33. 一蹴
「ジョーカーが、なぜここに?」
ユージスは男達を睨む。
「はっはっは、ただのジョーカーじゃあないですよ、ジョーカー三番隊マスター、ゼル・トレグですっ」
「うそ……マスター……」
リアンは怯えた表情を見せる。
「はっはっは、姉さん、そんな怖がんなくても大丈夫、今日はお話し合いに来ただけだから」
「……ご用件は?」
ユージスは厳しい表情だ。
「アルボ商会からお願いされましてね、ロイ商会を説得してほしい、と」
「散々嫌がらせしておいて、何が説得よ! この半年でどれだけ取引先が減ったと思ってるの!」
リアンは堪えきれずに怒鳴った。
「嫌がらせねぇ……ま、そのくらいのことは、してるんだろうと思ってたけど……
あ~、姉さん、その嫌がらせってのは、俺達とは無関係だ。アルボ商会が何をしてようが、俺たちの知ったこっちゃない。俺達の受けた依頼はロイ商会の説得、それだけだ」
「……説得じゃなくて脅迫でしょ、そんな大人数で押し掛けて……」
リアンは吐き捨てるように言った。
「はっはっは、まぁその辺は好きに受けとればいいさ」
「大体あなた達傭兵でしょ? 何でこんなことを……」
「あ~……それなぁ。それに関しちゃあ、俺も思うところがあるんだが……でもまぁ、しょうがないかなぁ、受けちまった訳だし……で、おたくが会頭さんかい?」
「……ロイ商会、会頭のユージス・ロイです」
「うん、ユージスさん、ね。で、ユージスさん、どうだろうか、アルボ商会の傘下に入ってくれないかなぁ? 取引先減ってるって? 今はまだその程度で済んでるけど、あんまり粘ると連中もやり方をエスカレートせざるを得なくなる。そうなる前に……」
「……連中も、だけではなく、あなた達も、でしょう?」
ユージスは冷たく答える。
「おいおい、さっきも言ったがそれは俺達とは無関係だって。俺達は――」
なるほど、少しずつ話が見えてきたぞ。アルボ商会ってとこがロイ商会を傘下に入れるために、圧力をかけていた。で、ジョーカーに説得してもらうため依頼をした。で、ユージスさんはアルボ商会の傘下に入る気はない、と……
「話すことは何もありません、お引き取り下さい」
そう言ってユージスはゼル達に帰るように促す。
「ユージスさん、手ぶらじゃ帰れないってことぐらい分かるだろ?」
「それこそ私達には関係のない話です! 大体……」
「無駄ですよ、ユージスさん。それで大人しく帰るようなら、そんな人数連れてこないでしょう」
思わず割って入ってしまった……でもこのままじゃ、らちが明かないしな。
「はっはっは、良く分かってるねぇ、兄さん。で、おたく誰?」
「積み荷の護衛」
「はぁ? 積み荷ぃ?」
「さっきここに着いて、すぐにあんたらが来たんだよ」
ゼルは荷馬車の荷台を覗く。
「あ~、なるほどねぇ。どっかに商売しに行ってて、帰って来たばっかってことね。じゃあ兄さん、あんたの仕事はもう終わりだろ? 荷馬車は無事に商会に着いた訳だしな、ご苦労さん。早いとこ金もらって、家に帰んな。こんなことに首突っ込む義理はないだろ。それともあれか? 荷馬車だけじゃなく、商会の用心棒とか?」
「いや、荷馬車の護衛だ」
「そうかい。じゃあさっさと……」
「まだ仕事は終わってない」
「は?」
「積み荷、まだ下ろしてないだろ? まだ仕事中だ」
ゼルは呆れたような顔をする。
「そんな屁理屈を……じゃあいいや、兄さん、さっさと荷物下ろしちまいな。それで仕事は……」
「それに!」
「おいおい、まだ何か……」
「ユージスさん」
「……はい?」
「ロイ商会がアルボ商会の傘下に入ったら、この積み荷はどうなるんです? ロイ商会所有のままですか?」
「……いいえ、アルボ商会の所有になります。もしそうなったら、ロイ商会はなくなりますから……」
「そうですか。じゃ、やっぱりまだ仕事中だ。この積み荷が奪われないように、守らなきゃいけませんね」
「おい、お前! いい加減にしろよ! 話が進まねぇじゃねーか!」
ゼルの横にいた男が、たまらず怒鳴った。
「こらこら、怒鳴るんじゃねぇよ」
ゼルが男をなだめる。
「しかしなぁ、兄さん。守るったって、一体何をどうするつもりなんだ? ジョーカー相手に、立ち回りでもするつもりかい?」
「そうですよ、コウさん!」
ユージスが心配そうに話し出す。
「相手になんかしちゃダメですよ、コウさんに迷惑はかけられません。これは……私達の問題です」
うん、いい人だ、ユージスさんは。だから余計になんとかしたくなる。
「ユージスさん、今日ここには、誰も来ていない」
