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第三十一話 竜の祠

 竜の祠の中は人間が複数人入っても自由に動けるぐらいには広く、通路も歩きやすいように整備されていた。全く人の手が入っていない訳ではない。


 ディリスが先頭を歩き、ルゥが二番目、ピロクが三番目で、エリアが殿(しんがり)を務めるという陣形。


 実はこのメンバー、ディリス以外に近接戦闘をこなせる者がいない。当初はエリアが先頭を務め、ディリスが殿(しんがり)を務めるという案もあったが、話し合いの末、こうなった。


「エリアが松明を持っていて良かった」


「冒険者だからね! 何があっても良いように用意は欠かさないのだ!」


 松明がなければ真っ暗闇の中を歩く羽目になったので、エリアの用意の良さに感心するディリス。


 右手に松明を持ち、左手は後腰の短剣に添えている。今回は洞窟の中なので、長剣の類である天秤の剣はあまり効果的ではない。


 例えば、今この瞬間、何か魔物が出てきたら?


 そういう事を考えれば、取り回しの良い短剣を用いるのは当然の帰結となる。


「ピロク、奥までは結構遠いの?」


「ここから先は僕も行ったことがないので、分かりません……」


「そっか」


 言いながら、ディリスは鍛え抜かれた五感を以て、洞窟内の索敵を開始。

 気配を、匂いを、見るものを、感じる全ての情報を取り込み、ディリスは半ば確信していた。


「うん、そこまで遠くないね。奥から感じる風の音が変わっている」


「ディーってそこまで分かるんだね。すごいね!」


「『七人の調停者(セブン・アービターズ)』時代は密室かつ暗闇の中で殺しをしたこともあるからね。その辺の嗅覚が優れてなければとっくの昔に死んでいるよ。そういう体験って結構殺人者あるあるとして存在するよね」


「で、出た! 久々の殺人者なんちゃら! 絶対に無いから!」


 ディリスの警戒とは裏腹に、順調に進むことが出来ていた。

 魔物の類は一切おらず、松明で道を明るく照らしているおかげで随分と歩きやすい。

 このまま何事もなく、辿り着けると良いのだが。


「……三人とも、これから先は少し“重く”なるかも」


 だが、ディリスは気づいていた。

 徐々に感じ始めてきた奥から発される“異様”。強者のみが放つ圧倒的なオーラ。

 進まないわけにはいかない。奥まで行けば、きっと。


「明かりが視えてきた」


 奥から松明からではない明かりが灯っていた。

 光源は何なのか、さっぱりわからないが、それでもそこで歩みを止める理由にはならない。

 エリア達に十分な警戒をするよう促すと、ディリスは一足先に竜の祠の奥へと到達する。


「……これは」


 辿り着いたのは広場であった。子どもたちなら自由に駆け回れるような広さ。

 その奥に、小さな(やしろ)が建てられていた。他には何もない。

 周りを見回すと、天井や地面のいたる所に光る石があった。


「わー! 綺麗だね―!」


「これは周囲の魔力を溜めて、微弱な光を放つ事ができる『ライティ鉱石』だね。あまり工芸用に重宝されている石、のはずだね」


「ディーさんは物知りですねっ」


「色々頭に叩き込まなきゃやってらんないからね。それで、あれは?」


 前方にある(やしろ)には何かが納められていた。

 よく見ると、握り拳大の丸く大きな魔法石であった。更に、鎖で無数に繋がれた小さな丸い魔法石がまるで封印のように、雁字搦めに巻かれている。


 先程ディリスが感じた異様の正体はこれだった。


 もう少し近くに行こうとした時。



「皆~お疲れ様! ボクのためにありがとね~!」



 ディリス達の後方から声がした。


 振り向くと、そこには手品師風の格好をした緑髪の女性が立っていた。シルクハットを脱いで、手に持っている。


 彼女を見た、ピロクが指差した。


「あ、ああああの人だ! あの人が来た後、お父さんたちをおかしくなったんだ!」


 これで、確認が取れた。

 そして、間違いなかった。


「《殺しの奇術師》、ヴェール・ノゥルドだな。お前みたいな奴がこういう所に来て、何の用なの? 洞窟巡りにしちゃだいぶ手が込んでいるようだけど?」


「あはは! 洞窟巡りを趣味にするの、良いねぇ! ボクの新しい趣味にでもしよっかな」


「質問に答えろ」


「答える義務が? と、言いたいところだけど教えてあげよっかな」


 シルクハットをくるくると回しながら、ヴェールは楽しげに言う。


「その(やしろ)にある物。それをボクにくれれば、村人たちの魔法を解除してあげるし、君達も五体満足で帰してあげるよ。悪い条件じゃないと思うけど?」


 彼女の提案を、ディリスは即却下する。


「ここで貴様を殺せば、それでオールクリアなんだ。呑むとでも思ってるの?」


 この手の要求をする者に対し、絶対に妥協してはいけない。日和ってもいけない。やるならばゼロか全なのだ。全てを失うか、全てを勝ち取るかの二択。


 当然、その答えが分かりきっていたように、ヴェールは満足げにしていた。そして、くるくると回していたシルクハットを被り直す。


「その殺気。君が《蒼眼(ブルーアイ)》だね? ボクの耳にも届いているよ。あの『七人の調停者(セブン・アービターズ)』でありながら、同胞の処刑を任されている化け物中の化け物。殺し屋界隈どころか、裏の人間では伝説の存在だよ君」


「褒められても全く嬉しくないね」


「実はボク、君のファンなんだよ?」


「ファンサービスでもしてやろうか? 今なら首を差し出せば一撃で撥ねてやれるぞ」


 にらみ合うディリス一行と、《殺しの奇術師》。

 膨れ上がる殺気の中、(やしろ)に鎮座する魔法石が呼応するように小さく唸りを上げている。

うっひゃ……すごい殺気。これ生きて帰れるのかな。 byヴェール

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