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第五十九話 瞬斬抹殺。駆け燃え尽きる狂剣――“赤の矢”

 もはや廃墟と化した教会で、死闘の火蓋が切って落とされた。

 殺人者ディリス対殺人鬼ロッソ。

 似ている二人の聖戦とも呼べる殺し合いは、酷く淡白な内容となっている。


「はははははははは!!!」


 ディリスはひたすら迫りくる斬撃を防いでいた。

 少しでも喰らおうものなら、ごっそりと肉を削られるようなそんな重く深い一撃。


 冷静に対応し、そして攻撃動作の隙を突き、ディリスは的確に反撃を行っていた。

 太い血管を削ぐような鋭い反撃。これを嵐のような猛攻の中で行っているのだから、ディリスの動体視力と殺意が伺える。


 それだというのに。


 ロッソは笑っていた。心の底から楽しそうに。

 彼が攻撃するたび、彼の身体には刃が走り、血が流れていく。

 だが、死んでいないのは何故か。


 答えは単純。


 致命傷をもらっていないからだ。

 正確には、ディリスが斬る寸前に最低限の回避動作のみ行い、軽傷で済ませているから。


 普通の人間の、普通の反応として、自分の身体が傷つけば、それ相応の反応がある。

 例えば、身を強張らせたりなどが考える。


 だが、ロッソにはそれがない。


 いくら斬られても、いくら突かれても、ロッソは一切顔色を変えるどころか、攻撃の手を緩めない。


「へははははは! 楽しいよなぁ! なぁ《蒼眼(ブルーアイ)》!? この殺すか殺されるかの僅差! 判断をミスればあっという間にお釈迦様になっちまう刹那! 目の前の相手の全てを食い尽くそうとするこの飢餓感! これだからツエー奴との殺し合いは止められねぇ!!」


「口数多くなってきたな。疲れてきたんじゃないのか?」


 振るわれるロッソの左腕目掛けて繰り出される刺突。

 カウンターとしては最高峰。怪我の具合にもよるが、勝負ありとも言える一撃。


 しかし、その程度でロッソは終わらない。


「ぜんっぜん!! アドレナリンちゃんドパドパよ!」


 突き刺された腕の筋肉を引き締め、たやすく抜けないようにしたロッソは、そのまま右手の剣でディリスの首を取りにかかる。

 意表をついた攻撃。

 しかし、これは生憎とディリスの想定内。


 彼女は後腰の短剣へ手をかけた。


「うぉっ」


「返してもらうよ。大事な剣なんだ」


 ディリスはそう言うと共に、天秤の剣が刺さっている場所へ短剣を突き立て、強引に捻ってやった。

 少しだけ“開いた”筋肉、その一瞬を見逃なさかったディリスはそのまま天秤の剣を引き抜いた。


 一旦距離を取るディリス。

 そして、大きく裂かれたコートの右肩へ目をやる。ぬるりとした感覚が気持ち悪い。

 彼女は、出血が始まった右肩の様子を確認し、戦闘に支障なしと判断を下す。


 命より剣を重視した代償なのだから、この負傷は当然。


 一度深呼吸をし、リズムを整える。

 オカルトも絡んでいるが、少し危ないなと思った時には深呼吸をするのが、ディリスの戦闘に対する考えの一つである。


「なぁ《蒼眼(ブルーアイ)》さんよ」


「何だ? 降参して首差し出すつもりなら、喜んで斬首してやるぞ」


 割と、本気が込められている。

 千日手、とまでは言わないがロッソの異常とも言える耐久力と攻撃力は、奇しくもディリスとほぼほぼ互角。

 そして、単純に手数の差でこのままでは、ジリ貧。


 あともう一手、覆せる何かがあればいいのだが。


「ばっか、そんな眠いこと頼む奴がいるのか?」


「なら無駄口叩くな。さっさと貴様を殺してプロジアを殺さなきゃならないんだ」


「そいつは出来ねえよ。プロジアは俺が殺す」


 ぴくり、とディリスの眉が動いた。


「プロジアの奴ともう一度ガチで喧嘩してぇ。この『六色の矢』? に入っているのだってそのためなんだよ。俺はあいつを殺すために今こうしているんだよ!」


 ここまで同じとは思わなかった。

 しかし、根本的な所は違うのだ。


 そして、ロッソは再び襲いかかる。


「俺はこの命を完全燃焼するために生きてんだ!! お前もだろうが!! 俺たちは同類だよ!!」


「同類、か」


 ディリスも応戦するため、駆けていた。

 ロッソの剣に対応するよりも、彼女は今、自分の身体に起こっている異変について、考えを巡らせていた。


 エリアの事、プロジアの事、そして殺しの事。


 色んな感情を叩きつけられ、冷静になろうとしている内に、ディリスは何だかどうしようもなく身体の内側から力が湧いてくるのを感じていた。

 この力の正体が何なのか、ディリスには分からない。


 だが、今は少しでも力が欲しい。


 思うままに、感情を、剣を、振るうことにした。


「こいつ急に雰囲気が……!」


 袈裟斬りを狙うディリスに対抗するように、ロッソは両の剣をそれぞれ振り下ろした。

 文句なし、単純に、どちらが速いかの一本勝負である。


 ロッソは互いの剣を見やる。

 腕の角度、脚の踏み込み、身体の捻り、それら全てを総合して計算し、剣速を導き出す。

 その結果、僅差で己の勝利。


 これくらいの斬撃ならば、そのまま受ける。受けて、耐えるだけ。


 必勝の思いで、ロッソはそのまま攻撃を続行する。



 交差する剣。



 その瞬間、勝負は決まった。




 剣と剣が触れる。





 一方の刀身が砕け、そのまま刃は相手の身体へ深く抉り込む。






 そして、陥落。






 立っていたのは――、






「殺しというテーマで、敗北は許されないんだよ――私は、ディリス・エクルファイズは」





 ――《蒼眼(ブルーアイ)》。

……。 byディリス

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