへと視線を向けた。


「プロジアァ……!」


 初手から全力。

 一直線に駆け出すディリスは、剣の間合いに入るか入らないかの距離で、身体能力強化魔法発動した。

 魔法は下手くそなので、効果時間は一瞬だが、ディリスにとってはその一瞬があれば十分だった。


 ワンテンポ早く懐に入り込んだディリスはそのまま剣を真横に振るう。


「反応が遅れてしまいましたね。まずは一手」


 左手用短剣(マンゴーシュ)でびたりと止められる。そこで終わらせはしない。

 即座にディリスは跳躍し、身を捻ることでプロジアの背後を取った。

 まだプロジアは振り向いていない。


 その隙を逃さぬディリスは己の持ちうる技術を全て使い、突きを放つ。


 切っ先が触れる刹那、プロジアの身体が一瞬だけブレた。


「二手」


 別に刀身がすり抜けた訳ではない。紙一重のタイミングで身体を動かし、天秤の剣の切っ先を避けたに過ぎない。

 そのまま、ディリスは後腰の短剣へ手をかけ、プロジアの首目掛けて、刃を走らせる。


 その時、ディリスは確かに見た。プロジアから滑り落ちるように離れていく目隠しを。


 短剣に合わせられた新緑の輝きを持つ瞳を。


「最後、三手目」


 短剣を覆っていた新緑の輝きを持つモヤが爆ぜた。

 結果、短剣こそ破壊はされかなかったものの、ディリスは距離を取ることになってしまった。


 これがマズい。


 目隠しを取ったプロジアに距離を取るということがどういうことなのか、ディリスは非常に良く理解していた。


「私の視界には貴方がよく映っていますね」


「視界に入っている任意の物を爆発させる魔眼、か。対処法を考えてきていないと思ってるならさっさと死ねるぞ」


「今回はこの眼は使いませんよ。今の私の力を、貴方は正確に理解する必要があると思いますからね」


 すると、プロジアが剣を前に突き出し、目を閉じた。

 次の瞬間、ディリスは己の目を疑った。


 精神集中する彼女の身体から、魔力や闘気が渦巻き、そして収束している。


 これはそう、ディリスがロッソとの戦いで感じた状態である。


 本能が危険信号を告げる。

 だが、一手遅かった。


「私は一枚壁を突破しました。この力、『ウィル・トランス』によって」


「『ウィル・トランス』、だと……?」


「はい。このように――」


 いつの間にか、間合いに入っていたプロジア。

 彼女はまるでチャンバラでもするかのように適当に剣を振り抜き、ディリスはそれを防ぐ。


 気づけばディリスは教会の壁に叩きつけられていた。


 防御ごと吹き飛ばされたのだと気づいた時には、既に新緑の輝きを放つモヤがディリスの全身を包んでいた。


「貴方を圧倒する事が出来る程度には」


 強烈な衝撃で、頭がクラクラする。

 背中も痛い、彼女の攻撃を防いだ腕は痺れており、回復には時間がかかる。


 負けられないのだ。死ねないのだ。


「ふざ、けるなよ……私はまだ圧倒されていない」


「折れないのですか。やはり良い根性していますよ貴方は」


 新緑の輝きを放つモヤで全身を捉えられ、おまけに眼前へ剣の切っ先を突きつけられている。

 冷静にその状況を見ると、既に詰んでいる。


 睨み仰ぐディリス。

 微笑み見下ろすプロジア。


 勝負は呆気なく決まった。

この瞬間だけかもしれない。ですが、私はディリスを乗り越えた。 byプロジア

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