表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/96

第四十九話 最初で最後のお付き合い

 パナリージュ領の中心都市『パナリア』。

 パールスの後に続き、やってきていたのは食堂であった。

 どこかの高級料亭でもない、本当にただの大衆食堂。


 木造の古さを感じる扉を開いた先には、色んな人がいた。

 冒険者、主婦、大工、様々である。


 そんな中をパールスは進んでいき、そして用意されていたとばかりに丁度空いていた席まで辿り着いた。


「座りましょ。ここの定食は美味しいんですよ」


「……本当にご飯食べにきただけなの?」


「ええ」


「……実はここで食べている皆、パールスの所の元部下だったりすることは?」


「私にそれほどまでの人望はありませんよ」


 嘘は言っておらず、最初から最後まで本気のパールス。

 控えめに言って、ディリスは一瞬目眩が起きた。


 店主と親しげに話した後、パールスは“いつもの”を四人分頼んだ。


 手慣れた仕草で四人分のコップに水を注ぎ、それぞれに割り振っていく。


「あ、ありがとうございますっ。エリアさん、私こういうところ初めてきました!」


「そっか、ルゥちゃんこういうところ初めてなんだね。確かプーラガリアにもこういう店あったはずだから今度皆で行こう!」


「やったー! 嬉しいです!」


 エリアとルゥの会話を見ていたパールスは微笑んでいた。

 そんな彼女へディリスは一瞬たりとも目を離さない。


「どういうつもりなの? 私たち、殺し合うんでしょ?」


「だからこそ、ですよ。私は手を抜くつもりはなく、貴方も手を抜くつもりはないですよね?」


「当然」


「一度始まってしまえば、後はどちらかが倒れ伏すのみなんですから、これくらいは良いでしょう。最初で最後のお付き合いです」


 基本、目の前の相手を即、斬殺していたため、そういった感情を抱くことは一ミリもなかった。

 それだけに、ディリスは彼女の言うことが酷く新鮮に聞こえてしまって。


 話している内に、定食がやってきた。

 ご飯と、種類は分からないが魚の煮付け、それに味噌汁。オマケに葉の漬物。

 シンプル、だが、美味しそうだ。


「食べましょうか。ここは私が持ちます。特に《蒼眼(ブルーアイ)》、貴方はちゃんと食べてくださいね。お腹が減って殺されました、なんて言わせませんので」


「それはご心配をおかけしているね」


 食事に手を付けながら、パールスは言った。


「ここパナリアを出て、少し南下をすると、ちょっとした平原があります。明朝、そこで剣を交えたいと、そう考えているのですが、いかがでしょうか?」


「どこでも良いよ、私は。殺し合えるならね」


「ありがとうございます。エリアさんとルゥさんも来るとは思いますが、その時は立ち会いをお願いしてもいいでしょうか? もちろん、危害を加えるつもりはありません。私の狙いは《蒼眼(ブルーアイ)》だけなので」


 答えに迷っているのを察したディリスは米を口に運びながら、言う。


「二人には選ぶ権利がある。私を見届けてくれるか、それとも私の必勝を祈っていてくれるか、ね」


 すると、エリアとルゥは声を揃えてこう返した。


「「行きます」」


 ディリスの手を握りながら、エリアが言う。


「私は決めたの。ディーを絶対に一人にはしないって。ずっと一緒にいるんだって」


「わ、私もっ。ディーさんとエリアさんから絶対に離れたくないです!」


 ルゥがそれに続く。

 ディリスはそんな二人を見て、呆れたように、だけど少しだけ嬉しそうにしていた。


「良い仲間ですね。羨ましい限りです」


 そんな三人を見るパールスの表情は曇っていた。

 彼女にとって少し、否、かなり眩しい光景だったから。


「さて、私は食べたのでお先に失礼します。お代はもう払っておいたので、帰る時は店主に一声かけてください。では――」


「パールス」


 去り際、ディリスはパールスの方へは顔を向けず、言葉だけ向けた。


「ご馳走さま。奢ってくれたことに関しては、礼を言う。この感謝は刃に乗せてきっちりと表明させてもらうから」


「ええ、逃げるとは考えていませんが、そう言ってくれると飽きずに待てそうです」


 そしてパールスは去っていった。

 彼女を見送るエリアの目は悲しみを帯びていた。


 そんなエリアになんて声をかけようか、ディリスは悩む。

 悩んで、出たのが結局こんなことである。

 

「私は今日のことは忘れない。これから先、どんなことになったとしても、ね」


「ディーに戦うな、なんて私は言えない。だけど、これだけは言わせて。……生きていてね、絶対に」


「ん。努力する」


 《月光のパールス》の実力は隣領の自分の耳にも届いている。

 基本的に興味のある人間のことしか覚えないディリスがこうして覚えている事自体、強さの指標でもある。

 どんな事情があって、完全実力主義で団長が決められるあの『聖雷騎士団』に席がないのか。


 疑問は尽きることはない。


 だが、それは今考えても、全く仕方のないことである。


 聞きたければ聞くし、刃を交えることで、勝手にその背景が浮かび上がることだってある。


 故に、ディリス・エクルファイズは悩まない。

 何せ、自分のやるべきことをやっていけば、自ずと答えは見えてくるのだから。


 今までも、そして、これからも。

ああ、そうなんだ。私はいつでも変わらない。目の前の相手を斬るだけだ。 byディリス

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