表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/96

第二十九話 村長の息子

「ピロク君……ってさっきの村長の子供でしたっけ?」


「エリアさんの言うとおりです。何故こんな所に……」


 言いながら、フィアメリアは膝をつき、ピロクの目線に合わせる。


「私を覚えていますか? 先日、エドガーさんの所へお邪魔したフィアメリアです」


「うん、覚えて……る、よっ」


 だんだん目に涙が溜まってきたピロクはフィアメリアに抱きついていた。

 少し驚いた彼女だったが、優しく抱きしめ返すと、何かが切れたのかピロクは声を上げ、泣き始めた。


 泣いたら落ち着いたようで、フィアメリアはピロクにベッドの上に座って落ち着くように促す。


「それでピロク君、だよね? 私はエリア・ベンバー! そして、そこにいる銀髪の子がルゥちゃんで、赤髪の子がディー! 私達、フィアメリアさんの知り合いなんだ、よろしくね」


「うん……はじめまして」


 人懐っこいエリアに、ピロクも直ぐに心を開いたようで硬かった表情がだんだん柔らかくなっていく。

 そこでルゥもお話をするために、彼の近くへと寄った。年の近い子ということもあり、心なしかルゥがワクワクしているように見えた。


「る、ルゥです! 仲良くしてくれると、嬉しいなっ」


「よ、よろしく……!」


 少しだけ頬が赤くなったのをエリアは見逃さなかった。


 そこで彼女は一つアイデアを思いつく。


 フィアメリア達を集め、ひそひそと自分の考えを話す。

 エリアの隠された下心はさておいて、彼女の提案は確かに効果がありそうだということで直ぐに承認された。


「えと、ピロクくん。どうして泣いていたのっ?」


 提案は実にシンプルなものである。

 年の近いルゥに話させて、気になった所を大人が適宜質問していくという流れでいくことにした。


「お父さんが最近、変なんだ。ううん、村の皆が何だか変で。話しかけてもおかしな事言うし、ただ黙って見てくるし、訳分かんないよ……」


「何かあったの?」


「わかんない。けど、あの人が来た時からかな」


 あの人、その単語にディリスはフィアメリアとアイ・コンタクトをする。


「どういう人なの?」


「えっとね……短い緑の髪の女の人でね。シルクハット被ってて、なんか手品師みたいな人だった」


 ディリスは脳内で検索をかける。『七人の調停者(セブン・アービターズ)』時代にやらかしそうな奴らをインプットしてきた彼女は、怪しい人間のことはだいたい把握していた。


 すぐにいくつか候補が出てきたが、まだキーワードが足りない。

 後もう一つ、決定的な何かがあれば、絞り込むみまでいける。


「その人って何か変なことしてたの?」


「いきなり一人で村に来て、お父さんに竜の祠の扉を開けてくれって言った」


「普段は鍵がかかってるの?」


「ううん、魔法で絶対開かないようにしてるんだ」 


 エリアがフィアメリアにどういうことか補足を求めると、すぐに彼女は教えてくれた。


「竜の祠というのは文字通り、竜が眠る場所と言われています。そこには容易く入れぬよう、代々村長だけが持つ魔法仕掛けの鍵でしか開けられないようになっています」


「なるほど! フィアメリアさんありがとうございます!」


「いえいえ。大したことではありません。それでピロク君、その人は素直に帰ったのですか?」


 その問いに、ピロクの表情は曇る。


「うん、その時はすぐ帰ったよ。けど、帰る時、“芸をしてから帰りたい”って言ってたから村の人達の前で芸をやってから帰ったみたい」


「ピロクくんは見たの?」


「ううん、そういうの興味ないし。でも、その後からなんだ、お父さんたちが変になったの」


 それではっきりした。

 ディリスの脳内検索にたった一人、ヒットする。恐らく、確定。


「ヴェール・ノゥルドだな」


 ほぼ同時に思い当たっていたフィアメリアもディリスの考えに同意する。


「《殺しの奇術師》と呼ばれている彼女ですね。幻覚と催眠の精神魔法を得意とするフリーの殺し屋だったはずです。おそらくその芸とやらの時に“仕込まれました”ね」


「たぶんね。そして、そんな奴が趣味でこういう村に来るわけがない。誰かの指示で動いているはずだ」


 この異変の犯人がヴェール・ノゥルドだとするのならば、全てに説明がつくのだ。

 彼女が直接手を下すことはほぼない。精神魔法による傀儡化により、自分の目的を果たすのだ。そして、“使い終わった”人間を自殺に追い込むことで手がかりを完全に抹消するというまさに外道の手法である。


「ねえディー。竜の祠って今、開いていると思う?」


「どうだろうね。村長が持っているんなら、今頃この村は壊滅しているだろうし……」


「僕が、持ってる」


 そう言うと、ピロクはポケットの中から小さな鍵を取り出した。魔力が籠もった宝石が埋め込まれており、明らかにただの鍵ではないことが分かる。

 フィアメリアはその鍵を見ると、頷いた。


「間違いないです。一度だけエドガーさんから見せてもらったことがあります。それが竜の祠への鍵。けど、どうしてピロク君が?」


「お父さんが本当におかしくなる前に、僕にくれたんだ。“これを持って、隠れなさい。私にも見つからないように”って。だから、僕、こっそりここに隠れてたんだ」


 村長による刹那の判断が、辛うじて村人たちとそして村長自身の命を繋いでいた。

気に入らないね。 byディリス

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