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第四十八話 強者のスメル

 クラルドの森の激闘を遠くから眺めている影あり。


 その者、細身ながら非常によく絞られた肉体を持つ鮮血のような長い赤髪を持つ男であった。

 サングラスで目元は分からないが、明らかにギラついている表情。それに合わせるように、ノースリーブのインナー、そしてワイドパンツと動きやすそうな服装に身を包んだ彼はまさに戦士といって差し支えない。


 彼の超人的な視力が捉えているのはただ一人。


 その眼を蒼く輝かせ、淡々と殺しを行う女のみである。


 男、その場で深呼吸をする。

 この世界全ての酸素を取り入れるが如く。


 恍惚に、そして獰猛に、彼は笑顔を浮かべた。



「良いねぇ……やっぱ強者のスメルはたまらねぇ」



 すぐにでも飛び出して行きたかった。

 そして、血湧き肉躍る殺し合いを思う存分味わい尽くしたい。


 しかし、そんな彼を紙一重で食い止めているのは他でもないプロジアであった。


「どうですか? あれが《蒼眼(ブルーアイ)》ですよ」


「サイッコーだわ。何アイツ? ここまで殺気ビンビン感じてくるんだが? 真正面から受けたら俺、多分それツマミに酒飲めるわ」


「そうですか、お眼鏡にかなうようで安心しましたよ」


「あったりまえだろ。テメェレベルがご執心なんだろ? それがもしその辺の雑魚っぱちゃんなら俺は降りてるぜ」


 非常に嬉しそうにしている彼を見て、プロジアは改めて確認を取る。


「では、正式に『六色の矢』の仕事を受けてくれる、ということでよろしいですね」


「ああ、良いぜ。ちょっとお使いしてくるだけであんな最高な女と殺し合えるだなんて、これもう騙されているだろ? ってぐらいには感動しているわ」


「では、頼みます。虚無神の力が封印されている器の一つが、パナリージュ領内にある『ブレシィド要塞』の宝物庫にあるとのことです」


「ほーん。じゃあ二日もらうぞ。それよりも早くは厳しい」


「……一応、あの要塞、相当数務めているということは忘れていませんよね?」


「良いハンデじゃねぇか。じゃあ行ってくるわ。喉乾いたしさっさとぶっ殺しに行かなきゃな」


「ロッソ」


 既に向かおうとしていた男――ロッソ・オーステンの背中へプロジアは言葉を投げかける。


「気をつけてくださいね。あの子は、《蒼眼(ブルーアイ)》は今までの相手とは違いますよ。私とも」


「そーいう事言うなよ。二日って言ったのに、一日で終わらせたくなっちまったじゃねぇか」


 そう言い残し、ロッソは出撃していた。

 孤剣にて、数百人が詰めているパナリージュ最大の要塞を陥落させるために。


 既に気配のなくなったのを確認した後、プロジアは小さく一人言つ。


「ファーラ国内で最も有名で、最も強いとされる殺人鬼ロッソ・オーステン。魔法抜きの単純な白兵戦では『七人の調停者(セブン・アービターズ)』と同格でした。さて、貴方はどう殺してみせますか? ディリス」


 プロジアはロッソと戦った時の事を思い出していた。

 二人目だったのだ。


 ディリス以外で、あんなにも早く“眼”を使うことになったのは。



 ◆ ◆ ◆



 パナリージュ領の中心都市『パナリア』。

 レンガの道、そして家がまず目に入る印象的な街だ。道の真ん中には等間隔で樹が植えられており、色合い的にも目に優しい。


 ここには領主の屋敷があり、そしてギルスの目的地でもある『パナリージュ魔法学園』もある。

 まさにパナリージュ領の中心。


 門番とのやり取りを手短に終え、とうとう分かれの時がやってきていた。


「《蒼眼(ブルーアイ)》、エリアさん、ルゥさん。そして途中から付き添っていただいたパールス殿。皆のおかげで無事に死線を超え、こうして無事にたどり着くことが出来た。ありがとう」


 頭を下げるギルスを見て、ディリスは何だかおかしくなってしまった。

 一番最初のあの感じの悪い状態では一生見ることの出来ない絵面だろう。

 何か記録に残せる物があれば、即座に使っていただろう。


「友達出来ると良いね」


「……馬鹿にしているのか《蒼眼(ブルーアイ)》?」


「解釈はお任せするよ」


 何か一言言ってやろうかと考えたギルスであったが、すぐにその考えを引っ込めた。

 口はどうあれ、あの時、一番戦っていたのはディリスであると知っているから。


 だから、ギルスはこれも一種の愛嬌ということで済ませることにした。


「これを言うのも二度目かもしれないが、何か困ったことがあればギルフォード家へ来ると良い。可能な限り力になることを約束するよ。それでは、名残惜しいが僕は行かせてもらう」


 荷物を持ち、歩こうとするギルス。だが、一歩足を踏み出したまま彼は止まった。

 振り向く彼の視線はディリスと、そしてパールスへ。


「“また”、どちらにも会えることを期待しても……良いのだろうか?」


「……さてね。それは神様でもないと分からないよ」


「ええ、もちろん。神様なら、どちらに軍配が上がるか分かっていますものね」


 パールスとディリスが見つめ合い、だが、火花が散っている。

 その戦いの未来を案じながらも、だけど入り込める余地は全くないと理解していたギルスはこれ以上、口を挟むような無粋は働かなかった。


「こんな事を言うのもおかしいと思っても、だけど言い残していこう。出来るならばまたどこかで会えれば嬉しい」


 そう言い残し、ギルスは今度こそ去っていった。


 取り残される四人。

 エリアとルゥは今すぐにでも起こるかもしれない激闘の予感に、不安が渦巻いた。


 先に切り出したのはパールスであった。


「さて、それでは《蒼眼(ブルーアイ)》」


「何? 私は今すぐにでもやり合えるが?」


 剣の柄に手をかけていたディリス。

 対するパールスはにこりとこう言った。



「ご飯食べに行きましょ。お腹空きました」



 案外マイペースなのか? とディリスは一瞬毒気が抜かれそうになってしまった。

パールスの印象が一気に崩れた……。 byディリス

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