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第三十五話 唐突に現れたソレは

「君、本気で言ってるんだね。はぁ……頭の心配しちゃうよ」


「す、すいません。けど、嘘は言っていません。ヴェールさんとは初めてですが、それでも一度出会ったんです。死んでほしくはないんです」


「あーあー分かってるよもう! 十分分かったから! もー!」


 大きなため息を付いたヴェールはそれから口を開かなくなった。


 それを見ていたディリスはぼんやりと考える。


 エリアはある意味、自分よりも肝が据わっているなと。


 誰かに裏切られるとか、信じぬいた結果どうなろうが、彼女にとっては一つの要素にしか過ぎないらしい。


 そうでなければ、誰が自分に殺意を向けている者を治療できるだろうか。


「さて、ヴェールいいですか? 私のことは分かりますね?」


「分かってるよ、よ~く。というか、ファーラ王国の騎士団長サマまでいるの? 何で? もし《蒼眼(ブルーアイ)》殺せてたら次は《音速のフィアメリア》から逃げなきゃならなかったの? あはは、無理無理。何の嫌がらせだよプロジア」


「一応聞きますが、プロジアの居場所は分かりますか? もしくは話す気はありますか?」


「分かんない。ボクらはたまにあっちが指定した場所で落ち合って状況報告しあうだけだよ」


「そうですか。やっぱり」


 あっさりと引き下がるフィアメリアを見て、近くで見ていたルゥはディリスへ耳打ちをする。

 どうしてもう少し聞き出さないのかと。


「ヴェールはプロの殺し屋だからね。知っていようが知っていまいが、話す気ないよ。フィアメリアが聞いたのは奇跡的に喋ってくれたらいいな――その程度だよ」


「こ、高度ですね……」


 フィアメリアはヴェールを米俵を担ぐように、肩に乗せる。

 色々考えたが、やはりこれが一番効率いいという彼女なりの判断だ。


 竜の祠から出る前に、フィアメリアは当初の目的を思い出した。


「ちなみにヴェール。ファーラ王国の騎士がこの辺りに来ていたでしょう? どこにいるんですか」

 

「ん、騎士?」


「ええ。竜の祠に不審者がうろついているから、最近ファーラ王国の騎士を巡回に当たらせていたんですが、行方不明になっているんですよ。貴方が殺したんですか?」


 すると、ヴェールはキョトンとした顔でこう言った。



「何の話? ボクが絡んだのは今回、ドレル村の奴らだけだよ。ファーラ王国の騎士なんて見てないよ。そもそも来てたの?」



 時間が、止まったような感覚に陥った。


 流石のフィアメリアもこれはさらりと流せなかった。


「それは……どういう事ですか? 貴方がやった訳じゃないのですか?」


「当たり前でしょー。直接やっても負けるとは思わないけど、そんな面倒くさいことしたくないしー」


 そのやり取りを見ていた全員は考える。


 じゃあ誰が、やったのかと。


 ディリス達は完全にヴェールがやったものだと信じて疑わなかっただけに、この事実は衝撃であった。


 その時、(やしろ)から何かが動いたような気配がした。


「何だ……何かが」


 エリア達へ下がるよう指示を出し、ディリスは単騎で様子を確認しに行くことにした。


 天秤の剣を抜き、無数の魔物と戦うが如き心構えで、(やしろ)ヘ歩を進める。


 近づけば近づくほど感じる重厚な“何か”。


 ここまで濃厚ならば、もはや気の所為だとかそういうレベルの問題ではない。


 必ず何かがある。


 その思いで、ディリスは至近距離まで近づいた。


(……何かが飛び出てくる、訳でもない。だが何かある。この魔法石か?)


 そして彼女の視線は、雁字搦めに封印されている魔法石へと吸い寄せられる。


 そこで彼女は気づいた。鎖で無数に繋がれた小さな丸い魔法石にヒビが入っていることに。


 これはマズイ、と本能がディリスにそう呼びかける。


 それに従い、彼女は皆へ一刻も早く、この場から離れるよう告げようとする――が。


「ディー!!」


 小さな丸い魔法石が、割れた。


 魔法石からまばゆい光が放たれた。


 徐々に真っ白くなっていく視界。何かの魔法の線を疑ったが、魔力は感じない。


「……」


 気づけば、不思議な空間にディリスはいた。


 辺りを見回せば、絵の具を適当にぶちまけたような雑な色が三百六十度広がっている。

 この頭のおかしくなりそうな配色のせいで、自分の上下左右の感覚が狂っていく。


 一刻も早く、出なければと妙な不安に襲われたディリスは、とりあえず適当に剣を振るう。


 しかし、当然といえば当然だが、何も変化はない。


「無駄だ。この空間ではそんな物を振るっても何も起きない」


「誰だ」


 ディリスの目の前に、炎が灯った。


 だが、普通の炎の色ではない。


 七色の光が入り混じった、まるで虹のような輝きを放つ炎である。


 明らかにおかしな存在に、ディリスの警戒心は最大限を迎える。


 そこで、彼女が選択したのは攻撃である。


 攻撃は最大の防御。何か仕掛けられようとも、先に制してしまえば何の問題もない。


 その思いで振るわれた剣は、炎を、そして虚空を彷徨う。


「愚かだ。我を相手に、物理攻撃など何ら影響を与えん」


「じゃあ教えてくれよ。その影響を与えないお強い貴様は何者だ」


 虹の炎は揺らめく。


 その存在を強調するように。



「我は、虚無から産まれし子。全ての存在は我をこう呼ぶ。――虚無神、と」



 虚無神イヴドは――はっきりとそう名乗った。

はは、私はまだ精神魔法にでも掛かってるのか? byディリス

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