再びあのバーに訪れることになるとは
「いらっしゃいませ。」
ここ…
明るいシャンデリアがある廊下ではなく、薄暗い照明。
「えっ…?」
ここって…
数時間前に立ち寄ったバーだ。
「どうしました?」
「いえ…。えっと…」
この前座った席に誘導され、腰をかける。
「今回はジンバックでいいですよね?」
にっこり笑って、注文を決められしまう。
「…はい。」
何が起こっているの?
確かにさっきまで私は、あのゲームの主人公の部屋にいた。
そして、髪飾りイペントが起こっていたのに。
戻ってきたってこと?
「どうぞ、ジンバックです。」
ジントニックよりシンプルなジンジャエール割。
少し甘い。
その味からなんだか今までのゲームの世界が夢だったんじゃないかなって思う。
どうしてあそこを『現実』なのかもってすぐに思えたんだろう。
いつものたばこに火をつける。
少しだけ甘くて苦い味。
「現実って今なんですかね?」
ふいにつぶやいてしまった言葉。
バーテンダーさんと視線があうと、失笑しまう。
「ごめんなさい!」
「いえ…」
笑われてしまった。
いや、当然な質問だけど
「現実とは貴女が自分の意志で生きている場所のことだと思いますよ。」
えっ…
確かにわたしが経験しているのが『現実』なのだろう。
「そっか…そうですよね。」
だって、ブラック企業で働くのも、先輩にいびられて、後輩に馬鹿にされるのも。
卒業式一週間前にちゃんと卒業できるかを考えるのも
すべて『私』なんだから。
たばこにもう一度火をつけてから、ジンバックを飲む。
「…?」
違和感。
さっきも感じた。
オルフェ様からいただいた髪留めを見た瞬間。
あのイベント…
覚えていること以外の何かがある気がする。
何だっけ?
そう、あの髪留め。
細工と色の加減。
一番好きで、メインキャラのオルフェ様からの頂き物…
「えっ…?」
待って…あんな髪留めだった?
「思い出すのに必要なパーツはきっと貴女の過去にあると思いますよ。」
バーテンダーさんの的確な一言。
「あのっ、わたし。ごめんなさい、帰らないと。」
急いで、たばこの火を消して、残りのジンバックを飲み干す。
お会計の2000円を払い、自分のバックを持って急ぎ足で店の外に出る。
そこはエレベーターホール。右手に鉄の無機質なエレベーターのドア。
そう、このバーに来た時のドア。
エレベーターが来て乗り込むと目の前のバーテンダーさんが立っている。
「ありがとうございました。姫様、また明日。」
その言葉と共にエレベーターの扉が閉まる。