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流浪の魔導師   作者: 麺見
3章 裏切りのジョーカー編 第1部 西の兄弟

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70. 召魔師

「何だ、知らねぇか? 東側に()はいねぇのか? まぁいいぜぇ、説明してやる」


 ゼルはグラスをテーブルに置いて話し出す。


「この世には()って呼ばれる存在がいる。が、大抵姿は見えねぇ。それどころか実体がねぇ。その辺をウロウロさ迷ってるらしいんだがなぁ、正直見えねぇから分からねぇ。普通に生活してりゃ絡むことなんてそうそうないんだが、何かの拍子に生きてる(もん)に取り()くことがあるらしい。魔が差す、って言うだろ? あれは魔が取り憑いて悪さしてるんだ、なんて言うヤツもいるぜぇ。

 んで、その魔を呼び出し、実体を与え使役しよう、ってのが召魔師(しょうまし)だ。倒した後、死体が消えたろ? 与えられた実体を失ったからだ。

 ここからずっと南、内海(ないかい)を渡り密林を抜け、砂漠を越えた辺りに〈召魔(しょうま)の里〉って呼ばれる小国がある。召魔師ってのは全員その国の出身だ。エクスウェルもな」


「召魔師、初めて聞いた……」


「召魔師は数自体少ねぇ。こんな北の方まで来るヤツもそんないねぇだろうし、さすがのドクトルもお前に教える必要がねぇと思ったんだろ? でもジョーカーにはエクスウェル以外にも何人かいるぜぇ、カディールもそうだ。アイツは魔導師兼、召魔師だ」


「四番隊のマスターの人だっけ?」


「そうだ。アイツは純粋な召魔師としての腕はエクスウェルより上なんだが、残念な野郎でな、いかんせんそれを活かしきれてない。宿舎に設けた研究所(ラボ)にこもって一日中召魔実験してたりよ、研究熱心で向上心もあるんだが……」


「いつだったか、エライ目にあったよな、マスター? 今思い出しても腹が立つぜぇ……」


 ブロスは腕と足を組み、椅子の背にもたれながら顔をしかめる。


「ん? そりゃあ、どの話だ?」


「ほら、何かすげぇでけぇヤツ呼んでよ、そいつが言うこと聞かなくて、全員で討伐したろ?」


「ああ、あれかぁ。カディールのヘマ話なんていっぱいあるからよ、どれのことか考えちまったぜぇ。確かにありゃ、酷かったな……」


 ……そんないっぱいヘマしてんの?


「あん時は敵の数が多くてなぁ、どうすっか? って言ってたらカディールの野郎、とっておきのを呼んでやる、つって城壁ぐらいありそうなバカでかい魔を呼び出してよ。蹂躙(じゅうりん)せよ、なんてカッコつけて指示出したものの、全然言うこと聞かなくてこっちに向かって暴れ始めた。で、結局全員でそのでけぇ魔を倒したんだ。敵倒しながら魔も倒すってどんだけ難易度(たけ)ぇミッションだよ」


 ああ、ホルツが話してたな、四番隊のマスター、変人とか、バカとか……


「……ホルツにも聞いた覚えがあるんだけど、そんな人にマスター任せていいの?」


「ホルツは言ってなかったかぁ? アイツはすげぇつえぇんだよ。だから降ろせねぇんだ」


「ああ、言ってたわ、そんなこと……」


「さっき話したけどなぁ、アイツは召魔師としてはエクスウェルよりも上だ。召魔師の優劣の付け方はなぁ、どれだけ(つえ)ぇ魔を呼べるか、ってことだそうだ。エクスウェルが呼び出す魔はどれも大したことがねぇ。ただ、数を呼べる。十や二十って単位じゃねぇぞ、百単位だ。だから部隊の穴埋めとして運用できる。

 対してカディールは数を呼べねぇ。せいぜい五、六体がいいとこだ。だが、すげぇヤツを呼び出せる。聞いた話じゃ魔人や魔獣っていった(たぐ)いの、えげつねぇのも呼べるらしいぜ?」


「何それ? そんなのいるの?」


「魔は実体がないって話したろ? 連中は身体(からだ)が欲しいんだそうだ。だから召魔師の呼び掛けに応じて現れる。召魔師がかりそめとは言え身体をくれるからだ。だが、中には自力で身体を手に入れるヤツがいる。生きてる(もん)に取り憑き、その身体を完全に乗っ取るヤツ、長い時間かけて自分で身体を創り出せる力を持ったヤツ。実体を持った魔、人形(ひとがた)は魔人、動物の姿は魔獣って呼ぶんだ。

 どんな方法であれ、実体を手に入れた魔は強力だ。普段人と交わることなんてねぇんだが(まれ)に姿を表してな、ハンディル連中が討伐に行ったりしてるが、結構な犠牲が出てるらしいぜ? そんなのを呼び出せるってことは、召魔師としては上等だってことだな」


「ふ~ん……」


 そういう話を聞くと、自分は異世界にいるんだ、と改めて認識する。最近この世界に馴れてきたのか、レイシィと出会った頃のある種の違和感(・・・)というものがなくなってきている。何と言うか、この世界で産まれて育ったような、馴染んできている、と言うか……


「あ~、だったらさ、召魔師がもっと増えれば(いくさ)も楽になるんじゃないの? 自分で戦わなくていい訳だし、ある意味安全なんじゃない?」


「そうだなぁ、そうなりゃ確かに楽なんだが、そう上手くもいかねぇんだ。まず召魔の里は、広く世の中に召魔師を浸透させようとは考えてねぇ。なぜなら希少価値を高めるためだ。連中、召魔師を育成して外へ送り出し金を稼いでるんだが、召魔師の力を理解してる国や組織は当然欲しがるだろ? でも数が少ないってなると、どうしたって単価(・・)が高くなる。需要は多く、供給は少なく、物の価値を高く維持する簡単な理屈だ。

 同時に召魔師の育成方法ってのは、国家機密並みに厳重に管理されてるらしい。他の国で召魔師が育たないようにな」


「国家機密って……いくらでも漏れそうだけど? 外に出た召魔師が喋ったらすぐに広まるでしょ?」


「そう思うだろぉ? ところが広まらねぇ。召魔師は喋らねぇんだ、故郷(くに)のことは勿論(もちろん)、どうやって召魔師の力を手に入れたか、ってこともな。カディールにしてもエクスウェルにしても、不自然なくらい喋らねぇ。召魔師としての価値を守るためか、故郷(くに)に義理立てしてるのか、それとも他の理由があるのか……」


「その辺にしようぜ」


 ブロスはグイッとグラスを空ける。


「夜も更けた、明日も(はえ)ぇだろ? 召魔師に興味があるならカディールに直接聞けばいい。ま、何も教えちゃくれねぇだろうがな。それに、戦闘になりゃ嫌でも理解する。召魔師ってのはとんでもねぇ、ってな。同時にカディールのことも理解できるだろう。この人もある意味(・・・・)とんでもねぇってよ」


「はっはっは、上手いこと言うじゃねぇか、ブロス。確かにアイツはとんでもねぇ」


「何でもいいけどよ、()き回すことだけはしないで欲しいよな。ちゃんと命令を聞ける()を呼んで欲しいもんだぜ」



 ◇◇◇



 翌日アルマドに入り、ジョーカー本部である始まりの家の様子を知ることになるのだが、その時になり初めて会談で話していたエクスウェルの言葉を(しん)に理解することになる。



「お前の味方は本当に味方なのか?」

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