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第二十二話 やってきた嵐

「あぁディリス! ううんディー! 久しぶりね!」


 フィアメリアと名乗った女性は薄紫色の長い髪を揺らし、どんどんディリスへと近づき、抱きついた。


「元気にしてたかしら? 貴方が『七人の調停者(セブン・アービターズ)』を抜けてからずっと気になってたのよ!」


 フィアメリアの方が高身長だったので、何だか姉妹の抱擁にも見えてしまう。

 対するディリスはと言うと。


「……あのさ、フィアメリア。あんたにとって初めましての子が二人もいるんだけど、“そのキャラ”で良いの?」


「え?」


 そう言われた彼女の視線は気まずそうな表情を浮かべるエリアとルゥに向けられた。目をぱちくりとさせるフィアメリア。会釈をする二人。


 しばしの時が流れ、フィアメリアはゆっくりとディリスから離れ、咳払いを一つ。


 そして、彼女は言う。


「初めまして皆様。私はフィアメリア・ジェリヒトと申します。あらあら、お二人とも可愛らしいですわね。仲良くしていただけるかしら?」


「や、もう遅いから」


 突っ込みどころしかない状況。

 その中で、一番に口を開いたのはエリアである。


「エリア・ベンバーと言います! よろしくお願いしますねフィアメリアさん! ……って、“あの”フィアメリアさん!? そ、それならファーラ王国騎士団の制服を着ているのも納得です……!」


「え、エリアさん……どういう方なんですか?」


 ルゥは今目の前に現れたエキセントリックな女性に皆目見当がつかなかったので、エリアの服の裾を引っ張り、耳打ちをする。


 エリア自身、とんでもない人物がぽっと現れたことに思考回路が混乱に混乱を重ねている。しかしここで慌てていてはディリスと肩を並べられる人間になれない、と彼女は一度整理を兼ねて説明しようとする。


「えっと~……私が紹介しちゃって良いんでしょうか?」


「ん、良いんじゃない? 私は面倒くさい」


「私も良いですよ? じゃんじゃん紹介……こほん、必要ならば補足して差し上げますから」


 明らかに関係者であろうディリスと、本人から快諾を得られたので、エリアは複雑な気分になりながらも話を続ける。


「えっと、ルゥちゃんこの方はね。フィアメリア・ジェリヒト様と言って、このファーラ王国を守る騎士団のトップである騎士団長様なんだ! しかもファーラ王国の歴史上で初の女性騎士団長!」


「ええっ!? そ、そんなすごい人が今この場にいるんですか!?」


「私も信じられないけどね。話を戻すけど、この人本当に凄くてね。温和だけど常に毅然としている立派な人なんだ。それに、戦う力も凄まじくて《音速のフィアメリア》って異名が付いてるくらい」


「か、かかか完璧超人ですねっ! ふわぁ、私何だか急に緊張してきましたぁ!」


 エリアとルゥのやり取りを生暖かい目で見ながら、ディリスはその“フィアメリア様”へと言葉を投げる。


「だってさ、フィアメリア さ ま ? 良い所で帰っておかないとエリアとルゥからのイメージごりごり崩れちゃうよ?」


「……流石に私もあれだけ羨望の眼差しを向けられちゃったら、何も言えなくなるわね」


「そういう事。じゃあね、短い時間だったけど会えて楽しかっ――」


「そうはいかないわよ」


 がっしりと肩を掴まれるディリス。振り払おうとしても、いかんせん馬鹿力で外せそうにない。


 クラークへ助けを求めるべく、彼の方へ顔を向けるが、彼は既に机へ視線を落とし、これ見よがしに事務仕事をこなしていた。関わりたくない、関わらせるな、という感情が透けて見える。


 そんなクラークに対し、フィアメリアはにっこりと柔和な笑みを向ける。


「クラーク。貴方、昨日定例会に来なかったですね。何 故 で す か ?」


「うぇぇ!? わ、私が巻き込まれるのか!? 今日はディリスに用事があるんだろう!? 私に構っている暇はないんじゃあないのか!?」


「それとこれとは別です。――話しすぎましたね」


 途中で会話を切ったことでディリスは“その先”を察した。


「ううん、喋っても良いよフィアメリア。エリアとルゥは知ってるから。二人は絶対に言いふらさない」


「そう、なのですか?」


 彼女の言葉に、フィアメリアは目を丸くする。そして両腰にぶら下げていた細剣を抜くと、それに魔力を送ってやった。


 すると、魔法的な隠蔽が解かれ、刀身にとある刻印が浮かび上がる。


 それにエリアとルゥは反応する。


「そ、その天秤の刻印って……! もしかしてフィアメリアさんも……!?」


「ディーさんやクラークさんと同じ『七人の調停者(セブン・アービターズ)』、なんですか?」


「うん、その中でもフィアメリアはリーダーを任されている」


「さ、最強の七人であり、リーダー……」


 あまりの情報量にエリアが失神しそうになる。

 いや、これはエリアが珍しいのではない。誰でもそうなるのだ。それだけの立場に彼女は立っている。


「なるほど。本当に色々と知っているみたいですね」


 天秤の細剣を鞘にしまいながら、フィアメリアは現状を理解した。同時に、ディリスが“ここまで”心を開いていたのかとも驚愕していた。

 少なくとも、“あの頃”よりもずっとずっと――。


「ディーにとって、エリアさんとルゥさんはどういう存在?」


「仲間」


「即答、か」


 無表情ではそう言うが、言葉に優しさが込められていた。それが、フィアメリアにとっては羨ましく思えて。


 何せ、『七人の調停者(セブン・アービターズ)』の時にはそんな優しげな声色など聞いたことがなかったのだから。


「良いでしょう。じゃあディーとエリアさん、そしてルゥさんの三人に来てもらいましょうか」


「言ったでしょ。私は『七人の調停者(セブン・アービターズ)』には戻らないって」


「そっちもそっちでいつか叶えたい悲願なんだけど、今回はそっちじゃないの。ディーにお願いしたいことがあって」


「お願い? ファーラ王国の騎士団は何のためにいるの?」


 何度でも触れるが、フィアメリアはファーラ王国の騎士団長である。おまけに女性は騎士団長になれないという古き慣習を徹底的に打ち壊した見るものが見れば伝説の人物。


 そんな彼女には部下達を手足のように使えるだけの権限が与えられており、なおかつ『七人の調停者(セブン・アービターズ)』リーダーも兼務しているので、国王からは国王自身の仕事以外の全ての行いが許さている状態。


 こういった話をされた時点で、ディリスは本当に逃げ出したかった。


 何せ、影の国王とでも呼べる人間がわざわざ組織脱退者に頼み事をするなんて、確実に厄介事でしかないからだ。


「何のために……そうね例えば、“国家転覆を目論む三人組がいるから私の所に連れてきてください”ってお願いして動いてもらうため、かしら?」


「はぁ……相変わらず、あんたは強引だ」


 話を聞くだけ聞いてみようと、ディリスは諦める。

 そうしなければ知らない内にテロリストとしてファーラ王国領を闊歩する羽目になるのだから。

はぁ……面倒だ。本当に面倒だ。 byディリス

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