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流浪の魔導師   作者: 麺見
1章 ラスカ修行編

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30. 禁術

 朝。実にいい天気だ。


 今日から本格的に、ここシブスト軍事演習場で魔法の修行を行う。色々やりたい事はあるが、まずは確かめておかなければいけない事がある。俺の魔力量だ。

 レイシィからは「とんでもない量だ」と言われていたが、正直よく分からない。なので今日は一日暗くなるまでとことん魔法を使い続け、自分の魔力の底を確かめたいと思う。とは言え、やみくもにやってもしょうがない、まずは現状の確認だ。魔弾、魔散弾(まさんだん)、各魔法、それぞれ一度にどのくらい展開出来るのか、最大出力で展開した場合コントロール出来るのか、制御出来る限界を確認しよう。



 ◇◇◇



 夕方。そろそろ日が暮れる。


 今日は一日とことん魔法を使った。休憩もそこそこにほとんどぶっ続けで。これだけ魔法を使ったのは初めてだ。


 で、魔力はというと、まだ全然ある。


 枯渇(こかつ)する様子なんて全然ない。まだまだいける。が、いい加減疲れてしまった。魔力量と体力は別だ。結局魔力の底は分からなかったが、一日中魔法を使っても平気だという事は分かったので良しとしよう。


 さて今日の成果だが、魔弾は同時に五、六発がいい所だろう。ただ、連射すれば良いだけの話なので何ら問題ない。

 魔散弾(まさんだん)は五十発が限界。それ以上増やすと形を維持できず散弾が消えてしまうが、こちらも連射すればいい。三十五発くらいまでなら散弾を高威力で維持出来る。三十五発の魔散弾を連射すればいいのだ。

 雷の魔法。事前に小さな魔弾でマーキング、雷を発現させるとマーキング場所に飛んでいく、とまぁこんな魔法だ。レイシィに披露したらえらい驚いていたな。雷は制御出来ない、だから使うやつはいないらしい。でもこの方法なら、ちゃんと制御出来る

 のだ。


 ひょっとして、この世界の魔法の常識を変えてしまったのか? などと自惚(うぬぼ)れてみる。しかしこの魔法、実は少し問題がある。マーキングの数を増やすとその分雷の威力が落ちていくのだ。


 雷の威力を十とする。十ヶ所マーキングすると、一つのマーキング場所に届く雷の威力は一になる。二十ヶ所マーキングすると零点五(0.5)だ。マーキング数を増やしても威力を落とさないようにするには、発現させる雷の出力を上げる必要がある。つまり雷を二十、三十の威力で発現させるのだ。

 だが正直言って加減が全然分からない。どのくらいの威力で雷を出せばいいのか、まるで分からないのだ。なんせここは荒野だ。魔法の効果を試せる対象は岩しかない。いくら岩に雷を撃った所で、どのくらいの効果が出ているのか全然分からない。だからと言って人間相手に試す訳にはいかないし……とりあえず、このくらいか? という感覚で撃つしかない。


 というかこれ、修行の意味あるか?


 次、広域攻撃魔法。レイシィがその理論を確立させ、今では多くの魔導師や魔導兵が扱う魔法だ。本来ならレイシィに教わるはずだったのだが、その前に彼女は城に戻ってしまった。なのでお手本なしで覚えるしかない。


 しかし実際やってみたらそんなに難しいものでもなかった。


 まずは魔力を霧散(むさん)させ広範囲に広げる、と言うか充満させる、と言うか……可燃性のガスが充満していく感じか? そしてこれに火をつけ爆発させる……

 と、そんなイメージをしてしまったらそこから抜け出せなくなってしまい、他の魔法の効果を考えられなくなってしまった。俺の中では広域攻撃魔法(イコール)爆発、という図式が出来上がってしまったのだ。

 まぁ、魔法自体はしっかり発動出来ているし、今の所使用頻度が高い魔法ではないのでこれで良しとしておこう。


 とりあえず、自分の現状は把握出来た。あとはこれらを繰り返し練習し、精度なり威力なりを上げていけばいい。



 ◇◇◇



 シブスト軍事演習場生活、二週間目。


 そろそろあれを試そうかと思う。古代魔法、禁術だ。なぜここに来て二週間も経ってからなのか? 魔導書を開くと気持ち悪くなり、一気に内容を確認出来ないからだ。魔導書には簡単に読めないように何らかの魔法が施されている。魔導書を開くとその魔法が発動し、気持ち悪くなり読み進められなくなる。なので毎晩少しずつ、魔導書を別の紙に書き写す作業をしていた。そして昨晩ようやく一冊分ざっくりと内容を書き移し終えたのだ。


