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第二十四話 蛇を討った直後では――

 それはルゥが『黒剣(こっけん)のクァラブ』を召喚し、『四鉄腕(してつわん)単眼蛇(たんがんへび)』を打倒した直後の話である。


「っぅ!」


 プーラガリアの外で事態を見守っていたアズゥの身体に激痛が走る。次に、体の力が抜けたような脱力感に襲われる。

 久々に感じたこの状態は、召喚霊が倒されたということの何よりの証拠である。


「アズゥの、喚んだ子が倒されちゃったんだ」


「すごいですね。あの蛇ならもう少し保つかと思ったのですが。どんな召喚霊か分かりますか?」


「……魔王の右腕」


「『黒剣(こっけん)のクァラブ』ですか。やはりとんでもない素質がありますねあの子」


「……アズゥの方がすごい。四つ目を出してれば絶対に勝てた」


 本をぎゅっと抱き寄せながら不貞腐れるアズゥへ、プロジアは無言で撫でてやる。


「それはまたの機会に取っておきましょう。何せ、必ずぶつかってもらう時が来るのですから」


「うん、そうだね。それに、目的は果たせたよね」


「ええ。しっかりとプーラガリア魔法学園の奥にあった物は拝借できました」


 言いながら、プロジアは懐からとある物を取り出す。

 錆びた短剣。だが、刀身からはドロドロとした雰囲気が滲み出ており、明らかにただのガラクタではないことは分かる。


「これであと、五つですね」


「うん、そだね。そうすれば世界は楽しいことになるんでしょ?」


「ええ、世界も楽しいことになりますよ」


「世界、も?」


「……!」



 その時、天空よりアズゥの心臓目掛け飛来する一条の光あり!!!



「アズゥ、下がってください」


 目隠しを取ったプロジアの瞳は、新緑の輝きに覆われていた。


 彼女は何かをする訳ではない。ただ、青髪の乙女を射抜かんと高速で向かってくる光へ焦点を合わせるだけ。


 次の瞬間、光が中空で大きく爆ぜた。


 大部分が削げた光だが、まだ細く小さな光がアズゥへと向かってくる。


 それに対し、剣を抜いたプロジアはそのまま光を真っ二つに切り裂いた。


「大丈夫ですか、アズゥ?」


「うん、ありがとねプロジア」


 すべてが終わった所で、オランジュが血相を変えて飛んできた。


「ちょいちょいちょーい! 二人共だいじょーぶ!? 今の『捜索する光の剣クエスティング・ソード』でしょ!? 何で逆探知されてんの!? しかもあの速度と威力なんて下手すれば街一つなくなるレベルじゃない!」


 こと、魔法については一家言もつ女であるオランジュ・ヴェイストは今の攻撃魔法について本気で驚いていた。速度、精度、威力。そのどれもが一流のレベルを遥かに超えている。


 色々な感想が浮かぶが、それを纏めると“すごい”などという陳腐な所に落ち着いてしまうぐらいには凄まじい。


「クラークですね。恐らくアズゥが召喚霊を出している間に魔力の逆探知をしたんでしょう。……彼の目の届く所で遠隔魔法を二十秒以上行使すると『捜索する光の剣クエスティング・ソード』でカウンターが飛んでくるのを失念しておりました」


「《魔法博士》、か。冗談みたいな奴ね、やっぱり」


「ちなみにオランジュは同じこと出来ますか?」


 突然の馬鹿みたいな問いかけに、オランジュは怒ったように返す。


「無理無理! ただでさえ『捜索する光の剣クエスティング・ソード』なんて高難度魔法を使うのだってだいぶ頑張らなきゃなのに、それをあの質で飛ばすだなんて絶対無理!」


「なるほど、じゃあ彼を怒らせないように気をつけないといけませんね」


 そこで、プロジアは背後を振り返った。

 

「あら、時間通りですね」


「うん、約束事は必ず守るのがボクの数多き美徳の一つだからね」

 

 そこに立っていたのはショートカットの緑髪の女性だった。黒いシルクハットを着用しており、これで手品でもやろうものなら完全にその道の者と思われるような出で立ちである。


 女性はシルクハットを深く被り直すと、オランジュとアズゥへ手をひらひらと振る。


「や、アズゥにオランジュ! 元気? ね、元気? 生きてるみたいで良かったよ~」


「ヴェール、あんた今までどこに行ってたの? 連絡もよこさないで」


 ヴェール、と呼ばれた女性はシルクハットのツバを少しだけ上げる。


「プロジア。見つかったよ。二つ目の“道具”がね」


「あら、ヴェール。それは本当ですか?」


「うん、これから早速行こうと思っててね。一応プロジアに一声掛けておこーかなーって」


「よろしくお願いしますねヴェール。あぁ、あと《蒼眼(ブルーアイ)》が現れたら――」


「分かってる。ボクが殺しても良いんでしょ?」


 あっけらかんと言うヴェールに、オランジュは少しだけお節介を焼いてしまう。


「甘く見ない方が良いわよヴェール。ジョヌが既にやられている。中途半端にやれば、一瞬で喉元喰らいついて来るわよ彼女」


「え? ジョヌやられたの? 真正面からやって勝てる人少ないはずなんだけどなぁ彼。それなら、ちゃんとやることにするよ。あ、でももし順調に殺しちゃったらパールスやそれに、ロッソがキレ散らかさないかな? 大丈夫かな?」


「ロッソはきっと怒ると……アズゥは思うな」


 ロッソの人間性を想像すると、アズゥはこの言葉しか出なかった。

 彼はきっとこんな事を言うだろう、“何で俺に美味しい所を寄越さねぇんだよ!?”と。


 話が纏まりそうな所でプロジアは手をパンパンと叩く。


「さてさて。いつまでもここで立ち話は出来ませんので、このへんでお開きにしましょう」


 そう言いながら、アズゥ、オランジュ、ヴェールの順番に顔を向ける。


「それではアズゥは南のジースト領に入って三つ目の“道具”の捜索を。オランジュは引き続き私の護衛。ヴェールは北へ行き、竜を祀っているという噂の村へ行ってきてください」


「分かった。アズゥ、頑張る」


「ボクも了解ー。じゃあそれぞれ死なないように頑張ろーね」


 気づけばもうアズゥとヴェールはいなかった。アズゥは魔界の移動手段である『魔刀鳥(まとうちょう)ヤゾ』に乗って、ヴェールは溶けるように消えていった。


 それぞれを見送った後、オランジュは大きく欠伸をする。我慢していたのだ、出るものは仕方がない。


「はしたないですよオランジュ」


「ごめんごめん。で、これからどうすんの?」


「ロッソに会いに行きます」


 ロッソ、この単語を聞いた時点でオランジュは護衛を降りたい気持ちでいっぱいだった。


「……冗談?」


「冗談は苦手ですよ私?」


 これでパールスに会いに行くならまだ良い。堅物だけど、まだ人間の言葉が通じるからだ。


 だがロッソは違う。彼はぜんっぜん違う。常識がないとかそういうレベルじゃない。人のくせに、人と会話をしている気分に全くなれない。


「はぁ……憂鬱」


「まあ、襲いかかってきたらそれはそれで対処しましょう」


「それ出来るのプロジアだけだってーの」


 プロジアは征く。

 どこまでもどこまでも底の見えない目的を胸に抱きながら。

あいつに会いに行くのかぁ……まじ面倒だなぁ。 byオランジュ

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