イベント前に起こっていた現実
「お嬢様、こちらにいらっしゃったんですね。」
目の前にエンジュの姿。
「ごめんなさい。オルフェ様に頂いた髪留めを考えたの。」
にっこり笑ってみせる。
「素敵な宝石のついた髪留めでしたね。」
「ええ。あれを卒業式でつけるから、合わせたドレスを用意しないとね。」
私がそういうとエンジュの笑顔が消える。
「どうしたの?」
胸がざわつく。
不安って言葉が一番合うんだと思う。
「いえ…。ただ、先週にオルフェ様が訪ねてこられた際にお嬢様の顔が曇ってらっしゃたので何かあったのかと…。」
先週?
何があったの?
私が知らないこと?
違う。覚えていないこと。
思い出すんだ。大切なことを。
「ねぇ、エンジュ。先週って…。」
ヒントを聞き出すんだ。
「お嬢様?」
「えっと、混乱してしまって。ごめんなさい。」
戸惑いを浮かべた表情をエンジュがどう受けとったのかわからない。
「いえ。オルフェ様がいらっしゃった際にお嬢様とエリザ様の件で言い争ってらっしゃったと聞きましたので…。」
エリザ…?
このゲームのライバルキャラの名前。
でも、それが今でてくる?
確か、ライバルキャラは自分がターゲットとする男性に同じように恋をして私の学園生活に関わってくる。
もちろん、キャラの好感度の変動にも…
時にはデートの邪魔さえしてくるライバルキャラ。しかも私よりも初期のスペックは上だ。
えっ…?
鼓動が早くなる。
嫌だ。
卒業式を一週間後に控えた今の状態。
オルフェ様から頂いた髪飾り。
でも、恋愛エンディングを迎えるための髪飾りとは違うもの。
気持ち悪い。
ねぇ、誰か嘘だと教えて。
「もしかして、オルフェ様は…」
「お嬢様?顔色が…。大丈夫ですか?」
両手で口元を押さえる。
背中をエンジュがさすってくれるけど、感覚がわからない。
どうしても想像してしまう、オルフェ様とエリザの姿。
あの2人の正統エンディング…?
「嘘よね…?」
何度も何度も繰り返しつぶやく。
「お嬢様?!」
エンジュに何度も呼ばれるけど、耳に届かない。
確かめないと。
真実を
でも、それが現実だったら、私は残りの一週間でどうすればいいの?
オルフェ様が選ぶ相手が私でなく、エリザだとしたら…