四話 裏では混乱 表で乙女心の氾濫
水面下で起こっている事と、三人のほのぼの道中記。
県庁の知事室が騒がしい。
「岡山県の山間部の警察官、そして岡山県に隣接した地域の兵庫県警、広島県警の各警察官が、『気は確かか?』と思う様な報告をしています」
岡山県警幹部と思われる人物が、県知事の椅子に座っている中年男性に伝えている。
「どんな報告かね?山本警視?」
と、報告された男は問う。
「はい。茨木知事、内容は……」
「はあ……言葉にするのを……本当に躊躇う様な……内容で……」
「岡山の鳥取側や兵庫や広島が、『ジャングルに変わった』……と……言うのです」
山本警視は、強い戸惑いを感じながら、茨木知事に報告した。
「何の冗談ですか?」
と、怪訝そうな顔で聞き返す茨木知事。
「はい。私も冗談だと思いたいのですが……」
「その報告をしてきた警察官は、一人や二人では無いのです」
「岡山県を中心に、各所から報告が入っているのです」
疲れた顔で応える山本警視。
「うーん……何名くらいが?」
と、確認する茨木知事。
「兵庫県警の警察官だけで、十名を超えています」
「広島県警と岡山県警の警察官も合わせると、三十五名です」
頭を抱えながら答える山本警視。
「なるほど、それだけの人数では、冗談では済まされませんね……」
と、茨木知事。
「はい。しかも、映像付きです」
泣きそうな顔で補足する山本警視。
「なっ!?なんですと!?早くそれを見せなさい!」
「何故 先に見せないのですかっ!?」
と、椅子から僅かに立ち上がり、若干 怒り気味の茨木知事。
「最初から映像を見せたのでは、それこそ悪い悪戯だと、思われそうだったからです」
と、申し訳無さそうに答える山本警視。
「たっ…確かにそうですね……」
納得する茨木知事。
「では……」
と、映像を映す準備を部下にさせる山本警視。
知事室には、大規模停電時用の発電機から電気が送られてきている。
岡山県内では、知事室を含め、病院等 一部しか電気が利用出来ない。
その電気が利用出来たのは、知事にとって幸運だったのか、不運だったのか……
そして、日本とは思えないジャングルばかりの上映会が、知事室で始まった。
休憩を入れながら、約三時間の上映会が終わった。
頭を抱える茨木知事。
「多分 海側にも変化が有るのだろうと推測しています」
と、山本警視。
更に頭を抱える茨木知事。
「調査を行いたまえ……」
と、山本警視に告げる茨木知事。
「そうしたいのは……山々なのですが……」
困惑する山本警視。
「出来ないのかね?」
と、半分キレて問い掛ける茨木知事。
「岡山県の周囲が……この状況です」
「信号など人の生き死にに関係する物まで、全て停電で使えません」
「県内の警察官は、調査をする余裕が全く有りません」
ため息を吐きながら、また泣きそうな顔で答える山本警視。
道は渋滞や事故で大混乱。
電車も動かず、公共交通機関も麻痺している。
当然 流通も滞り、県内の全ての商店は大混乱である。
今回の事で、まだ死者の報告が無いのは奇跡と言っても良い状況で、難しい指示を、警察官全体にしなければならない。
調査どころか、人手不足で困っている程だ。
それを事細かに説明する山本警視。
「岡山県警の状況を、御理解頂けましたでしょうか?」
と、申し訳無さそうな山本警視。
「なるほど……その状態では、調査を県警に依頼するのは酷だね……」
と、頭を抱えながらも、同意する茨木知事。
「自衛隊の協力も欲しいが、そちらは事情を説明して、災害派遣として、県内の治安維持はして貰えても……」
と、茨木知事。
「そうですね。それ以上の権限が県知事には有りませんから、調査の依頼を自衛隊にするのは……無理でしょうね……」
と、続ける山本警視。
「解った。報告をありがとう。県警の仕事に戻ってくれたまえ」
「この件は……私が考えてみよう。調査は必要だからな」
と、山本警視にお礼を言って、解決策を考える茨木知事。
場所が変わって、犬飼の住まいの近くに車を停めた、鳥飼の車の車内。
「お疲れ様」
と、犬飼に言う鳥飼。
「お疲れ様でした犬飼先輩」
と、胡桃。
「じゃあ、頑張れよ。鳥飼」
と、にやにやと笑う犬飼。
「うっ!うるさい!」
と、真っ赤な顔で車を動かず鳥飼。
「頑張れって、やっぱり渋滞している中を運転して貰うのって、ご迷惑ですよね?鳥飼先輩」
と、凄く申し訳無さそうに言う胡桃。
「えっ?良いのよ。私は頼って貰えて嬉しいんだから……」
と、照れながら応じる鳥飼。
「あ、はい。ありがとうございます」
と、不思議そうな顔の胡桃。
そんな会話をしながら、渋滞の中 少し移動すると大きなホームセンタータイムに着いた。
大きく落ち着いた雰囲気の胡桃 太郎が東京では見た事が無いホームセンターだ。
「ここなら自転車も多く置いてるわよ」
と、得意気に胡桃に説明する鳥飼。
「へー 色んな物が置いてあるんですね?外の園芸コーナーも面白そうでした」
と、お店が気に入った風の胡桃。
「こっちにはペットショップも在るのよ」
と、胡桃に教える鳥飼。
「でも、もう薄暗くなってきて、停電ではよくわからないですね」
と、困惑する胡桃。
「そうね?今日は簡単に見るだけで帰る?」
と、胡桃に確認する鳥飼。
「はい。そうします」
買い物を諦めた胡桃
「なら、帰って一緒に引っ越しの荷物の片付けをしようか?」
と、鳥飼。
「えっ?それはいくらなんでも悪過ぎますよ……」
と、苦笑いの胡桃。
「えっ?そう?あの荷物を一人で片付けは大変でしょう?」
と、鳥飼。
「まあ……」
と、考える胡桃
「じゃあ…… お願い出来ますか?」
と、間を置いて応える胡桃。
その応えに満面の笑みで
「よろこんで!」
と、応じる鳥飼だった。
この後 二人は懐中電灯を2つだけ買って、胡桃 太郎の新居で一緒に片付けを遅くまでするのだった。