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第十八話 ルゥの召喚魔法

 今まで戦ってきた中で、ディリスの感じた『四鉄腕(してつわん)単眼蛇(たんがんへび)』の戦力は相当に高い。


 四本腕による高速度・多角的な攻撃力、高いタフネス、尻尾を巧みに使ってくる知能。これほど兼ね備えていては、対応できる人間は皆無と言っていいだろう。


 こうして観察している間にも『四鉄腕(してつわん)単眼蛇(たんがんへび)』は傷つけてきたディリスへ目掛け、突進してくる。


「ルゥ、どれくらい掛かりそう?」


「えっと、ちょっとだけ時間をくださいっ」


「オーライ。エリア、時間稼ぎに付き合ってもらうけど良い?」


「もち! いくよ、ディー!」


 ルゥを最後方に、エリアを真ん中、そしてディリスが前衛を張る。それぞれが出来ることを考えたら理想的な位置取りと言って良いだろう。

 初の三人の戦いが始まろうとしている。


「な、なんで立ち向かえるんだ……彼女たちは」


 クラークの張った防御魔法の中にいたギルスは、彼女たちの行動が理解できなかった。普通、逃げるだろうと。

 何故立ち向かえるのか。


 そこで、ギルスはディリスの持つ天秤の剣をようやく認識することが出来た。


「あの剣は……それに、あの蒼い眼。まさか父上が言っていた……!?」


 小さい頃、父から聞いたことがあった。


 このファーラ王国には正体不明の最強の七人がいると。共通の特徴として、皆天秤の刻印が施された武器と仮面を持ち、そしてそのどれもが一騎当千の強者、という所。

 その構成員にして、そんな彼らが万が一裏切った時、処刑をする役目を持つ者が存在する。


 名は、《蒼眼(ブルーアイ)》。


 蒼い眼と天秤の剣を持ち、どのような強さが相手でも必ず抹殺するというまさに最強への処刑人。

 そんな話を今、このタイミングで思い出してしまう。

 おとぎ話の存在と思っていた人間が……そこまで考えた所でギルスは首を横に振った。


 あり得ない、とそう信じたかったのだ。


「ギルス君、君は聞いたことがあるのかい? 《蒼眼(ブルーアイ)》の存在を」


「クラーク様……もしかして、彼女は、彼女が、あの……?」


「さあね。真贋は君の眼で見極めると良い。そして、君が軽い気持ちで馬鹿にしていたエリアちゃん、そしてルゥちゃんがそんな奴と一緒に、どんな覚悟で肩を並べているのかをね」


