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第四十話 久々に見たアイツ

「エリア達はそろそろ話が終わったかな」


 一足先に宿に戻っていたディリスは、いつもどおり短剣で布の塊を何度も何度もお手玉して遊んでいた。

 遊び半分、そして剣の精度を上げる為の訓練としてずっと行っている手遊びだ。


 こうしていると、いつも思い出す。


 ――私の剣がどうして正確なのか、ですか? それはですね……。


「……プロジア」


 嫌でも浮かんでくるのは、この手遊びを教えてくれた人間の顔。


 一時期は止めようかと思っていた。しかし、一度身に染み付かせてしまえば、中々どうしてこの癖を拭い去る事が出来ずにいた。

 そのため、彼女はズルズルとこの手遊びを続けていたのだ。


「くそ……止めだ。今日は妙に思い出してしまう」


 いつもならもう少し遊んでいるところであったが、不愉快な気分になったので、宙に浮かしていた布の塊をそのまま空いている方の片手でキャッチした。


「それにしても、今日のエリアとルゥの動きは良かった。だいぶ、動けてきている」


 今日の模擬戦はエリアとルゥの二人から持ちかけられたものである。

 この前の竜の祠の一件で、また二人の闘志に火がついたようだ。


 戦闘に対して、常に向上心を持ち続けられるのは良いことなので、ディリスは二つ返事で了承をする。


 魔法はともかく、戦闘に対する考えに関しては自分でも色々と喋る事が出来るし、いま時点で自分たち三人は一体どこまで出来るのか。

 そのキャパシティの把握を常に最新のものに出来るということも、ディリスが積極的に模擬戦を引き受ける理由でもある。


「それにしても、ルゥが今でも木剣を振るいたがっているのはびっくりしたな」


 召喚霊という武器だけに頼れない以上、サブウェポンを用意する必要があるのはディリスも分かっていた。

 ディリスは一度、ルゥへもっと軽くて、扱いやすい武器を勧めたことがある。


 その時の彼女の返事はこうだった。


 ――えと、私もその方が良いのかなって思ってます。だけど、もうちょっとだけ剣を振らせてもらえないでしょうかっ?


 そんな事を言われて、それを却下する理由もなかったので、ディリスは一旦武器の話を保留することにした。


「はぁ、暇になった」


 すると、遠くからこちらへ向かってくる気配を感じた。


 数は三、内、二つはエリアとルゥ。


 じゃあもう一人は一体誰なのか。


「……」


 念の為、ディリスは短剣をいつでも抜けるように後腰へ手をやる。


 あの時の会話の流れ的にクラークの可能性もあるが、それならそれですぐに分かる。

 

 だからこそ、一応万全を期す。

 何故なら自分は《蒼眼(ブルーアイ)》なのだから。


 自分の事を聞きつけ、命を狙いに来る者は少なくない。


 扉が、開く。


「ディーいる?」


「うん、いるよ」


「? どうしたの、そんな怖い顔して」


「ん、もう一人は誰かなって」


 それなりに長い付き合いになっているエリアはその言葉で色々と察した。

 そして、すぐにその“勘違い”を正す。


「大丈夫だよディー。悪い人じゃないよ。だから殺そうとしないでね?」


「怪しいやつは(みな)斬首。これ殺人者の常識なんだよね」


「あるかー! そんな常識あってたまるかー!」


「大丈夫だと思いますよ、ディーさんっ。確か、この前会ったはずの方ですっ」


 その言葉に、ディリスは首をひねる。

 それならば、だいぶ気配で分かるはずだ。


 なのに、わからないとはどういうことなのだろうか。


 エリアが入れてもいいか聞いてくるので、とりあえず入ってもらうことにしたディリス。


 姿を見せる“三人目”。その者の顔を見て、ディリスは全てに納得がいった。


「やぁ! 僕だ! ギルス・コン・ギルフォードだ!」


「ああ、眼中に入れてなかったから気配でも分からなかったのか」


「っておい! その言葉は聞き捨てならないな!?」


 金髪美形野郎――ギルスが実にキザったらしい仕草で入室してきたときには、何も見なかったことにしたい気持ちしか無かったのは内緒にしておこう。


 それで、とディリスはとりあえずその辺にある適当な椅子に座らせることにした。


「おいおい僕がこんなしょぼくれた椅子に座るとでも?」


「出ていく、という選択肢もあるよ」


「だが、たまにはこういった椅子に座る経験も必要だろう! 失礼するよ」


 何だか、前回会った時よりは感じる不快指数が低くなったように感じられた。


 着席したのを見届けたエリアとルゥがディリスの左右に座る。


「それで、エリア。このおぼっちゃん貴族様が何でこんな所にいるの?」


「ちょ、ディー。ギルフォード家ってこのプーラガリアの財政に大きく関わっているすごいところなんだよ」


 エリアが慌てて訂正させようとすると、ギルスが手でそれを制す。


「いや、エリアさん。今回は僕が依頼主になるんだ。これくらいの扱いは既に覚悟してきているよ。だから、僕をかばわないでくれ」


「ありがとう、ギルスさん!」


 花咲くようなエリアの笑みを受けたギルスが目をそらした。


「ふぅ……」


「あれ、なんで急に顔を背けたんですかギルスさん?」


「いや何、直視していれば心臓が止まりそうだっただけだよ」


「それは一大事じゃないですかー!?」


 努めてクールに返そうとしているギルスではあるが、内心心臓バックバクである。

 これであの可愛らしい顔でも直視しようものならば、本当に死んでいた! とギルスは胸を張って言えただろう。


 そんな彼が居住まいを正す。


「こほん。それで、だ《蒼眼(ブルーアイ)》。既にエリアさんやルゥさんにも話したが、三人に頼みたいことがあるんだ」

だ、だめだ……やはりエリアさんを前にすると緊張する。 byギルス

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― 新着の感想 ―
[良い点] 物語にメリハリがあって飽きずに読み進められました。キャラクターもそれぞれ個性があってとても面白かったです。 個人的には女の子がメインで話を進めていくところがすごく気に入って読んでいました。…
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