 今日試す禁術は山崩し、と名付けられている。出力を上げれば山一つ吹き飛ばすくらいの威力があるらしい。こんな場所でもなければおいそれと試す事は出来ない魔法だ。

 古代魔法はどれも呪文の詠唱(えいしょう)が必要だ。だが魔導書は古代文字で書かれている為、レイシィが翻訳した注釈(ちゅうしゃく)がなければ一切内容が分からない。

 呪文部分も翻訳されているのだが、どうやら呪文は古代語で詠唱(えいしょう)しなければならないらしく、一文字ずつ今の言葉に翻訳されている。つまり俺からすると、例えるなら某ゲームの復活の呪文みたいな、何の意味も何の法則性も見えない、ただの文字の羅列なのだ。暗記は得意な方だと思っていたが、さすがに何の意味もない文字の羅列を丸暗記するのは楽な作業ではない。


 ……これ、発音とかは大丈夫なんだろうか?


 正しく発音しないと発動しない、ならいいんだが、力が逆流して爆発しますみたいなペナルティとかあったらまずいんだが……

 とりあえず写した紙を見ながらやってみよう。目標は……うん、あの岩山にしよう。俺の身長の倍くらいの高さがある岩山だ。


 まずは自身の前方に魔力を集める。魔弾を作るように……おっと、魔力の量は少なくしないと。下手に出力を上げたら大惨事になりかねない。

 そして、呪文の詠唱。え~と「ヘヤザルホ、ミイコブ……ダポリュ…………」


 おぉぉぉ……何と言うか、魔力にぐんぐん、何かの力が集まって来るような……


 で、放出。


 すると、前方の魔力の塊が一瞬で消えた。え? と思った次の瞬間、



 ボゴーーーーーン!!



 という轟音と共に、目標とした岩山が粉々に弾け飛んだ。


 爆発の衝撃で舞い上がる砂煙。呆然とする俺の頭にバラバラと吹き飛んだ岩山の欠片が落ちてくる。少しすると砂煙は風に流され、視界がはっきりしてきた。


(なんじゃ、これ……)


 岩山は跡形もなく消えていた。それどころか、まるで隕石が落ちた(あと)のクレーターのように地面は大きくえぐれている。


(ああ、これはダメだ、ダメなやつだ。確かに禁術だ……)


 相当魔力は抑えた。それでもこの威力……山崩しとはよく名付けたものだ。出力を上げたら本当に山くらい吹き飛ばせそうだ。でもこんなエグい魔法どんな場面で使えと? 土木工事か? 山に道路通せってか? 大体周りに与える被害が大きすぎる。周りへの被害を抑えピンポイントで効果を発揮出来たらまだ使いようはあるんだが……


(ピンポイント……シールドで囲んだらどうだ? 魔力シールドで囲んだ中で、この魔法を使えないだろうか……)


 魔力シールドは魔力を板状に広げ、相手の魔法や魔弾を防ぐために展開する。そのシールドを箱状やドーム状にして対象を囲んでしまうのだ。その中で魔法を使えば、シールドの外側には影響が出ないのではないか?

 さっき山崩しを試した際、前方に出した魔力の塊が一瞬で消えた。では消えた魔力はどうなったのか? 他の魔法と同じように対象まで飛んでいくのならばこの方法は無理だ。対象を囲んだシールドに弾かれてしまう。だが魔力が瞬間移動なりして対象に作用するのなら……いや、さすがに都合良すぎか?


(……でもそうなると、爆発や爆風で吹き飛んだ瓦礫や破片はどうなる?)


 シールドで防げるのは魔法や魔弾、物質は防げない。仮に瓦礫や破片が飛んできても、シールドを通過してしまう。


 だが、果たして本当にそうか? 魔法を発動した際、魔力の影響はどこまで及ぶのか?


 俺の仮説では魔法で爆発を起こし吹き飛んだ破片などは、その魔法の魔力を帯びているのではないか、と言う事だ。破片や瓦礫が魔力を帯びていれば、シールドで防げるのではないか?


 早速試してみる。目標は……あれだ。あそこの岩。膝くらいまでの大きさの岩だ。最初だから小さい方がいい。


 シールドを出し岩をくるむように、ぐるっと……出来た。初めてやったが案外出来るもんだな。じゃあ次はこのままの状態で山崩しを……と思ったがすぅ~、とシールドが消えてしまった。シールドを維持したまま他の魔法を使う。シールドへの意識を保ちつつ、他の魔法へ意識を向ける。つまり同時に二つの魔法を使うようなものだ。


(なるほど、これは難しいぞ……)


 しかし不可能ではない、そんな気がする。根拠はない、だが練習次第ではどうにかなるのではないか? これはもう、とことんまでやるしかない。最初はせいぜい一ヶ月くらいと考えていたが、二ヶ月でも三ヶ月でも納得のいくまでここにいよう。


 そうして俺は途中何度か近くの街でリフレッシュしながら、実に三ヶ月もの間ここシブスト軍事演習場に入り浸ることになる。

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