「……は?」
「誰も来ていないんですよ、ユージスさん。ここには誰も来ていない。ジョーカーとかいう連中が、まるでチンピラが引き受けるような仕事のために、ロイ商会を訪れるはずだったんだけど、来ていないんです。大方、こんなアホみたいな仕事が嫌になって、ジョーカーを抜けたんじゃないですか?」
と言いながら、俺は倉庫の扉を閉める。
「おい、こら、お前何言ってんだ、おい閉めてんじゃねーよ!」
ゼルの横にいる男が怒鳴る。が、すぐにゼルがなだめる。
「待て待て、ちょっと落ち着け。この兄さん、とっくにやる気だわ。すまないなぁ、兄さん、全然気付かなかったよ。まさかマスター率いるこの人数のジョーカー相手に、やる気満々になってるとは思わなかったわ」
「マスター……何それ、知らんし」
「兄さん、中央の人間じゃないねぇ?」
「東側だよ、オルスニアから来た」
「オルスニア……ねぇ。東側は最近進出したばっかりだから、よく分かんないなぁ。でも、だったら尚更だよ兄さん。商会付きの護衛じゃないんだろ? この後国に帰るか、それとも他所に旅立つか。どっちにしたって、こんなところで大ケガでもしちゃあ、移動できなくなっちまうよ?」
そう話すゼルは、ずっと不気味な笑みを浮かべている。
なんだ、こいつもやる気になってるんじゃないか。
「大ケガするのは自分達だって可能性もあるだろ? 大ケガで済めばいいけど」
「いいねぇ! 兄さん! この辺で俺達に向かって、そこまで吐けるやつがどれだけいる? 嬉しくなるねぇ、どうするのか見せてくれよ!」
ゼルは両腰に下げている剣に手をかける。二刀流か? 他の連中も構えを見せる。ま、関係ないけど。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
俺は右手を前に出す。
「コウさん!」
「大丈夫ですよ、ユージスさん、リアンさん、目をつぶってて下さいね」
バーーーーーン!!
話し終わるのと同時に、雷を放出する。当然マーキングは済ませてある。連中がここに入ってきてすぐにだ。
ヒヒィーーン!
と、音と光に驚いて荷馬車の馬が暴れ出す。
「ユージスさん、馬を!」
「あ……あぁ、はい!」
しばし呆然としていたユージスは、ハッと我に帰り馬をなだめに行く。
そこで気付いた。ゼル、こいつ何で立っている!?
かなり出力は上げた。それこそ即死するぐらいのはず……他の連中は皆倒れている。なのにこいつは……防いだのか? どうやって!?
ゼルは混乱していた。何が起きたのか、全く分からなかった。攻撃を受けた。魔法だ。それは分かる。でもあんな魔法見たことがない。強い光に大きな音、その直後、皆倒れた。ゼルはかろうじてシールドを張って防いだが、ゼルが魔法を防げたのは、勘によるところが大きかった。しっかり対応してシールドを張った訳ではない。何か嫌な感じがしたのだ。危険な、嫌な感じが。しかし完全には防げなかった。左腕が真っ黒に焼け焦げていて動かない。
「……兄さん、あんた……何をした……?」
何でゼルが動けているかは分からない。でもまぁ、いいだろう。次で終わりだ。
再び右手を前に出す。
「ま……待て待て、待ってくれ! ほら、あの……降参! 降参だ! なっ?」
ゼルは慌てて両手を挙げようとしたが、左腕が動かなかったため、咄嗟に右手を前に出した。
「もう何もしない、誓って何もしない! だからコイツらを治療させてくれ、このままじゃ死んじまう!」
何言ってるんだ、治療って……黒焦げだぞ、もう死んでるだろ……
「おい! 生きてんだろ、おい!」
ゼルは右手で横に倒れている男を揺する。
「……あ……は……」
男は微かに声を上げた。
なっ……生きてるのか!? どうして……?
「あ~、くそっ、ブレスレットが焼け焦げちまってる、防ぎきれなかったか、どんだけの威力だよ……」
そう言いながら、ゼルは男の胸に手を当てる。すると黒焦げだった男の肌は、みるみる元の肌色に変わっていく。
!! こいつ、治癒魔法使えるのか!?
「あ……マスター……え……?」
「よし、戻ったな、話は後だ、他のやつ治療してくれ、死んじまう!」
「あ……はい!」
……驚いた。このゼルという男、俺の魔法を防いだだけじゃなく、治癒魔法まで使えるとは……他の連中もかろうじて生きているようだ。ブレスレットがどうとか言っていたが、ひょっとして魔道具か? 魔法を防ぐ効果があるとか……
ふと、ユージスを見る。俺の視線に気付いたユージスは首を左右に振る。
そうだな、もう終わりだ。これ以上は必要ない。




