表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流浪の魔導師   作者: 麺見
2章 イゼロン騒乱編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/322

35. ゼルの野望

 あの騒動から十日、俺はここミラネリッテにとどまり、ロイ商会で荷物整理などを手伝っている。

 本当はすぐにでも、目的地であるイゼロン山へ行きたいところなのだが、ロイ商会の安全が本当に確保されているのか、確認しないことには旅立てない。アルボ商会とジョーカー、本当に手を引いたのか? 今のところ何事もなく平穏なのだが……と思っていたら、


「よう、兄さん! 元気そうだな」


 ……ゼルだ……なに、こいつ? あんなことあったのに、普通に来やがった……


「……あんたどういう神経してんだ? あんなことあった後で、よく普通に現れたな……」


「はっはっは、切り替えと立ち直りは早い方だ」


「……何の用?」


「おいおい、つれないなぁ、兄さん! 命のやり取りした仲じゃねぇか! まぁ、こっちが一方的に殺されかけたんだがな」


 急に騒がしくなったのが気になり、ユージスが奥から顔を出した。そして状況を確認し「はぁ~」とため息をつく。


「あの、中入って下さい。倉庫前で物騒な話されるとあれなんで……」


 周りを見ると、向かいや隣の倉庫の人達が、こちらを見ながら何かひそひそ話をしている。


「お、会頭さん、こないだは荒らして済まなかったなぁ! まぁ、こっちが一方的に荒らされたようなもんだけどな」


「ほら、いいから中入れっての!」


 ゼルを引っ張って事務所の応接室に入る。こいつ、何しに来たんだ?

 イスに座ると、リアンがお茶を用意してくれた。


 コトッ と俺の前に、


 コトッ とユージスの前に、


 ダンッ とゼルの前に……


「はっはっは、嫌われてんなぁ」


 やるな、リアンさん……


 びちゃびちゃのカップとテーブルを気にする様子もなく、ゼルはクイッとお茶を飲む。


「う~ん、足りないな」


 そりゃ、いっぱいこぼれたからな。


「姉さん、すまんがおかわりくれ~」


 こいつも相当だな……

 

 渋々、リアンがお茶を入れに来た。今度は普通に。何度も呼ばれたら面倒くさいだろうからな。


「で、今日はどのようなご用件でしょう?」


 お茶をすすっているゼルにユージスが聞く。


「ああ、会頭さん、あんたに報告だ。アルボ商会と話がついた。こないだサインした誓約書通り、アルボ商会は今後一切ロイ商会には手を出さない。無論、ジョーカーもな。改めて、()びを言う。騒がせて済まなかった」


「そうですか、分かりました。わざわざ、ありがとうございます」


「ああ。苦労したぜぇ、ジョーカーじゃなきゃできない交渉だったなぁ……」


 ゼルはニィッと笑いながら得意気に話す……なんかイラッとする。


「どうだかな、弱味でも握ってたんじゃないか?」


「はっはっは……そんな訳ないじゃない……」


 図星か……


「さて、それじゃあ……」


 やっと帰るのか?


「次は兄さん、あんただ」


 違った。ていうか、俺?


「俺にもなんか用が?」


 そう聞くと、ゼルは珍しく(?)真剣な表情になる。


「兄さん、ジョーカーに入らねぇか?」


 はぁ? 何言ってるんだ、こいつ?


「……なんでそんな話になるんだ?」


「そりゃあ、兄さんが強ぇからだよ。いや、コウ・サエグサ?」



 !? なんでこいつが……?



「はっはっは、そこで黙っちまったら、認めるようなもんだぜぇ?

 コウ・サエグサ。一年ほど前、東側のエルバーナ地方で起きたオーク襲撃事件の際、オルスニアのラスカって街をオークから救った、ラスカの英雄と呼ばれている男。雷を操る魔導師であり、ドクトル・レイシィの弟子、だろ?」


「なっ……本当ですか! コウさん!」


 驚いたユージスは興奮気味に聞いてきた。


「いや~、まぁ、そう……なんですかねぇ……」


「彼女は弟子を取らないって、有名だったんですよ! スゴい……あのドクトル・レイシィの……」


 ユージスの興奮は収まりそうにない。しかし……


「……どうやって……調べた?」


 ゼルはニヤニヤしながら答えた。


「最近うち(ジョーカー)は東側に進出してな、その前に諜報部の連中が東側の情勢を詳しく調べてたんだよ。その報告書を確認してびっくりだ、会頭さんがコウって呼んでた兄さんは、このコウ・サエグサなんじゃねぇかってな。コウ、なんて名前のヤツ、そうそういるもんでもねぇし……

