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第三十九話 厄介事が見える

 ニコニコとしたクラークは実に胡散臭い、というのがディリスの持論である。

 彼がいい顔をしてやってくる時は大体が厄介ごとと相場が決まっている。


 出来るならば今すぐ帰ってもらいたい。


 そんなささやかな願いを、《魔法博士》様は実に狡猾に砕いてくる。


「ルゥちゃんとエリアちゃんが精進していると風の噂で聞いてね。こうして様子を見に来たわけさ」


「そうなんですか! 師匠、ありがとうございますっ」


「クラーク様、いつも気にかけてくださり、ありがとうございます」


 エリアとルゥは、クラークの良い所しか見ていないだけに騙されるのがとても早い。

 友達として仲間として、すごく心配になるディリスなのである。


 ただ見ているだけではないディリスはこれ以上毒させないために、三人の間に割って入った。


「で、何? 知ってるなら分かると思うけど、私達訓練中なんだよね」


「お、ディリス。君が動いた後の汗、とても綺麗でいい匂いが――」


 無言で剣を振るうディリス。

 無言で魔力障壁を展開し、防御するクラーク。


 見るものが見れば非常に高度な攻防。だが、発端が余りにもくだらなすぎるのが唯一の残念な所である。


「次は本気で斬るぞ」


「分かった分かった。剣を納めろ、殺気を消せ」


 これ以上は話が進まないと判断したディリスはとりあえずクラークの要求通りにした。


 何も言わないが、“さっさと喋れ”という威圧を感じ取った彼は、口を開く。


「ちょっと君に頼みたいことがあってね」


「クラークの頼み事って、だいたい面倒事になるって事、気づいてる?」


「う~ん、ちょっと分からないな? 生憎と私は霊語の方が達者でね、そちらじゃないと意味が伝わってこないんだ」


デユ(クラークの)リザク(頼み事って、)リイ(だいたい面倒事に)ユア(なるって事、)(気づいてる)?」


「はいはいはい! 分かったから! 私が悪かったから! だから流暢な霊語で返すんじゃあない!」


 そういえば、とエリアはディリスへ聞きたいことがあったのを思い出した。


「どうしてディーって霊語使えるの? もしかして何か召喚霊と契約してたりするの?」


「まさか。私は魔法を使うのは苦手でね。簡単な攻撃魔法すら出せないんだ」


「えっ、それならどうして魔法の知識が凄かったり、霊語が分かったりするの?」


「戦闘に必要そうな事は全部教えてもらったからね。だから後は全部それの応用。霊語は習得に一年掛かったかな」


「それはそれですごいんじゃ……」


 もし自分が今答えている立場なら。


 自分ならもう少し胸を張って答えるだろう。それだけのことなのだ。


 ましてや事実を淡々と話すのがディリスなのだが、この受け答えに関してはどうも端切れが悪い。


 何故だろうと考えていると、視界の端っこに笑いを押さえているクラークが映る。

 それで、だいたい察しがついた。


「もしかして……クラーク様がディーに色々と教え――」


「せーかい! 流石エリアちゃん! その洞察力には恐れ入るよ! ハッハッハッ! そう! 私がディリスに魔法の全てを叩き込んだ大! 師匠なのだよ!」


「はぁ……今でも人生の汚点の一つだと思ってるよ」


「コルステッドやフィアメリアを以てしても指導者になりきれないものがある。それが魔法さ。ならばこの《魔法博士》たる私にお鉢が回ってくるのは当然の話だろうさ」


 今日は非常に面倒くさいクラークだと、結論づける事ができたディリスは背中を向ける。

 エリアが引き留めようとすると、彼女は“付き合いきれない”とばかりに手を横に振った。


「エリア、ルゥ。話聞いておいて。多分頼まれごとされると思うけど、二人が良いと思ったら引き受けても良いから。じゃ」


 声をかける隙も与えないよう、ディリスは高く跳躍し、適当な民家の屋根に着地をした後、姿を消した。


「ディリスも相変わらず照れ屋さんだなぁ」


「クラーク様とディーって昔からああいう感じだったんですね」


「そうだね。知識欲、というか戦闘に対する意欲だけはすごいから私が教えた事はどんな些細なことでも全て吸収しようとしていたね。あの喰らいつき方は正直異常だったよ。あれで、魔力の使い方が下手じゃなければきっと私まではいかないだろうけど、一端の魔術士になっていただろうね」


 そう語るクラークの顔はどこか残念そうな色が滲んでいた。


「あの、師匠。それで、私達に何かお話があったのでは……」


「あ、そうだったそうだった。すっかり忘れていたよ。実は護衛の依頼をしたくてね」


 護衛。

 クラークの口から出たのはいささか物騒な香りのする単語であった。


 エリアとルゥはアイコンタクトだけで会話を開始する。

 あの《魔法博士》が直々に頼むとは、一体どんな重要人物なのだろうか。


 というか、それこそディリスが居て話を聞かなければいけないような案件なのではないか。


 そんな不安が飛び交っていることに気づいたクラークが慌てて訂正する。


「ああ、違うよ違う! 君達が思っているようなやんごとなき人の護衛じゃないよ! 護衛してもらうのはプーラガリア魔法学園(ウチ)の生徒一人だよ! さあ、おいで。物陰に隠れていないで」


 そう、クラークが呼ぶと、木の陰から一人の生徒が姿を見せた。 

 それを確認したエリアが思わず声を上げる。


「あれ? もしかして貴方……」


 じっくり顔を見て、彼女は確信を得た。

今頃、エリアとルゥは何を喋ってるんだろ。 byディリス

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