九話 テレビ会見とデニム生地
やっぱりなかなか冒険に出ない一行
岡山県庁に着いた一行。
着いたは良いが、妙に県庁が騒がしい。
「どうしたんですかね?」
と、胡桃。
「どうしたんだろうね?」
と、稲葉。
「あ、猿飼さんが居ましたよ!」
と、鳥飼が指を指す。
「こんにちは、猿飼さん この騒ぎはどうしたんですか?」
と、稲葉が代表してたずねる。
「おー 稲葉さん いやね。知事がテレビで会見するんよ」
と、説明する猿飼。
「「「「えっ!?」」」」
と、驚く一同。
「今の状況をテレビで伝えるんですか!?」
と、稲葉。
「会見して伝えんでもわかるしのぅ……」
と、疲れた顔で猿飼が言う。
「そうやけどねぇ……大事になりゃせんか?」
と、犬飼。
「おっ!?始まるみたいやぞ」
そう一同に伝える猿飼。
〈こんにちは、県知事の茨木 良太です。今日は、県民の皆様にお伝えしたい事があり、この様にテレビ会見を行わさせて頂きました〉
県庁内に置かれているテレビから声が聴こえる。
〈お伝えしたい事とは、最近起きた大規模停電にも関係したものです〉
県庁内がザワザワと、より騒がしくなってきた。
〈異変は岡山県を中心とした地域だけでは無く、広範囲に起きています〉
この言葉を切っ掛けに、状況を聴こうと、少し県庁内が落ち着いてきた。
〈今 岡山県は、ジャングルに囲まれています〉
「えーーっ!?」
「なに?なにが!?」
「うるせぇーよ!黙れ!聴こえなくなるだろっ!」
「ジャングル!?冗談でしょう!?」
「静かにして!」
今の岡山県の状況を知事が話し、県庁内が混乱してしまった。
〈この放送を観て、驚かれているでしょうが、落ち着いて続きを聴いて下さいます様に、お願いします〉
「静かにして!聴こえない!」
会見の知事の言葉と、この声を切っ掛けに、少し話し声が聴こえなくなってくる。
〈驚かれるのは当然かと思います。私自身も大変 驚いており、こう話している私も「信じられない」と言うのが、正直な気持ちです〉
「静かにしてよ!聴こえない!」
県庁内が、より静かになる。
〈今 県は最大限の努力をして、事態の解決に動いております。ライフラインの一つの電気も回復させ、調査隊も編成しました。是非 県民の皆様の御協力をお願いします〉
「調査隊って俺等の事よな?」
と、猿飼が一同に聞いてきた。
「いや、県庁の人に聞かれても……」
と、困惑の胡桃。
「多分 わしらよなぁ?」
と、かぶせて周りに聞く犬飼。
「そうなのかもなぁ……」
と、稲葉。
「えっ?えっ?えっ?」
テンパっている鳥飼。
〈県民の皆様には、調査隊への協力を、是非是非 宜しくお願いします〉
重ねて調査隊への協力を呼び掛ける県知事の茨木。
〈調査隊員の写真をお見せします。協力を求められましたら、出来る範囲で結構ですので、御協力をお願いします〉
バンッ
と、画面に四人の人物の写真と名前が映し出される。
【鳥飼 ちえみ】
【犬飼 準一】
【猿飼 大悟】
そして、当然
【胡桃 太郎】
の四人だ。
ちなみに、胡桃の名前の記載は、【胡 桃太郎】となっていた。
〈この四人の調査の協力をお願いします〉
テレビ会見が終わり、各局とも独自の報道に切り替えた。
県庁内のテレビには、ドローンで撮影された、吉備国の地域の周囲を取り囲む、どこまでも続く大森林が映し出されている。
そして、画面の上部には、帯で調査隊の四人の写真と名前が表示されている。
「一気に有名人じゃな、わしら」
と、猿飼。
「あ、居た!猿飼さん 知事からの伝言です。稲葉さんの所の方々が来られたら、知事室まで連れて来る様にとの事です」
と、声を掛ける職員。
「おっ?わかった。てか、来とるが」
と、猿飼。
「それじゃ呼ばれているみたいですし、知事室に行きましょうか……」
と、ため息を吐きながら言う稲葉。
