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第五十四話 敗北

 もう少し早く反応できていたら。

 腹部に走る冷たい感触に気持ち悪くなりながら、ディリスはそう振り返る。


 剣を抜いたロッソが自分の剣を拾ったあと、両手で顔を隠した。


「ばっかやろうが!! 俺はこういう倒し方をしたいんじゃねぇんだわ!!」


 ポケットからサングラスを取り出し、着用したロッソはディリスの側にいるエリアへと目をやる。


「ディー! ディー! しっかりしてよ!」


「おい桃髪のあんた」


「何ですか!? 今、それどころじゃないんです!」


 怯えているかと思えば、キッと睨みつけるその豪胆さ。

 ディリスと、エリアへ視線を交互にやったロッソは一つ案を思いつく。


「おいあんた、ちょっと俺と来てもらおうか。こんなのは勝ちじゃねえからな」


「っ!? 離してください!」


「そこの銀髪の嬢ちゃん、それとパールス。お前ら、《蒼眼(ブルーアイ)》が起きたら言っとけ。違う場所と、形でケリをつけるってな」


「起きたら……!? あ、ああ貴方が今、ディーさんを刺したからディーさんはきっと……!」


「ばぁか。死なねえように刺したから絶対起きてくるぞそいつ。まぁ回復したらお手紙寄越してやるから期待して待っときな」


「ま、待って! ディー! ルゥちゃん! 私は行きません!」


「ちっ。うるせぇな。――っと、よし。じゃあ俺は行くわ。さっさと起きろよ《蒼眼(ブルーアイ)》」


 エリアを気絶させ、肩に担いだロッソはそのままどこかへと飛び去っていった。

 ただ見ているだけしか出来なかったルゥの頬は既に涙でびしょ濡れである。


 エリアも気になる、が最優先はディリスの容態。


 素人のルゥが見ても、明らかに重症。


 こんな時に、エリアみたいに回復魔法が使えたらどんなに良かったことか。


「下がって、ください」


 パールスがディリスの腹部へ手を翳すと、暖かな光が放出する。

 その光が患部へと流れ込むと、徐々に出血が収まっていく。


「パールスさん、それは」


「『癒しの光』です。エリアさんみたいに何度も使えるわけではありませんが、それでも傷を塞ぐくらいは使えるでしょう」


 荒かったディリスの呼吸が戻っていく。

 それを確認したルゥはとりあえず安堵に包まれる。


 だが、いつまでもこうしてはいられない。


 ちゃんとした場所で、ちゃんとした治療を施してもらわなければならない。


「私が運びましょう。この距離ならば、パナリアに戻った方が良い」



 そう言いながら、パールスはディリスへと手を伸ばす。



「いえ、その必要はないです。貴方の役目は終わりましたよ《月光のパールス》」 



 伸ばした腕とパールス自身の首に細剣が突きつけられていた。

 ルゥはその細剣に見覚えが合った。


「ここからは私の領分です。貴方は早くどこかへ消えることをオススメします。そうでなくては――私は貴方を殺すかもしれない」


「……《音速のフィアメリア》ですか。とんだ大物がやってきましたね」


 いつもはニコニコしていたフィアメリアの顔が無表情であった。

 だが、細剣に込められた殺意は濃厚で。


 パールスとルゥ、そしてフィアメリア。


 このあまり見ない組み合わせは、非常にギスギスしていた。



 ◆ ◆ ◆



 暗闇に、誰かが立っていた。

 モヤが掛かって顔が分からない。

 そんな人影が、ディリスへ言う。


 ――油断でもしていたか?


 そんな訳がない。

 いつも自分は最速で、効率的に、殺している。


 ――じゃあ、お前は何でやられた?


 エリアを助けたかったから。

 そんな当たり前のことを聞くな、とディリスは返す。


 ――当たり前、か。お前はいつからそんな事を考えるようになった?


 一瞬だけ、ディリスは言葉に詰まった。

 今の発言を振り返ると、確かにおかしく感じた。


 ――前までのお前は、鉄血で冷血だったな。そんなお前がこうして誰かを助けてやられるとは。


 今までの自分だったら、恐らくエリアを見殺しにした。

 そしてその代わり、ロッソを確実に仕留めたであろう。

 やはり自分はおかしいのだ、とディリスは結論づけようとする。


 ――お前を知る者はおかしいと思うのだろうが、私はお前のその変化を――――。


 待て、とディリスは手を伸ばした。

 そして無意識にこう呼んでいた。


 コルステッド、と。



「エリア!!」



 途端、意識が覚醒し、ディリスは上体を起こした。

 服は脱がされ下着姿になっていた。腹部を見ると、包帯ががっちりと巻きつけられている。


 周りを見ると、どこかの宿屋の一室であることが分かる。

 誰かがここまで運んでくれて、そして治療をしてくれたのだと考えるのが自然。


 だが、一体誰が。


「ディーさん! 起きたんですね!? よか……! 良かったですぅ……!!」


 扉を開いたルゥがディリスの無事を確認すると、その場で崩折れる。

 わんわんと大きな声を出して泣き始めたルゥをどうしようか困っていると、彼女の背後からこれまた珍しい客が顔を覗かせる。


「お早いお目覚めですねディー」


「フィアメリア……どうしてあんたがここに」


「まあ、色々ありましてね。とまあ、起きたのなら早速、貴方の傷を癒した彼女にお礼でも言ってください」


「彼女……って誰?」


「何とか生きていたみたいですね、《蒼眼(ブルーアイ)》」


「パールス、お前が私を?」


 すると、パールスは少し顔を背けながら、こう返した。


「これで借りを返しましたからね。次はありませんよ。それでは」


 足早に去ろうとするパールスをディリスは引き止める。


「何ですか? 敗者である私としては一刻も早くこの場から離れたいんですが」


「ありがとうパールス。この礼は、どこかでするから」


「……貴方という人を、少し誤解していたようですね」


 余りにも真っ直ぐな瞳に、視線を合わせている方が恥ずかしくなる。

 パールスは返事もせず、手だけ振って、今度こそどこかへと去っていった。


「さて、ルゥにフィアメリア。早速話してもらおうかな。私が眠っていた間に何があったのかさ」


 今にも爆発しそうなロッソへの怒りは一先ず海の底に沈め、ディリスは努めて冷静にそう問うた。

ディーさんが元気になって、良かったです本当に! byルゥ

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