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第四十六話 吐けるんだよ

 パールス・テレーノが助太刀に入った時点で、戦況は決まったといってよかった。

 ディリスとパールスが前衛を務め、エリアとギルスが後方援護をすることによって、実に堅固な戦闘を行うことが出来たのだ。


 その結果、数十人もいた『火鼠の牙』が三十分も経たずに、全滅することが出来た。

 一番最初に捕まえておいた刺客以外は皆殺し。


 ディリスはツタでぐるぐる巻にしていた刺客を蹴り上げ、叩き起こす。

 短剣を抜いた彼女は、エリアやルゥ、ギルスを遠くに追いやった。


 これから行うことはなるべく見せたくなかった。


 その意図を汲んだパールスはさり気なく三人の死角になるように位置取りをする。


「誰から依頼された? 十秒ごとに指を一本落とす」


「話す……奴がぁっ!?」


 十秒。右小指に短剣を突き刺し、抉る。

 これは脅しではない、ということを分からせる必要があった。


「依頼主は?」


「言ったら、殺される……あああぁ!?」


 十秒。次は左小指。妥協はしない。

 この類の輩は“ヌルい奴”と舐められた時点で終わるのだ。


「依頼主は?」


「ま……まて。話しああああああ!?」


「これで三十秒経過したぞ」


 また十秒。次は右薬指。

 顔色一つ変えないディリスを見て、“本気さ”を理解した刺客。


 淡々と指を抉り続けるディリスの姿にパールスはある意味、戦慄を覚える。


「ねえパールス。回復魔法使える?」


 すぐに意図を察したパールスはそれを拒否する。


「私を拷問の仲間に加えないでください」


「それは残念。……で、どうするの? あと指一本だけど」


「―――――」


 呼吸が呼吸じゃなくなっている刺客は目が虚ろになっていた。

 既に返事は期待できないだろう。


 さっさと吐いてくれればいいのに、この強情さは尊敬できる。

 それだけの訓練を受けているのだろう。


 浅くなっている呼吸。それを聞いたディリスはそこでようやく諦めた。


(むご)いですね」


「『聖雷騎士団』もやっているんじゃないの? まあ、いいや。私に拷問されるという事は一択なんだよ。吐けるんだよ。吐けないっていうのはないんだよ。その結果、死ぬことになっても、吐けるから私は拷問しているんだよ」


 動かなくなった刺客にはもう目をくれず、ディリスはパールスへと身体を向けていた。


「その狂気が、貴方の原動力なのですか? 《蒼眼(ブルーアイ)》」


「どう思うかはそっちの自由だよ」


「良い死に方はしなさそうですね、貴方」


「うん、お互いね」


 エリアがパールスへと駆け寄る。


「あの! 助けてくれてありがとうございました!」


「いえ、大したことはしていません。そちらと、あとそちらの綺麗な銀髪を持った可愛らしい子、身なりからして貴族の子、それに御者の方も無事で良かったです」


 立ち振る舞いといい、服装といい、本当に神官の方と話をしているような感覚に陥る。

 好感度が高くなるエリアの前に、ディリスが立つ。


「どうしたのディー?」


「いや、そもそも何でお前がここにいるのか知りたくてね」


「私が、ですか?」


 あえてパールスはとぼけてみせた。

 立場をはっきりとさせておきたいのは自分も同じなのであったから。


 だからこそ、ディリスが喋ってくれるのは実に話が早い。


「パールス・テレーノ。パナリージュ領の『聖雷騎士団』の団長、月夜の戦闘で多大な功績をあげたことから《月光のパールス》とも呼ばれる超一流の騎士だよ。そんな大物が、こんな領境(りょうざかい)の森に、こんな都合のいいタイミングで現れる訳がない」


「そう言われても仕方ないかもしれませんね。さっきも言いましたが、私は“元”です。想像してもらった方が早い理由があり、この近くに住居を構えているといっても、信じてくれないでしょう」


 じっと、パールスの目を見るディリス。

 嘘つきの人間の見分けは付いているほうだ。


 その経験からいけば、パールスは嘘をついていない。


 理屈はない、がそれでもこの直感が外れたことがないのだ。


「……どこまでが嘘かは分からない、か」


「剣を下げてくれたのは嬉しいです」


 それならば、とルゥがパールスへと顔を向ける。


「で、でもどうして私達を助けてくれたんでしょうか?」


「元々少人数対多人数の戦いを見ると、少人数の方へと手助けをしたくなる性格でしてね。だからもし、貴方達の数の方が多かったら、逆の立場になっていたのかもしれませんね」


 ルゥは混乱した。

 それはつまり、明らかに野蛮なことをしている集団だと確認できていても……。

 ここから先は、何だか聞くのが躊躇われることだったので、口を動かすことができなかった。


「うん、だろうねきっと。聖なる雷なんて大仰な名前を掲げておきながら、当の本人は正義も悪もないんだから」


 あっさりとディリスは、ルゥが聞けなかったことへの答えを言ってのけた。

 その言葉も、まだルゥにとって理解が厳しいものだったが、それでもこの人はそうなんだろうなという謎の説得力があった。


「正義とか悪とか、そういうものを掲げていけば疎まれ、色々とやりづらくなるんだって身を以て知りましたからね。私のやりたいことをやりたい時にやりたいだけなんですよ」


「先代がこうなら、今の団長はとってもやりやすいんだろうね」


「ええ、とても平和に活動していると思いますよ。とっても、ね」


 パールスが自嘲するように笑ってみせた。

さて、出会ってしまいましたね。 byパールス

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