知事室の前に着くと、周囲はざわざわとしていた。
コンコン
「猿飼です。稲葉さんの所の方々をお連れしました」
ガチャ
ドアを開けて入る猿飼。
「こんにちは、待ってましたよ」
と、茨木が迎える。
茨木は知事室内に居た秘書に
「記者の方々を入れて下さい」
と、伝える。
ざわざわとしながら入る記者達。
「今から調査隊の任命式を行います」
と、茨木。
パシャパシャ
パシャ
パシャパシャパシャ
パシャパシャ
パシャ
写真を撮り出す記者達。
「では、こちらに……」
と、茨木に促されて、
前に進み出る胡桃と鳥飼と犬飼の三人。
「猿飼君も一緒に並んで下さい」
と、茨木に促され、渋々並ぶ猿飼。
「稲葉さんの所の社員三人の方々には、大変な苦労も有ると思いますが、この異変の調査を宜しくお願いします。そして、その補佐として、猿飼君には頑張って下さい。宜しくお願いします」
と、茨木が言葉を掛ける。
パチパチパチパチ
パチパチパチパチ
知事秘書や稲葉が拍手をして、それに合わせて知事室内の人達が拍手をする。
「が…頑張ります!」
と、胡桃が言い、頭を下げて礼をすると、他の三人も礼をする。
「それでは、調査の備品を渡しますね」
と、茨木。
知事室内に置かれた食料品やキャンプ用品を渡された。
「さて、猿飼君には……これの管理をお願いします」
と、長い棒状の物が入った布の袋を渡してきた。
どう見ても……
【日本刀】だ。
「「「「えっ!?」」」」
一斉に驚きの声をあげる四人。
「岡山県警と協議をした結果、銃は危険だが、護身用の物は必要との事で、こちらの刀を特別に携帯させて貰える事となりました」
と、茨木
「一本だけだけどね」
と、付け加える。
「これは胡 桃太郎君が使用して下さい。使用の可否は、猿飼君の判断に任せます」
そう四人に告げる茨木。
「「「「は、はぁ……」」」」
と、キョトンと返事をする四人。
「それと、調査の時の作業着は、丈夫で調査隊と解り易い物が良いので、こちらをどうぞ……」
と、秘書の人達が、四人に何やら袋を渡してきた。
「あちらで着替えて下さい」
そう促されて、知事室内にパーテーションで囲われ作られた更衣室で、四人が着替えをする。
「「「「えっ?これって……」」」」
パシャ
パシャパシャ
パシャパシャパシャ
パシャパシャ
パシャ
更衣室から出てきた四人を記者が撮る。
「デニムの上下!?」
お互いの格好を見て、悲しそうな顔をする四人の調査隊員。
「「「「(いや、デニムは良い生地だけど、上下共って!)」」」」
四人共 全く同じ事を、心の中で叫ぶ。
「あのぅ…… もっと普通の……普通のですね……作業着みたいなので……良いんですが……」
と、猿飼が堪らず茨木に言う。
「いやいや、岡山と言ったらデニムでしょう!県民の皆さんに、岡山県庁の公式な調査隊と解って貰いやすいですしね」
そう言って譲らない茨木。
流石 県知事 郷土愛が強いのだ。
「確かにね。岡山と言ったら、デニムに牡蠣にフルーツに桃太郎ですけどね。でも、調査隊だからってデニム上下は……」
と、何とかデニム上下を避けたくて、犬飼も変更を求める。
「よく分かっているじゃないか。だから、デニム上下の作業着だよ」
そう軽く言う郷土愛の強い茨木。
「いや、でも…ですね。もっと動きやすい…普通の生地の方が……」
と、鳥飼も変更を求めて参戦。
「何を言うかね?デニムは動きやすいよ。ジーンズにも使われる位だしね」
郷土愛が120%な茨木知事は引かない。
「すいません。デニムは素敵だと思いますけど、上下って……嫌です」
と、都会人な胡桃が我慢出来ずに素直に言ってしまった。
「大丈夫!岡山のデニムは最高だから!」
流石 県知事の茨木の郷土愛は凄い!
そのままデニム上下の作業着で、取材陣の撮影会が始まった。