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第二十三話 口は災いのなんとやら

「えと、ディー? 私とルゥちゃんって聞いていてもいい話なの……かな?」


 これから話が始まろうとする寸前、エリアがだらっだらと脂汗をかきながらそう質問する。ルゥもルゥで居心地がとても悪そうだった。


 ただでさえ、『七人の調停者(セブン・アービターズ)』という国家機密の塊なのだ。


 それをリーダーどころか、ディリスとクラーク含めて既に三人も知ってしまっている。


 ――これ、消されるのでは?


 それがエリアの素直な気持ちである。

 だが、それを優しく、ぶっきらぼうにフォローするのがディリスである。


「大丈夫。仮にマズくて命狙われるなら私が刺客を殺すから。相手がフィアメリアだろうが、誰であろうともね」


「ディーそれは駄目だからね? ほんと、駄目だからね?」


「あら? それは聞き捨てならないわねディー」


 その言葉に、フィアメリアが反応する。その口元は少しだけ楽しそうで。


「ディーが私を殺せる、と聞こえたのだけど? あとついでにクラークも」


「やってみせた方が良いのかな?」


 バチバチと、誰も雷属性の魔法を使ったわけでもないのに二人の視線の間には電流が走っていた。いや、これは少々ファンシーな表現と言えるだろう。


 これは詰まるところ、殺気のぶつけ合いだ。


 それも常人が間に入れば、コンマの世界で失神するほどの濃密さ。


「待て! 待て待て待て! どうしていつも私の名前が出てくるんだ!? 私の名前を出さないでくれよフィアメリア!」


「貴 方 が 常 に サ ボ り の 素 振 り を 見 せ な け れ ば 気 に か け な い の で す が ?」


「あ、ディーみたいな口調だ」


「そうですね。ディーさんみたいな、たまに怖くなるアレですね……」


「フィアメリアとコルステッドは私に戦闘の全てを教えてくれたからね。まあ、だから口調も移ったのかな」


 エリアとルゥからの素朴な反応にしれっと答えるディリス。これに関してはもはや隠すつもりも無かった、というのとあの完璧超人フィアメリアに対する細やかな仕返しである。


「じゃあ、フィアメリアさんもディーさんみたいに怖くなるんですか?」


 ルゥの質問に、つい天井を見上げるディリス。


 どう答えようか、ということで悩んでいるのではない。

 どこまで表現を柔らかくしたらいいのか、とそういうことである。


 しばし悩み、ディリスは思ったことを口にする。


「鬼畜という人間に残酷さと冷酷さと鉄血さを掛け合わせたのがフィアメリアって人間だからね。たぶん、ルゥの想像する三百倍は怖くなるってことだけは言っておく」


「ひ、ひぃ……!」


 その人間評価に一言物申したいフィアメリアが一瞬でディリスへと近づく。目にも留まらぬ速さ、正直今この場においては能力の無駄遣いと言っても過言ではない。


「ちょっとディー! 何で貴方はそう、いつもいつも私の風評被害を撒き散らすのですか!?」


「ありのままを伝えているんだよ。音速を超える剣で敵軍の首を撥ね飛ばし続けた結果、そう呼ばれるようになった《音速のフィアメリア》様?」


「ちょーーっと!!! それ以上は駄目よディー!!!」


 言葉だけ、なら実に和やかな雰囲気だろう。


 だが、エリアの目に飛び込んでくる光景を見たら、だれもがドン引きするだろう。

 何せ、照れ隠しに抜いた細剣二刀流で攻撃してくるフィアメリアに対し、ディリスも剣で的確に応戦しているのだ。セリフを聞かずにただ、やり取りだけ見ていればこれは、立派な殺し合いである。


「す、すごい……何も見えない」


「エリアちゃんそりゃあね? 何せ王国の切り札二人だよ? 私も見えないしアレ。何やってんのあれ? 何でディリスとフィアメリアはいちいち首を狙い合ってんの?」


 呆然とするエリアと、分かる分かると首肯するクラーク、いきなりの切り合いに涙目になるルゥ。

 だが、これはあくまでじゃれている範囲。断じて殺し合っているわけではない。


「はぁ……一汗かいて落ち着きました。腕が鈍ってないようで安心しましたよディー」


「フィアメリアは事務仕事でも多かったのかな? 遅 い 剣 速 だ っ た か ら 心 配 に な っ て し ま っ た よ」


 ぴしり、とフィアメリアに電撃が走る。


「ふ、ふふ……なら、もう一戦やりますか? 一割も本気出していなかったので今度は貴方が捌けず、う っ か り 殺 し て し ま わ な い か 不 安 で す が」


 再び走る緊張感。学園長室がもはや戦場の只中と言って過言ではない。

 今にも剣を抜きそうな二人へクラークは近寄り、頭に拳骨を落とした。


「ええいやめないかこのバトルマニア共が。エリアちゃんとルゥちゃんをこれ以上ビビらせるな。フィアメリアもさっさと用件を彼女らに言ってくれ。そしてもうさっさと帰ってくれ」


 それで二人の熱は完全に下がった。

 完全に場を収めたクラークに対して、ルゥは陰ながら小さな拍手を送っていた。さすがは師匠、と。


「……クラークには後で然るべき報復を行うとして、今はそうですね。お願い事を言いましょうか。と、その前にどういった系だと思いますかエリアさん?」


「えっと、フィアメリアさん程の人からディーにだから……暗殺?」


「エリアもだんだん分かってきたね」


「う、うん? 嬉しいような嬉しくないような……?」


「ええ。エリアさんの言うことは近からず、遠からずってところですね」


 そう言ったフィアメリアの表情が引き締まる。

 この顔をディリスは知っていた。これは仕事のスイッチが入ったのだと。

あれ? 私、今日の分の仕事出来てないな? byクラーク

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