五話 混乱の中 何も無い
新キャラ登場
停電が続く中、新居で目覚める胡桃 太郎。
「あ、おはようございます。鳥飼先輩」
昨夜は、二人で遅くまで引越し荷物の片付けをしていて、鳥飼が冗談で
「凄く遅くなっちゃったし、このまま太郎君の所に泊まっちゃおうかな♪ なんてね?」
と言ったら
「良いですよ。帰るのも大変でしょうし……」
と、快諾する胡桃。
それで、鳥飼が朝から胡桃 太郎の新居に居るのだ。
「よく眠れなかったんじゃないですか?僕の布団を、本当に使って貰って良かったのに……」
と、胡桃。
そう、色っぽい事は、何も無かった。
ちなみに、鳥飼は緊張して一睡も出来てない。
もちろん、胡桃に襲われる事を警戒してでは無い。
胡桃と「(何か進展が有るかも!?)」と想像してしまって、ドキドキが止まらずに、寝れなかったのだ。
正直 鳥飼は機嫌が悪くなっていた。
「朝ご飯 どうしましょうか?一緒に食べ様にも、何も食材が無いし、電気も停電のままですし……」
と、鳥飼に声を掛ける胡桃。
「えっ!?一緒に・・・そう!一緒によね!食べたいよね!」
“一緒に”の胡桃の一言で、機嫌の良くなる鳥飼。
「ええ、どうしますか?」
と、鳥飼に確認する胡桃。
「出社の途中で買って食べようか?」
と、提案する鳥飼。
「それしか無いですよね」
と同意する胡桃。
社員寮を出て、鳥飼の車に乗る二人。
少し走ってコンビニに入る。
「えっ!?何これ!?」
驚く鳥飼。
「・・・」
呆然と店内を見る胡桃。
店内の棚はスカスカだ。
お弁当などの直ぐに食べられる物のコーナーなんて、完全に空になっている。
そもそも、レジも停電で電卓で対応していた。
「む……無理ですね……」
と、胡桃。
「そっ……そうね……買い物はここでは無理ね……」
と、同意する鳥飼。
仕方無く、24時間営業のスーパーに向かう二人。
「ここもお弁当は無いね」
と、胡桃を見て落胆して言う鳥飼。
「ですね。でも、何か食べられる物をまとめ買いしておきましょう」
と、急いで保存の効く食料を、カゴに詰め込む胡桃。
レジは長蛇の列だ。
「早く出たから何とか間に合うだろうけど、携帯電話も相変わらず使えないから、緊急の時に困るよね」
と、鳥飼がぼやく。
「そうですね。早く通信だけでも回復して欲しいですよね」
と、胡桃。
携帯電話が使えなくなって、もう半日以上 経過している。
「さて、行こうか?」
「はい。運転宜しくお願いします」
二人の勤め先の備前稲葉株式会社に向かう。
「おっ?来たか?このまま県庁に向かうから」
社内に入ると、稲葉社長が待ち構えていた。
「「はい!」」
いきなりでビックリする二人。
「やっぱ渋滞 ひでぇなぁ……何しとんじゃ警察はよぉ」
ハンドルを握って、口調が荒くなる稲葉。
運転をするのが好きとの事で、移動は稲葉が運転する事になったのだ。
そんな車内での稲葉の豹変など有りながら、車は県庁に着いた。
「さ、行こうか?桃太郎君」
変わらず胡桃 太郎を胡 桃太郎だと思っている稲葉。
「あ、あの社長……」
困り顔の鳥飼。
「えっと……はい」
無難に返事する胡桃。
「さあ、ここだ」
岡山県のPRを担当する部署のドアの前の三人。
コンコン
「はい」
中から返事が
「失礼します」
と、ドアを開ける稲葉。
「「失礼します」」
と稲葉に続く二人。
「稲葉ですが、猿飼さんは居ますか?」
「はい。居ますよ」
奥から濃い顔の男が現れた。
「あ、猿飼さん。電話が使えないので、直接 伺いました」
濃い顔の猿飼に稲葉が言う。
「あ〜 だよなぁ?うん。電話もパソコンも何も使えんでよ。困っとんよ」
ぶっきらぼうに言う猿飼。
「うちも同じです」
苦笑いする稲葉。
「あれよな?PRのよな?」
「あれじゃ、居るかわからんけども、取り敢えず知事の茨木さんに挨拶行こかのぅ……」
背中や胸や首など、身体をポリポリと掻きながら言う猿飼。
「そうですね。そうしましょう」
と、稲葉。
四人で知事室に移動する。
猿飼と鳥飼は、移動しながらポリポリと身体を掻いている。
「どうしました?」
移動しながら、鳥飼に声を掛ける胡桃。
「いや、何だか身体がむず痒いのよね・・・」
と、鳥飼。
「おっ?お前もか?わしもじゃ」
と、猿飼。
知事室の前に着く。
コンコン
「猿飼です。県のPRの稲葉さん達が来庁されたので、お連れしました」
「はい。どうぞ」
と、中から返事が。
「(やっと……やっとPR人員としての仕事が始められる)」
少しホッとする胡桃。
この後の自分自身の運命の大変化も知らずに…