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流浪の魔導師   作者: 麺見
2章 イゼロン騒乱編

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55/322

55. 闘う修道士

 次々とオークが押し寄せてくる。


 できる限りの早く、できる限り正確に雷を放つ。が、追い付かない。つなぎ(・・・)の魔散弾を放ち牽制しようとするが、オークには効かない。操られているからだろう、目眩(めくら)まし程度では(ひる)まない、その程度ではこの突進を止められないのだ。

 今回のオークは甲冑を着込んでいる。試しに魔弾を高速旋回させ甲冑の貫通を試みるが、分厚い金属の板は中々破れない。

 足止めのために足元に向け魔弾を放ち、地面で炸裂させる。いくらかのダメージは与えられるが、致命傷には至らない。

 そうやって騙し騙し戦っていたが、やはり敵の圧の方が強い。いつの間にかジリジリと後退しながら戦っていることに気付いた。燃やせば楽なんだろうが、街中で火は点けたくない。と、すぐ右斜め前方に剣を振り上げているオークが視界に入った。


(くそ、しょうがない、燃やすか?)


 魔弾を放とうとしたその時、


 ズンッ


 オークの胴を、甲冑ごと槍が貫いた。右を見ると濃紺の法衣、修道士が刺した槍をグッと引き抜いている。


「討ち漏らしは引き受ける。あんたはとにかく敵の数を減らすことに専念してくれ」


 するとすぐ左では、大きな太い剣を上から下へ振り下ろす、ガタイの良い修道士の姿。オークは頭から真っ直ぐに切りつけられて、そのまま後ろに倒れた。


「この兄ちゃんに敵を近付けさせんな! ただし前に出過ぎるなよ、魔法食らっちまうぞ!」


 いつの間にか周りには、十人ほどの修道士がいた。剣に槍、手斧に短剣、得物はバラバラ、戦い方もバラバラ、でも強い。


 修道士達がここまでできる(・・・)とは思わなかった。修道士が戦っているのを見たのは蜘蛛狩りの時だけ。正直、特別な印象は持たなかった。しかし、対人戦のこの強さはどうだ? 相手が蜘蛛から人に変わるだけで、ここまで違うとは。そう考えるとあの大蜘蛛は、修道士達にとっては結構厄介な存在だったのだろうか?


 俺は蜘蛛を相手にする方が楽なんだが……


 真正面に五体のオーク。雷を放ち、オークはその場に崩れる。と、そのすぐ後ろからオークが二体、飛びかかってきた。あの巨体が物凄い勢いで突っ込んでくる。前のオーク達に隠れていて気付かなかったのだ、修道士達も反応が遅れる。瞬間、頭の中で(いく)通りもの攻撃パターンを考える。どうすれば周りに影響を与えることなく、確実に仕留められるか?

 しかし、頭に浮かんだ攻撃を行う必要はなかった。二体のオークは顔面に矢が突き刺さり、前のめりに倒れる。広場の後方、建物の屋根の上からエリノス警備隊が矢を射ていた。


 フォローしてくれる人間がいるというのは、こんなにも心強いものなのか。これで何の気兼ねなく、正面の敵を討てる。



◇◇◇



「はっはっは、松明なんか持ってどうするつもりだぁ? エリノスに火ぃ点けようってかぁ!」


 ゼルは左手の剣を無造作に振り下ろし、松明を持っているオークの左腕を切りつける。と、今度はすぐに、まったく同じ箇所を右手の剣で切り上げる。オークの左腕は松明と共に肘辺りから地面に落ちる。そしてくるっと手首を返し、切り上げた右手の剣をそのままオークの首に突き刺す。

 右手の剣を抜きながら、ゼルは左手の剣を後ろに振り回す。その剣の切っ先は、自身を攻撃しようと後ろから迫っていたオークの両目をかする。視界を奪われたオークはその場で立ち尽くし、ゼルはゆっくりと右手の剣を振り上げ、両目が潰れたオークの首をはねる。


「はっはっは、どんどん来~い! ん? おいおい嬢ちゃん、そりゃあさすがに、体格差ありすぎじゃねぇかぁ?」


 メチルは前方のオークに狙いを定めていた。


「うっさいっすね、おっさん! てか嬢ちゃん()うなし! やりようなんて、いくらでもあるっすよ」


 そう言うとメチルは信じられないスピードでオークとの間合いを詰めた。隠術(いんじゅつ)の身体強化魔法だ。そのままオークの股下に滑り込もうとする。オークはメチルを攻撃しようと大きな斧を振り上げる。が、全然遅い。


 ガィィィン!


