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第三十話 君はどうしたい?

「えと、今までの事を纏めてみてもいいですかっ?」


「うん、お願いするよルゥ」


 そうしてルゥは今までのことを整理する。


 ドレル村は少し前までは明るい人達しか居ない村で、笑顔が絶えなかったという。

 しかし、そこに現れたのは《殺しの奇術師》ことヴェール・ノゥルド。彼女の目的は竜が眠っているとされる竜の祠の開門。


 村長エドガーはこれに応じなかったため、ヴェールが精神魔法を村人全員にかけた。


 それを察した村長が息子であるピロクに鍵を託し、逃げるように指示を出した、とそういうことである。


「ん、いいまとめだ。偉いねルゥ」


「えへへ……嬉しいですっ」


 撫でられ、嬉しそうにしているルゥを見ると、何故だか無性にもっと撫でたくなる。

 本能に任せ、ディリスは両手でわしゃわしゃと撫でてやるとルゥはくすぐったそうにする。


「あはは……! でぃ、ディーさん嬉しいですけど、くすぐったいです……!」


「……ルゥを撫でると何故か気分が良くなる」


「ずるいルゥちゃーん! ねえ、ディー私も撫でてよー!」


 そこでエリアがぷんすか自己主張してきた。


 特に断る理由も無かったので、同じように撫でてやると、彼女は気持ちよさそうに目を細める。


 コレの何が良いのだろうと、ディリスは空いている手で自分の頭を撫でてみるが、全く良さが分からない。


「はいはいはいはい。仲がよろしいことで! これからの事を! さっさと! 決めましょう!」


「フィアメリアはフィアメリアで何で怒ってるの?」


「怒ってまーせーんーしー? 私もディーに撫でられたい褒められたい甘やかされたいだなんて? 一ミリも思ってませんしー?」


 このままだと埒が明かない。

 強引にディリスの方でこれからの方針を纏めることにした。


「今回の敵がヴェール・ノゥルドだと仮定して。奴は目的を果たすまでは絶対に姿を表さない。だから、やることは一つ」


 それなりの付き合いで次の彼女の言葉が分かったエリアが、それを引き継いだ。


「竜の祠に行く、だね?」


「正解。じゃあ早速行こう。ピロクも来てね」


「えっ、ちょっとディーさん、待ってください」


 ルゥは珍しくディリスの言葉に待ったをかけた。


「ぴ、ピロクくんもですか? 危なくないですか?」


 ルゥの言葉は確かにその通りなのだ。戦う力を持たない彼はここで隠れて、全てが終わるまで待っていたほうが安全といえば安全。


 だが、それ以上に忘れてはいけないことがある。


 誰よりもそれを、ディリスは言いたいのだ。


「ピロク。君はどうしたい? そこに隠れて全てが終わるまで待つか、それとも自分の身内をあんな風にイカれさせたクソ野郎へ一泡吹かせたいか」


 じっと、見つめる。逃げることは許さない。

 ディリスの(まなこ)には、ピロクが一人の人間として、戦士として、映し出されている。

 沈黙は一瞬、ピロクは一歩踏み出していた。


「行く。行って、お父さんを助けたい」


「ん、良い返事だ。あの精神魔法は術者が自分で術を停止させるか、死ぬかすれば解ける。さっさと行こう」


 その姿に、エリアは少しだけ珍しい物を見た感覚に陥った。


「ディー、何だか今日は随分とやる気だね」


 彼女の言葉に、ディリスは頷いた

 正直に言おう。この村の異変の原因が分かった瞬間から、ディリスはだいぶキレていた。


「うん。自らが鉄火場に立たず、ただただ遠目から人間を操作しているような奴は大嫌いでね。そういう奴はきっちり分からせることにしているんだ」


 次の瞬間、ディリスの鍛え抜かれた危機察知能力が警鐘を鳴らす。


 窓の外を見ると、村の人らが農具を持って、この宿屋に向かってくるのが見えた。その瞳は虚ろで、明らかにこちらに“用事”があるといった面構え。


 ピロクの居場所がバレたのだと理解し、早速行動を開始する一行。しかし、その中でフィアメリアは窓から外に飛び出していた。


「ディー。この人達は私が相手します。貴方は竜の祠へ向かってくださーい」


「オッケー。けど、殺しちゃ駄目だよ」


「貴方じゃないんですから弁えられますー」


 着地したフィアメリアは両腰から天秤の刻印が施された細剣を抜く。これこそが《音速のフィアメリア》の愛剣一対。数多の国家叛逆者を斬り刻んできたファーラ王国が誇る魔剣なり。


 眼球だけ動かし、その全ての立ち位置を把握し、戦闘プランを練り上げる。


 殺さず、明日への仕事に影響を出さぬよう戦闘不能にする。

 ただでさえ一対多。難しい条件だ。


 しかして――この程度をこなせずして、この名を名乗れない。



「ファーラ王国騎士団長、フィアメリア・ジェリヒト。可愛い妹分のため、剣を振るいましょう」



 揺らめくように、フィアメリアは先頭の村人の懐へ飛び込んでいた。



 ◆ ◆ ◆



「竜の祠、ここが」


「うん。ここが竜の祠です」


 ピロクの先導で、ディリス達は竜の祠へと辿り着いた。

 洞窟の前に巨大な岩石が扉のように置かれている。これが扉という奴なのだろう。

 となれば、この先にいるはずなのだ。竜が。


「ヴェールはいないみたいだね。じゃあピロク、開けてもらっていいかな?」


「うん、確かコレをこうやってかざすと……」


 ピロクが鍵をかざすと、鍵に埋め込まれた宝石がきらめいた。

 すると、岩石が徐々に横にズレていく。思ったよりがっちり魔法が仕掛けられていることにディリスは少々驚きを隠せなかった。


 これなら力ずく、でというのも少し骨が折れるだろう。


 中は鍾乳洞となっており、ひんやりとした空気が流れてくる。


「よし、行こう」


「え、ディー行くの?」


「うん、行く。行けば必ず何かアクションを仕掛けてくるはずだから」


 そして、ディリス達一行は竜の祠へと踏み出すのであった。

こ、ここは初めて入るな……。怖いけど、頑張る。 byピロク

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