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第四十四話 刺客、襲来

 ざっと感じた敵の数はおよそ数十人を超える。

 よくそれだけの人数を潜ませていられたものだと感心すら覚える。


 早速、護衛の基本に倣い、ギルスを囲み、“万が一”に備えるディリス。


「現れたようだね。わざわざ殺されに来るだなんていい度胸だ」


「そんな事言っている場合じゃないよディー! まずはギルスさんの安全を確保しなきゃ」


 言いながら、エリアはすぐさま防御魔法を発動させようとする。


「いいや、エリアさん。それはまだ待ってもらえないだろうか」


 それを遮ったのは、他でもないギルスである。

 “馬鹿なんじゃないのか。さっさと護衛されろ”、と喉元まで出かかっていたディリスだが、彼の次の言葉でそれを思い直す。


「僕だって戦えるんだ。エリアさんはその貴重な力を賊の討伐に振るってほしい。僕は、足を引っ張りたくない」


「それで死なれても目覚めが悪いだけなんだが?」


「構うもんか。元より、この護衛の依頼だって僕が頼んだものなんだ。何が起きようとも、君達には何の責任もないし、追求もさせない。これは父上にも既に話していることだ」


 その眼を見て、ディリスはこれ以上、言葉をかけるのは止めた。

 あのお貴族様がそこまで言うのだ。それ以上を言うのは、野暮以下、いや未満だろう。


 だったら、自分の役目は決まっている。


 元々、こういう血なまぐさい依頼こそが、『七人の調停者(セブン・アービターズ)』の真骨頂と言っても過言ではないのだから。


「分かった。じゃあ私は――」


 その超人的な脚力を以て、ディリスはギルスへと接近。

 彼の肩を掴み、強引に場所を入れ替えさせる。


 刹那、ディリスはその後ろ腰に忍ばせる短剣を抜き、ギルスの喉元へ向かってきていた矢を弾き飛ばす。


「こういう致命傷待ったなしの攻撃を防げばいいんだね」


 すぐに彼女は、エリアへ合図を送り、攻撃魔法を放たせる。


「『(いかづち)の槍』!」


 ジョヌが使っていた雷の攻撃魔法。

 エリアの類まれなる魔力コントロールにより、死ぬ一歩手前まで調整されたまさに極上の一刺し。


 狙いは高い樹の枝。


 一直線に向かう雷撃は、隠れている刺客を突き刺し、落下させる。


「まずは一人確保」


 落ちる刺客の首根っこを掴み、地面へと乱暴に投げ捨てる。

 即座に、その辺にあるツタを使い、拘束する。もちろん四肢だけでなく、口もだ。

 こういった刺客は絶対に自死を選ぶ。


 だって、そういう教育を受けているのだから。


「現れたか」


 バレたことに気づいた相手方は即座に姿を見せ、数の利を確保しようとする。

 すぐにディリスは、相手の戦力の把握に努める。


 手に持つのは短剣、手槍、手斧などなど。

 こういった視界が制限される、かつ、白兵戦を前提とした取り回しの良い武器で固めている。


 ここまで用意周到ならば、もはやどこの組織か考えるまでもない。


 覆面だらけの人間。

 その内の一人が、言葉を発する。


「ギルス・コン・ギルフォードだな。その生命、もらおう」


 覆面の一人が迫る。

 そのしなやかな身のこなしはまさに猫の如く。


 もしも常人しかいない場ならば。


 もしも常人しかいない場ならば、このまま護衛を置き去りにし、魔法の発動さえ許さぬ速度でギルスの生命を奪っていただろう。

 それだけの手際の良さを感じさせるのが、今の刺客なのだ。

 そして、そのまま目的を果たし、撤退される。


 これが普通なのかもしれない



「私を前にして殺人の話をするなよ。私 も 混 ぜ ろ」



 襟元を掴み、地面に引き倒される刺客。

 その者、驚愕で顔を歪ませる。


 何が起きたか、皆目見当もつかなかった。


 だが、電光石火の業前で一気に自分の生命が危機に晒されたことだけは理解できている。


 赤髪の女が、剣を抜く。


 その剣の、刀身に施された天秤の刻印を見た刺客は全てを察した。


 だとするのならば、我々の運はどれほどまでに悪かったのだろうか。


「せ、『七人の調停者(セブン・アービターズ)』……!」


「死ね」


 

 鮮血に染まりゆく視界の中で映ったのは、どこまでも深く、おぞましい蒼色であった。



「さて、とまずは一人殺せたね」


「ディー! 殺しは!」


「手を抜けば、こっちがやられるよ。それほど優しい連中じゃあないんだよ。ほら、コレ見て」


 死体を蹴り転がすと、服の胸には独特な刺繍が施されていた。

 炎の中にいる鼠。


 それを見た、エリアは今回の相手の名前を思い出す。


「この鼠の刺繍、間違いなく『火鼠の牙』だよ。ということは、どちらかが死ぬまでこれは終わらない。奴らの最も恐ろしいところは一体何か。それは執念だよ」


「執念……?」


「エリア、防御魔法お願い」


「え……!?」


 すぐにエリアは他の三人と御者へ防御魔法を展開すると、ディリスの言っていた“執念”の理由を理解した。


 死体が一瞬光ったかと思えば、次の瞬間には熱風と爆発音がエリア達を襲いかかった。


 ディリスはこの手口をよく理解していた。


 これが暗殺集団『火鼠の牙』のやり口なのである。


 狙った獲物は確実に殺す。殺すことが出来なければ、次に繋げるために、自らに仕込んだ自爆魔法を発動させる。


 死んでも油断できないプロの殺し屋共。


「その執念には多少なりとも理解は示せるけど、気に入らないんだよ」


 自らと重ね合わせてしまい、ディリスは吐き気を催す対象なのだ。

 『火鼠の牙』という下衆の集団は。



どちらかが死ぬまで……そうなの、ディー? byエリア

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