一話 胡桃 太郎 です。
災難続きの主人公
その日 僕は岡山県に移住した筈だった。
眩い光に世界が包まれて……
光の洪水
その光が消えたので目を開けたら……
岡山県に、やはり僕は居た。
「(あれ?これは異世界に転移する流れじゃないの?)」
心の中で、異世界転移の神様(そんな存在があるのなら)にツッコミを入れていた。
異世界に行きたかった訳じゃないけどね。
僕の名前は胡桃 太郎
大学を卒業したばかりの新社会人一年生!
宮崎県生まれの東京都育ち。
宮崎県出身の父親と、そんな父と観光で来た宮崎県で知り合った、東京都出身の母親の両親の下に元気に産まれた。
旧姓は佐藤、そう元々は佐藤 太郎と言う氏名で、宮崎のおじいちゃんが決めた太郎と言う名前と、全国に数多居る佐藤と言う名字で、「俺は銀行の記入例かっ!」とコンプレックスになる位に、自分の名前が嫌だった。
でも、幼稚園に通う幼い頃に両親は離婚し、母は実家に僕を連れて戻り、後に僕は母の再婚相手の姓である胡桃を名乗る事になる。
この胡桃って姓も、僕の名前の太郎と繋がると、胡 桃太郎みたいで変だとは思うけど、まだ普通過ぎて変わっていた佐藤姓の頃よりは、僕としては良かったりした。
(全国の沢山沢山居る佐藤さん ごめんなさい)
そんな関係で、幼い頃から、よく宮崎県に行っていた(母も宮崎県自体は大好きだった)ので、大都会の東京での暮らしより、のんびりした田舎での生活が、自分自身に合っていると感じながら、大学を卒業するまでは、東京都で暮らしていたが、卒業と同時に、田舎暮らしをしたいと、就職先と同時に移住先を探していた。
もちろん、実の父親にも相談をしたが、「宮崎じゃ仕事がねぇーぞ」と東京都で暮らす事を勧められた。
そんな感じで探していたら……岡山県が岡山県のPR要員を募集してた!
ん?募集の中に桃太郎の絵が描き込まれている。
何で桃太郎?ん?ググってみるか……
吉備津彦?桃太郎のモデルが?
これって…もしかして、僕の名前から採用されやすいんじゃないかな?
って感じで、気軽に応募してみたら、採用決定!
県にPRを委託された会社に契約社員として勤める事になった。
引っ越しの荷物を会社に指定された所に送って、会社に初出社したその日 社長から「胡 桃太郎君 よく来てくれたね」と言われて、
間違いを訂正しようと社長に話し掛けた瞬間に……
あの光の洪水が起こった。
あれって何だったのだろうか?
あの光の洪水の後は停電で昼間でも、今居る社長室も含めて社内は薄暗かった。
いや、それより名前の間違いを訂正するのが先だ。
「社長 すいません。僕は……」
「あ、すまんな、今から県の担当者と話をする事になっててな、私は失礼するから、後は先輩達に聞いてくれ」
「えっ!?あ、はい……」
訂正 出来なかった。
社内がざわついている。
停電のままで仕事にならない様だ。
「初めまして、鳥飼です」
女性の先輩が挨拶をしてきた。
「あ、失礼しました。僕は胡桃 太郎と言います。これから宜しくお願いします!」
「えっ?クルミタロウさん!?えっ?エビスモモタロウさんじゃなくて!?マジですか!?」
少しぽっちゃりしたおかっぱみたいな髪型の僕より少し年上だろうなって女性の先輩が焦っていた。
「はい。胡桃 太郎です。送った書類にもフリガナでそう書いています」
「あっ!?本当だ!写真に見惚れて…じゃない……フリガナを見落としてた!あーーっ!まっずぅ〜い……どうしよう……」
「いや、どうしよう…と言われても……」
「あっ!ごめんなさい!太郎さんに言った訳じゃないのよ!?」
「・・・」
「あっ!太郎さんって名前で呼んじゃった!」
鳥飼先輩は、一人であたふたとテンパっていた。
「と……とりあえず、今日は社内の案内をしますから、覚えて下さいね」
「はい。ありがとうございます」
「でも、名前が違ったって大丈夫なんですよね?」
「・・・」
「(いや、そこで黙らないで!不安になるから!)」
「わ…私が何とかするから安心して!」
「はい。宜しくお願いします。(ってめっちゃ不安なんですけど!)」
社長室から出て、小会議室に案内されて、岡山県PRの社内担当のもう一人を、鳥飼先輩に紹介される。
「この人が一緒にPRを手伝ってくれる先輩の犬飼さん」
「胡桃 太郎です。これから宜しくお願いします!」
「あ、えっ?クルミタロウ?あれ?エビスモモタロウって聞いてたけど……どうなっとんね?鳥飼?」
「えっ?胡桃 太郎さんだった様です。フリガナを見落としてました…」
「おーーーい!見落としたって……」
と、そんな二人のやり取りを、不安そうに見ていたら
「あ、ごめんよ。犬飼です。いや、君は悪くないんだろうけどね…ほら、君 名前で選ばれた部分が大きいから……」
「(だよねぇ〜 うん。わかる。わかるよ。それ狙いで応募したんだもん!)」
「そうなんです!私が悪いんです!でも、胡 桃太郎とも読めるし!私は良いと思います!」
「いや、まぁ……そうだけどね……」
気弱な感じの少しぽちゃっとした容姿の中国の映画に出てくる食堂の店主って感じの犬飼先輩は、鳥飼先輩の勢いに圧されて、言いくるめられていた。
「あの……」
そうして二人に声を掛けようとしたら、社内が凄く騒がしくなっていた事に気が付いた。
いや、外も様子がおかしい。
「電話が繋がりません!」
「携帯電話もダメです!」
「いや、それはおかしいだろう!普通は停電しても使えるだろう!?」
「でも、使えないんです!」
「どこにも繋がりません!」
「(えっ!?マジかよ!)」
スマホを取り出して見てみる。
確かに通知エリアのアンテナが全く立ってない。
「あの光 何か有ったんでしょうか?」
二人に聞くも、二人が答えられる訳が無いのは解っていた。
「どうしたのかしらね?」
「災害!?やばいんじゃないの?」
ガシャン!
外で車のぶつかる音が聞こえた。