「肩を……」


 そこからギルスは口を閉じて、今繰り広げられている攻防へと視線を強く向け直した。


「エリア、イケそう?」


 『四鉄腕(してつわん)単眼蛇(たんがんへび)』が振るう尻尾を剣で受け止め、逆に数度斬りつけ返したディリスは、魔法の準備をするエリアへと目を向ける。


 軽く頷いたエリアは、両の手のひらに攻撃魔法の発動準備を行っていた。


 それを横目で確認したディリスは再びやってくる拳撃に対し、剣で受け止め、大きく弾き上げる。


 仰け反った隙を確認したエリアが両手の炎を開放する。


「貫いて! 『炎の突風(フレイム・ガスト)』ぉ!」


 放たれた炎の突風が『四鉄腕(してつわん)単眼蛇(たんがんへび)』を吹き飛ばす。そればかりか、炎の風圧が巨大な体躯を地面に縫い止めるほどの威力。

 このまま押し切れれば、良かったのだが、足止めの時間は僅か。


「ディー! お願い! もう止められない!」


「オーライ」


 魔力を込めた天秤の剣で首、心臓、脇下を突き刺し続けたディリスは確かに視た。『四鉄腕(してつわん)単眼蛇(たんがんへび)』の回復がほんの少し遅れていることに。


 弱っている、と見ていいのか、そのまま押し切るべくディリスは接近を選択する。


 しかし、それを予見したのかクラークが叫んだ。


「違うぞディリス! 奴には“次”がある!!」


 結果とすれば彼の指摘は正しかった。


 『四鉄腕(してつわん)単眼蛇(たんがんへび)』の四本腕が、身体の色が、どんどん変色していく。さながら宝石のような透き通った輝き。


 外見の特異性もあり、一見神々しさすら感じる敵に対し、クラークはその驚愕の内容を口にする。


「奴は通常時の形態で対応困難と判断したら、その全身を天界の金属に変化させる! 魔法攻撃ならともかく、物理攻撃に対して絶対の耐性を誇るんだ!」


「蛇のくせに脱皮するどころか皮を被るのか」


 攻撃速度も上がり、更に集中させないと致命傷をもらうことになる。


 拳を剣の腹で防ぎ、受け流す。まともに食らってへし折られることのリスクを考慮してである。


 伝説の金属とされる『クラリネス鋼』から造られ、一流の魔術士達によって何重にも魔力を注ぎ込まれることで物理的にも魔法的にも堅固な耐久度を誇る天秤の武器といえど、異界の金属とぶつかって何が起きるか分かったものではない。


 そうなると、自然とディリスはルゥの方へと向いていた。


「問題なさそうだ」


 ルゥの後方に、魔法陣が出来ていた。

 そこから感じる圧倒的な覇気はディリスでさえ少しばかり身震いを覚えるほど。


「エリア、邪魔にならないように出来る?」


「出来るよ、『拘束(バインド)』」


 瞬時に魔力の輪が発生し、最後の時間稼ぎを行う。

 その間にも、ルゥの口は動いている。ただの詠唱ではない、霊語で喚んでいるのだ。

 

プカ(来てください)サフ(私に力を)ヒキミ(貸してくれる人)



 瞬間、世界の空気が変わった。



「な、何を喚ぼうとしているんだあの銀髪の子は……」


 ギルスはルゥと、そして後方から感じる恐ろしい気配に見当すらついていなかった。


 彼の知識として、今この瞬間、ルゥはあの使うことが難しいとされる召喚魔法を行使するということだけは分かっていた。


 だが、何を?


 あんな小さな少女の召喚に応える異界の住人がいるというのだろうか。


 混乱が混乱を喚ぶギルスの肩にクラークは手を置いた。


「良く見ておくんだギルス君。これから来る者を、そしてルゥちゃんを」


「……何かが、聞こえる」


 雑音が沢山の世界のはずなのに、その足音だけがやけに強調されて響いてくる。


 澄んだ音だと、ギルスが感じたのはまずそこであった。だが、それは僅かな時間。


 次の瞬間、感じたのは言いようのない不安感だった。


 今すぐにここから逃げ出さなければいけない、と生物が備えている危険に対する察知能力。


 それがガンガンと警鐘を鳴らしている。


「召喚陣が、扉が開く……」


 音もなく開いた魔法陣からソレはやってくる。

 一定のリズムでコツ、コツと足音を鳴らし続けて、彼はやってきた。


「あ、ああ……」


 成人男性の倍はある身長、身に纏うのは光すら吸収する黒い鎧、頭を覆うはカエルの口のような兜。手に持つは身長と同じくらいの黒い長剣。大柄な黒騎士、というのが第一印象。


 騎士は地面に剣を突き立てると、祈りを捧げる所作を見せる。


 そこで、ギルスは確信した。


「く、黒い鎧の騎士……! あの祈りは彼の者への信仰を表したもの……ま、まさかあの騎士は……!!」


 気づけば足が震えていた。


 召喚霊については色々な研究が積み上がり、良く喚ばれる存在に対しては絵や文献が確認されている。

 だが、“これ”に関してはそういう次元の話ではない!

 何せ、限られた本の挿絵にようやく少し載っているようなそれこそおとぎ話の存在だ。


 そんな騎士がルゥへと近づくと、霊語でこう言った。


イオマロ(我が主の代わりよ)シアデイ(撃滅すべきはアレか)?」


ザラ(そうです)バアルス(けど、強そうです)キユ(それでもお願い)スア(できますか)?」


ノト(造作もない)


 黒い騎士はゆっくりと剣を掴み、構える。

 それと同時に、ギルスは半ば叫ぶ形でその名を口にしていた。

 

「ま、ままま魔王の右腕にして、魔界の猛者達を相手に六十六万斬りを成し遂げた最強の怪物剣士『黒剣(こっけん)のクァラブ』!!?」


 その存在に気づいた『四鉄腕(してつわん)単眼蛇(たんがんへび)』は小さく唸っていた。発せられる圧倒的な闘気に迂闊に動くことが出来なかったのだ。


アリアオ(命令を受けた)アカイ(斬らせてもらうぞ)(弱き者よ)


 黒騎士は今から屠る相手に対し、静かにこう言った。

二度目の召喚……うん、安定しているみたいだね。 byクラーク

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