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第四十七話 命を狙うため

 パールスからの提案で、当初の目的通りパナリージュ領へと入ることを再開した一行。

 “ここまで来たら一緒に行きますよ”ということで、彼女も護衛に入ってくれた。


 そんな彼女とギルスは話をしていた。


「パールス殿、貴方の武勇はプラゴスカ領のほうまで届いております。何があったか、深くは聞きませんが、それでも貴方は今僕の護衛の仲間に入ってくれている。それだけで、僕は僥倖です」


「ギルフォード家といえば、プラゴスカ領中心都市であるプーラガリアの財政に多大な貢献をされている義の家と聞きます。そんな家の嫡子殿の護衛を出来るとは、まがりなりにも騎士であった私からすればまさに夢の瞬間でもあります。だから、気にしないでください」


「……ギルスって、相手を敬った話し方も出来るんだね」


 しみじみとしたディリスの言い方に、流石のギルスも一言物申したくなった。


「なっ……! 馬鹿にしないでくれよ《蒼眼(ブルーアイ)》! 僕は生まれ変わったんだよ。だから、今までの話はチャラ……とまではいかないが、払拭できるような立ち振る舞いは心がけているんだ」


「素晴らしい心がけです。変わろうと思って、人は簡単に変われるものではありません。その努力こそが、素晴らしいのです。私も心がけます」


「今は道徳の授業をする時間だったかな?」


 馬車に揺られながら、談笑する時間。

 今まで、こんな経験はなかっただけに、この時間は案外嫌いではないディリス。

 パールスとギルスを除けば、エリアがいる、そしてルゥもいる。


 少し油断をすれば、まどろみに落ちてしまいそうだ。


 僅かな眠気と戦っている中、エリアが口を開く。


「私達はギルスさんをパナリージュ魔法学園まで送り届けるまでが目的なんですけど、パールスさんは着いたらどうするんですか?」


「そうですね。私は、《蒼眼(ブルーアイ)》の命を狙うため、決闘を申し込もうと思ってます」


 瞬間、ディリスが覚醒し、剣の柄に手をかけた。


「……やっぱりそういうことだったんだね」


「え、と。パールスさん今のは冗談じゃ……」


 そうであってくれというエリアの祈りは無残にも打ち砕かれた。


「いいえ、本気です。こう言えば分かるんでしたっけ? 私は『六色の矢』の一人になってましてね。それでプロジアから――」


「――プロジアから首取ってこいと言われた訳だ」


 既にディリスは剣を抜いていた。だが、パールスは全くの無防備。

 そればかりか、彼女はにこりと笑顔を向けていた。


「斬らないのですか?」


「やろうと思えば、『火鼠の牙』に襲われている時にやれたはずだからね。だからこれはそのクソ真面目さに敬意を払っただけ。正面から剣を振るってきたら、きっちり殺す」


「ああ、その殺しに対するある意味潔癖ともいえる性根。ロッソに似ていますね」


 知らない名前が出てきた。

 だが、今までの流れから察するに、それが最後の『六色の矢』なのだろう。


 ジョヌ・ズーデン。

 オランジュ・ヴェイスト。

 アズゥ・ヒーメルン。

 ヴェール・ノゥルド。

 パールス・テレーノ。


 数えて丁度、六人。


 一体どんな奴なのか、想像するのだけでも嫌になる。


「ジョヌ、オランジュ、ヴェール。既に半分は戦って立場を分からせているから、次はパールスがその一人になるのかな?」


「どうでしょう? 最善は尽くすつもりですけどね」


 勝てるとも負けるとも言わない。

 そも、一流にとって力を察知する術は必要だが、必須ではない。


 例え正確に力を読み取れたとしても、やらなければならない時があるのだ。

 だから、今この時点でそんな事を言うのは不毛の一言。


「パールスさんはどうしてディーさんを殺そうとするんですか?」


 あそこまでにこやかに話しておいて、それはあんまりだ。

 それなりの理由が、プロジアに従う理由があるはずだと、ルゥは信じたかった。


「そうですね。私がプロジアに正面から戦って、負けたから従っている。それだけです、他に理由はないです」


「ほ、本当にそれだけですかっ……?」


「はい、それだけです。ロッソ以外の他の『六色の矢』もそんな感じなんじゃないでしょうか? 正面から戦って、命を奪う代わりに従っているはずです」


「それならあのアズゥっていう子供とも戦ったのかな? 元とはいえ、『七人の調停者(セブン・アービターズ)』が子供相手に正面から戦ったなんて、恥ずかしすぎる」


「アズゥはまた別の事情があるみたいですけどね。それでも大人組はそんな感じですよ」


 そこでエリアが感想を漏らした。

 ここまで聞いておいて、今更言うのも……という話でもあるが。


「えと、パールスさん、そこまで喋ってもいいんですか? 何かこう、守秘義務みたいなものって……」


「ああ、そのへんは大丈夫です。特にこれといって隠さなきゃならないものもありませんから。あ、強いて言うなら、貴方に負けたら、生きてようが死んでようがその場で関係は終わりってくらいですかね」


「なんていうか、本当にディーを殺すためだけに集められているんですね」


「私もそう思います。プロジアの、《蒼眼(ブルーアイ)》への感情は計り知れませんよ」


 ディリスは大きくため息をつき、そして一言だけ吐き捨てるように言った。


「アイツは、いつまで私に執着しているんだ」

……プロジア、か。あいも変わらずしつこい奴だよ。 byディリス

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