 オークが振り下ろした斧は、石畳を激しく打ちつけ火花を散らす。メチルはすでにオークの股下を滑り抜け後ろにいる。そしてそのまま手にしていた短剣でオークの左膝裏を切りつける。巨体を支えきれなくなったオークはガクッ、と片膝をつく。


「ほっ!」


 ピョンッ、とジャンプしたメチルはオークの背中に取り付く。そして後ろからオークの首筋にズンッ、と短剣を突き刺す。スッ、と剣を抜き、噴き出す血と共にトンッ、とオークの背中を蹴り後方に跳んだメチルは、着地すると次のオークに向かい走り出す。


「やるなぁ嬢ちゃん。まぁ、エス・エリテの修道女(シスター)だしな、弱ぇ訳ねぇか……んぁ? 何やってんだ、あいつは?」


 広場の反対側、まるで力比べでもしているかのように、デンバとオークがガチッと組み合っている。


「……何をどうすりゃ、あんなことになるんだぁ?」


 両者は組み合ったまま相手を押さえ込もうと力を入れているが、どうやら互いの力は拮抗(きっこう)しているようだ。


「ぬぅぅぅ……」


「グゥゥゥ……」


 プルプルと全身を震わせながら両者はしばし組み合っていたが、その内オークは右手を振り上げ、拳をデンバの背中に叩きつけようとする。それに気付いたデンバは、くるりと左回りに回転してオークの拳をかわすと、そのままオークの背後に回り込み、両手でオークの太い胴をガッチリとホールドする。


「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅ……」


 デンバが力を込めると、オークの巨体はゆっくりと浮き上がる。


「ぬぅぅぅん!!」


 デンバは引っこ抜くようにオークを持ち上げると、そのままの勢いで背後に放り投げる。脳天から石畳に落下したオークは、その場に横たわったまま動かなくなった。


「ふぅ、ふぅ、効率が、悪い……」


「そりゃそうだろうよ」


 ボソッと呟いたデンバに、そばにいた修道士は呆れ気味に話す。


「せめて何か得物持てよ」


「ふぅ、ふぅ、ふぅぅぅ……そうしよう」


 デンバは辺りをキョロキョロと見回す。




「っらぁぁぁ!」


 オークに紛れてハイガルド兵の姿が増えてきた。かけ声と共に右手に構えた剣をビュッ、と突き出してきたハイガルド兵。メチルは左斜め前方に移動してハイガルド兵の突きをかわすと、同時に右手の短剣をくるっと順手(じゅんて)から逆手(さかて)に持ち替え、ハイガルド兵の右脇の辺り、鎧の隙間に勢い良く突き刺す。


「デンバさんって何で得物持たないんすかね、筋肉(いのち)だからっすか?」


 立ち回りながら、メチルはゼルに尋ねる。どうやらメチルも、デンバの見事なスープレックスを見ていたようだ。


「うぉぉぉ!」


 ギィィィン


 ハイガルド兵が振り下ろす剣を、ゼルは左手の剣一本で弾き返す。そのままぐるんと身体を右回転させ、遠心力を利用して右手の剣でハイガルド兵を水平切りする。


「聞いたことねぇか? あいつは刃物恐怖症なんだよ」


「何すか、それ?」


「何でもガキの頃、エス・エリテで厨房の手伝いしてたらしいんだが、下ごしらえの最中に自分の指ザックリ切っちまったんだと。まぁ、周りは治癒師だらけだからな、ケガはすぐに治してもらったんだが、それ以来刃物握んのが怖くなったんだとよ」


「でも、刃物向けられてるっすよ?」


 デンバの前には剣を構えたハイガルド兵がいる。


「自分で持つのが怖ぇんだよ。向けられる分には問題ないみたいだぜぇ、ほら」


 デンバは目の前のハイガルド兵の腰辺りに、強烈なタックルをぶちかましている。


「それに()が付いてなきゃ、得物は扱えるぜぇ、ほら」


 デンバのその辺に転がっていたオークの大槌(ハンマー)を担ぐと、松明を持ち建物に近付こうとするオークめがけてフルスイングした。


「はぁ……何かもういいっす。面倒くさい人っすね」


「まったくだ、最初(はな)っから何か持っとけって話だな……下ぁ!!」


 突然のゼルの言葉に驚きながら、メチルはシュッとしゃがむ。それと同時にゼルは踏み込みながら右手の剣を突き出す。


「ぐっ……」


 その剣はメチルの頭上を越え、背後にいたハイガルド兵の喉元に突き刺さる。と、今度はメチルが無言のままゼルの顔めがけて短剣を投げる。


「おっと!」


 ゼルは咄嗟(とっさ)に首をかしげ短剣をかわす。投げられた短剣はゼルの背後で斧を振り上げていたオークの顔面に突き刺さる。


「おいおい、嬢ちゃん。無言で投げるんじゃねぇよ、危ねぇだろぉ?」


 メチルはオークに刺さった短剣を抜く。


「そっちこそ、下ぁ、だけじゃ足りないっす。勘の悪いヤツだったら串刺しっすよ? それと嬢ちゃんって呼ばれるほど子供じゃないっす。メチルって呼ぶっすよ」


「こっちだって、おっさん呼ばわりされるほどの歳じゃねぇよ。ゼルって呼びな……あ、やべぇな」


 ゼルは何かに気付いた。


「どしたっすか?」


「嬢ちゃん、城壁の方行くぞ! あっち押されてやがる」


 そう言ってゼルは走り出す。


「了解っす、おっさん」


 メチルもゼルの後を追う。

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