 でもなぁ、だとしたら、あの強さも納得だ。大体雷ってなんだよ、あんなもん反則じゃねぇか」


 そんなの知らないし……


「だからって、なんで俺がジョーカーに入らなきゃならないんだよ」


「……ちっと話変えようか。会頭さん、今のジョーカー……どう思う?」


 ユージスは下を向き、しばし考える。そして、意を決したようにゼルを見る。


「正直に言っても?」


「ああ」


「怒らないで下さいよ」


「はっはっは、どんなヒドイこと言われんだ? ドキドキするねぇ。何でも言ってくれ」


「……今のジョーカーは、クソです」


 おぉぅ、辛辣(しんらつ)……


「はっはっは、そうか、クソかぁ。いや、正しい評価だと思うぜぇ。確かに、クソだわなぁ、自分でもそう思うわ……」


 ……なんだ、こいつ……


「俺も、今のジョーカーが正しい姿だとは思っちゃいない。こんなジョーカーを……望んじゃいない。全ては……エクスウェルだ」


「エクスウェルって、団長だっけ?」


 ユージスさんが言っていたな、エクスウェルが団長になってから、ジョーカーがおかしくなったって。


「ああ。俺がジョーカーに入ったのは五年前だ。それ以前は、力と経験を得るためハンディルに登録してな、様々な依頼を受ける毎日だった。全ては十年くらい前の、黄金期って言われていた頃のジョーカー、その一員になるためだ。ところが、俺がジョーカーに入った時には、すでにエクスウェルが団長に就いていた。その頃にはもう、黄金期の頃のジョーカーなんて影も形もなくなっていた」


 ゼルはグッとお茶を飲み干し、話を続ける。


「エクスウェルってのは金儲けが上手くてな、傭兵以外の依頼も積極的に受けるようになり、台所事情は随分改善されたんだ。でも同時に、チンピラやマフィアがやるような仕事も引き受けはじめた。

 本業とも言える戦場ではどうなのかって言うと、金さえ積まれれゃどんなに理不尽で不道徳な(いくさ)も引き受ける。まぁ、戦争に道徳、ってものおかしな話だが、それでもジョーカーなりの矜持(きょうじ)ってもんがあったはずだがなぁ……

 で、気付けば会頭さんの言う、クソみたいなジョーカーになっちまってた、って訳だ」


「エクスウェルの判断に、異を唱える人はいなかったのですか? 私には、それが不思議でなりません。黄金期を支えたメンバーも、当然いましたよね? 一番隊のゼントスとか……」


「おお? なんだい、会頭さん、詳しいねぇ。ひょっとして、ジョーカーファンか?」


「昔のジョーカーは好きでしたよ……」


「そうか、そりゃあなんか、申し訳ないなぁ……

 会頭さんの言う通り、エクスウェルに反発したヤツは大勢いた。ゼン(じい)……ゼントスとかな。そういう連中がどうなったか知ってるかい? 地方支部に飛ばされたり、追放されたヤツもいた。中には突然姿が見えなくなって、暗殺されたんじゃねぇかって……ま、そんな話もあったりな」


 ゼルは腕を組み下を向く。


「反エクスウェルの連中が消えていく中、俺はここに残った。ヤツに尻尾を振る振りをしてな。マスターにまで上った。いざという時に、力がなけりゃ何もできないからな」


 ゼルはスッと前を向いた。


「俺はな、ジョーカーを本来の姿に戻したい。尊敬と畏怖(いふ)の念を(いだ)かれ、誰からも愛され、恐れられたジョーカーに戻したい。このクソみたいなジョーカーをぶち壊し、黄金期の頃のジョーカーに戻したい。エクスウェルを……倒してな……」


 このゼルという男、ふざけた言動で適当なヤツだと思っていたが、ひょっとしたらそれは、本心が表に漏れ出ないようにするための、演技だったのかも知れないな……


「だから兄さん、いや、コウ! 力を……貸してくれねぇか?」


 ……いや、でも……


「こっちにだって都合ってものがある。この件が落ち着いたら、イゼロン山に行かなきゃならないんだよ」


「イゼロン……てことは、エス・エリテか?」


「ああ。そこに行って修行してこいってお師匠……ドクトルに言われてるんだよ」


「エス・エリテ……はは、やっぱりどっか、繋がってるな」


 ゼルはボソボソと呟いた。


「何?」


「いや、分かった。コウ、あんたはエス・エリテで修行してくれ。俺はその間に、エクスウェルを引きずり下ろすための工作を進める。準備が整ったら、改めてあんたに依頼しに行く」


「依頼?」


「ああ。ジョーカーに入れとは言わない。エクスウェルを倒すため、あんたに協力を依頼しに行く。報酬も用意する。働きに見合った、相応の報酬だ。仕事として、引き受けてほしい……」


 う~ん、気持ちは分かるけどなぁ……


「それにな、ジョーカーとあんたは、すでに繋がってるんだよ」


「は? どういうことだよ」


「俺が目指してるジョーカーは、ドクトル・レイシィがいた頃のジョーカーだ。そしてコウ、あんたはドクトル・レイシィの弟子だ。な、俺達はドクトル・レイシィで繋がってんだよ!」


 ゼルはニッと笑う。


「なんだそれ、無理矢理過ぎるだろ……」


「頼む、力を貸してくれ!」


 ……はぁ~、もう!


「俺は自分の都合を優先させるし、約束もできない。それでもいいなら……」


「構わねぇ、恩に着る!」


「約束はしないぞ!」


「準備ができたら、エス・エリテに迎えに行く」


 なんか面倒くさいことになったなぁ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