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第三十二話 すり抜ける刃

「さて。《蒼眼ブルーアイ》、これって戦闘する流れ?」


「ここに来れば、お前が来るだろうと思ってたからね。逃がすつもりはない」


 短剣から天秤の剣へ装備を変えたディリスはエリアへ合図を送る。


 するとすぐにエリアは察し、魔法を発動させる。この最奥部と外界を繋ぐ唯一の出入り口、そこへ向けて。


「これなら簡単には逃げられない、はず!」


 圧倒的な雷の魔力で攻撃を遮断する『電網の壁(エレキ・ウォール)』。


『六色の矢』の一人であるジョヌ・ズーデンが使用していた防御系の魔法である。


 これなら容易く突破されないはず、とエリアは判断した。


「『電網の壁(エレキ・ウォール)』か。んーやるね。これはボクも突破には時間がかかる」


「降参してください! そして術を解除してくれれば命までは取らないはずです!」


 エリアの慈悲をヴェールは鼻で笑う。

 既に場所は鉄火場。油断すれば一瞬で死ぬ、そんな戦場。


 そんな所で、誰が白旗なんて上げる奴がいるものか。


「舐めないでよー。ボクが勝算なしで来る訳ないじゃん」


 つい、と長く細い指を天井へと向ける。

 ヴェールの周囲には魔力が渦巻いている。


 魔法の発動を察知したディリスは即座に剣を抜き、ヴェールとの距離を詰める。しかし、一手間に合わなかった。


「『幻影の義手(ミラージュ・ハンド)』」


 魔法を唱えたヴェールの指先から光が迸る。光は直ぐに止んだ。

 ヴェールの身体には特段、何か変化したようには思えない。


 その時点で、ディリスは駆ける。

 どの道、背中はエリアとルゥに預けているのだ。


 自分はただ、ひたすら前進するのみ。


「臆さず、突っ込んで来るのか。流石、伝説」


 両手にナイフを持ち、応戦態勢は万全のヴェール。


 仕掛けるディリス。得意の足捌きで押しては引いてを繰り返し、間合いを読ませない。


 突きか、袈裟斬りか、足払いか、ディリス・エクルファイズの脳裏には既に何十通りの斬撃パターンが構築されている。


「これはちゃんとやらないと、死ぬね」


「死 ん で く れ て い い よ」


 ヴェールが一瞬瞬きをした。その瞬間を狙い、ディリスは一気に距離を詰める。


 彼女の脚力は遠い間合いを一足で縮められる。

 不可避の間合い。ディリスの天秤の剣がヴェールの急所を一息で撫で斬る!


「ディー殺しちゃ――え?」


 エリアの心配は杞憂に終わった。


 刃はヴェールへと食い込む。が、それはすぐのこと。次の瞬間には、その手応えは空に消えていた。


「……ちっ」


 徐々にヴェールの身体が歪んでいく。

 否、正確には霧状になり、刀身をすり抜けていった。


 水の流れを止められぬように、確かな手応えもなく。


「お返し!」


 ヴェールが両手を振るい、ナイフを走らせる。


 片方は剣で止め、片方は避ける。

 その意識で、ディリスは応戦する。


 無邪気な笑みと共に、ヴェールはナイフを閃かせる。


「っ」


 白兵戦において、ディリス・エクルファイズは無敵。誰もがそう思っていた。


 彼女の黒コートの肩部が切り裂かれるのを見るまでは。


「あらら。太い血管狙ったんだけどね。中々頑丈なコートだね、それ」


「精神魔法、か」


「気づくのが早いね。ボクが見てきた中で最短記録だよ」


「お前のような白兵戦に心得の無さそう奴が振るうナイフには絶対に当たらないからね。となれば、それしかないんだよ」


「言い方ひっど。少し怒っちゃったぞ」


 ヴェールが大きく揺れたと思えば、彼女は三人に増えた。


 これも精神魔法の一環。


 状況を冷静に見るため、ディリスは一歩だけ下がる。


 当然、物理的に増えるだなんてあり得ない。そういう類の魔剣や聖剣があるのかもしれないが、敵が持っているのは紛れもなくただのナイフ。


 そうなれば、自分がまやかされているという選択肢しか考えることが出来ない。


 これは少々厄介だ。


「これは防げるかな!?」


 三方向同時に接近。


 それぞれ別の振り方でディリスへ襲いかかる。


 右方の刃を防ごうとしたらそれは幻。刃はそのまますり抜けていく。


 続けて左方から来る刃。首の頸動脈。幻だろうが、本物だろうが、これは避けなければならないコース。


 首を捻り、紙一重で避けるが、そこで前方のナイフが刺突の構えを見せる。


 強靭な脚力で後方を飛ぶが、浅く刺されていた。血が滲む。


「ディー!」


「来ちゃ駄目。巻き添え食らうから」


「あーららお仲間に優しいんだね。まあ、でも君を殺したら次は全員死んでもらうから、順番が先になるか後になるかだよ?」


「ふふ」


「……何がおかしいの《蒼眼(ブルーアイ)》? 余裕ぶったところで君の不利は変わらないとおもうけどね」


「不利? 今、お前は不利と言ったのか?」


 ディリスの瞳の色が蒼く変わる。


 眠れる獅子が、ついに目を覚ました。


「笑 わ せ る な よ 三 下 が」


「っっ!?」


 おかしいだろ、と。

 いま、この場において有利なのは自分だ。このヴェールなのだ。


 相手は自分を捉えられない。自分は相手を斬り刻み放題。

 ボーナスタイムもボーナスタイム。


 それなのに、この悪寒は何なのだ。


「お前はこれを有利と認識しているのなら、この状況に慢心できるのなら、お前の敗北は確定しているんだよ」


 剣を構え直したディリスの眼は、全く勝負を諦めていない。


 むしろ、どう手繰り寄せようかという獰猛な計算で埋め尽くされていた。

ディー……死なないで。 byエリア

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