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第三十四話 綺麗事を!

「エリアは本当、優しいよね。死ぬなら死ぬでありがたいのにさ、こっちは」


「そんな訳にはいかないの。それに、傷ついたままって辛いんだよ」


 倒れているヴェールへ回復魔法『癒しの光』をかけていたエリアは、冷たいことを言うディリスに少し怒ったような表情を向ける。


 ディリスとの問答の直後、エリアの治療は開始していた。その前に、一応『拘束(バインド)』で動けないようにしながら。


 回復魔法は死んだ者には効果がない。生きているからこそ、効果があるのだ。


「ディー」


 出入り口の方から声がした。


 皆が目を向けると、そこにはフィアメリアが手を振っていた。


 当然といえば当然か、彼女の衣服には汚れ一つなかった。


「終わったようですね。村人たちに掛けられていた魔法が解除されたようです」


「そ、それじゃあお父さんたちは……」


 ピロクがフィアメリアへと駆け寄る。


 すると、彼女はピロクの頭を優しく撫でてやる。


「ええ、もう心配ありません」


「よ、良かった……。良かったよ……!」


 緊張の糸がほつれたのか、ピロクの眼には涙が浮かんでいた。


 そんな彼を見ていたフィアメリアは村人たちを鎮圧した時を思い出す。


 全方位を囲む操られた村人たち、それに対し、フィアメリアは足元に円を描く。


 そして彼女は、ひたすら村人たちの足元を見るのだ。


 短柄から長柄までの間合いを考慮した円に一歩でも踏み入った村人を細剣で叩き、気絶させていく。


 その繰り返しによって、フィアメリアは無血の鎮圧を遂行したのだ。


「遅かったね、フィアメリア」


「ええ、殺さないようにするのに案外骨が折れまして。それにしても、やはりヴェールだったんですね」


 治療を受けているのを確認すると、フィアメリアは彼女へと近づく。


「お疲れ様ですエリアさん。回復魔法と『拘束(バインド)』の併用なんて凄いですね。ファーラ王国騎士団はいつでも貴方の入団を待ってますよ」


「ウチのエリアを勝手に勧誘するな」


「わ、私も何かお手伝いできればいいのですが……」


 どこまでも健気なルゥはエリアの側に寄り、ひたすら彼女を応援していた。


 回復を使える召喚霊でもいれば、話は変わってくるのだが、無い物ねだりをしても仕方がない。


 ディリスはそういった事を口にはせず、フィアメリアの側にいるピロクへと視線を向ける。


「ピロク、君は良くついてきてくれた。怖かったよね」


「こ……怖くなかった! 僕だって戦うことが出来れば、あんな奴!」


「君は戦ったよ、ちゃんと」


 どういうことか、首を傾げるピロクへ言う。


「ここまで来たんだ。あの押入れの中で隠れていることだって出来た。それなのに、ここまでちゃんと来れたんだ。君はガッツがあるよ」


「僕に……ガッツが」


「将来はファーラ王国の騎士団に入ることをオススメするよ。今ならそこのフィアメリアが顔を覚えてくれているはずだからね」


「ええ、我がファーラ王国騎士団は勇気ある者は誰でも歓迎ですよ」


「騎士……騎士、かぁ」


 そう呟くピロクの表情に、ディリスは“何か”を得たのだと心得る。


 ――彼がファーラ王国騎士団への入団を真剣に考え、そして行動を開始することになるのはまだ、未来の話。


「ん……」


 ヴェールの口から吐息が漏れた。


 出血で気絶していたが、ようやくお目覚めになったらしい。


 フィアメリアが『拘束(バインド)』を解除するようお願いすると、エリアはそれに従い、魔力の拘束を解いた。


「今のうち――」


「『拘束(バインド)』。まだ逃げる元気があったんですね」


 傷ついた身体を酷使し、ヴェールはエリアの『拘束(バインド)』が解除された瞬間を狙い、逃走を企てるが、それよりも速くフィアメリアが魔法を発動する。

 四肢を拘束されたヴェールは再び地面へ倒れ込む。


「くっそ……速いね」


 倒れた時、口の中を切ったヴェールが血を吐き捨てる。


「まあやらかした人をその場で捕まえるのもファーラ王国騎士団のお仕事ですからね。あ、魔力切れを狙っても無駄ですからね。状況にもよりますが、私の『拘束(バインド)』は一週間は維持できますから」


「なんだよそれ~……完全に詰みじゃんボク」


「ええ、詰みました。色々と罪を犯している貴方には良い状況なのではないですか?」


「ふん、言葉遊びは嫌いだな。……ねえ、そこの桃髪の子」


「私ですか?」


 他の誰でもない。


 唯一の桃髪であるエリアは自分を指差した。


「名前は?」


「え?」


「だーかーら! 名前はって!?」


「え、エリア・ベンバーです!!」


 エリア、とゆっくり確認するようにゆっくり呟くヴェール。


 そのまま、彼女はエリアへ質問を投げかける。


「何でボクを助けたの? 言っちゃなんだけど、君が目を離した隙に殺す気満々だったよ」


「気づいてました。ヴェールさんが既に起きていることも、殺意を向けていたことも」


 その言葉に驚いたのはディリスであった。


 しかし、それに触れるよりも前に、ヴェールの目が細くなる。


「何それ……何だよ、それ。じゃあ君はそんな奴の治療をしたの!? 馬鹿じゃないの!?」


「それでも私は貴方を治したかったんです。貴方が死んだら……悲しくなる人がいるんです」


「綺麗事を! ボクにはそんな奴なんていない! 両親も、友達も、全部全部! いない!!」


「私がいます」


 馬鹿だ、とヴェールはエリアを睨みつける。


 だが、目の前の憎き顔には一切の冗談も、遊びもない。


 こと人の感情を弄ぶのには絶対の自信を持つが故に。



 彼女は、エリア・ベンバーは嘘を言っていないということが分かってしまう。

何なんだよこいつ……! byヴェール

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