バーテンダーの何気ない一言
午前1時丁度。
昨日来たばかりのバーのドアを開ける。
「いらっしゃいませ…ああ。」
背の高いバーテダーさんが笑ってくれる。
うーん。バーテンダーさんっぽくないけど、やっぱり背は高いし、カッコイイ人。
まぁ、オルフェ様には負けるけどってそれとコレはまた別か。
苦笑いをしてしまうわたし。
「どうしました?」
「いえ、また気になってきちゃいました。ジントニックお願いします。」
「かしこまりました。昨日の席にどうぞ。」
促されて、昨日と同じ席に座る。
彼がジントニックをつくる間にタバコに火をつける。
すっと差し出される灰皿と
「ジントニックです。」
そう、やっぱりシンプルだけど、ちゃんと柑橘系の味がする独特なジントニック。
1本目のタバコを吸い終わる前に一口。
「美味しい。」
「何よりです。」
そして1本目のタバコを吸い終わる。
これから、わたしは多分。あの世界に戻る。
このジントニックを飲んだ後に。
ふと、このバーテンダーさんならどう答えてくれるのかが気になった。
「あの…」
「どうしました?」
でも、出会って2日目の彼にそんな話をするの?
「いえ…あの。変な事を聞きますが、いいですか?」
「何ですか?」
「もし、これから起こる未来がわからなくて、不安な場合、お兄さんならどうしますか?」
変な質問。
何も解決になってない。
しかも突然言われてわかるわけもない質問だ。
頬が熱くなる。
「未来なんて誰もわからないですよね。だから、やってみればいんじゃないですか?」
「えっ…。」
「何でも、やってみてから考えればいいんじゃないですか。」
お兄さんの表情はわからなかったけど、その言葉はなんか私のなかにストンと入ってきた。
そっか…
この世界にいても、あっちの世界に行ってもわたしは私なんだ。そして、未来は『わからないもの』なんだ。
「ですね。ありがとうございます。」
そう言って、ジントニックを飲み干す。
「2000円で大丈夫ですか?」
「はい。お帰りですね。」
2000円を支払って、わたしは席を立つ。
そして、そのまま扉へ誘導される。
「今日もありがとうごさいました。」
「いえ、またお待ちしてますね。」
そういって扉の向こうに私は歩を進める。
なんとなく今回はわかる。ココからはあの世界。
「気をつけて。姫様。」
ああ、扉がしまった後に、目の前に広がるのはやっぱりお屋敷の赤い絨毯とシャンデリアが光る廊下だった。