45話
「苛められるのが好き……大体予想してたけど、まさか本当にドMだとはな」
ゲームに負けた怒りと、ドMだと暴露された恥ずかしさ、その2つで顔を真っ赤にする『水鱗女王』が、俺を睨み付ける―――
「ふっ、ふふふ……♪ここまでワタクシを辱しめる人がいたなんて……♪」
いや……睨み付けるって感じではない。
なんかこう、恍惚としたと言うか、絶対服従のドMの視線と言うか……
「……なぁ、なんで自分が『七つの大罪』だって嘘を吐いたんだ?俺には、その意図がわからないんだが?」
「あら……ワタクシの性格は、わかりましたわよね?」
「ああ……まさか国王がドMとは思ってなかったけど」
「うぅん……♪その遠慮の無さ、本当に良いですわぁ……♪」
身をくねらせ、嬉しそうに笑う。
……なんかもう……この世界の国王って、色々大丈夫か?
「ワタクシは、誰かに支配されたいのですわ……しかし、国王という立場上、そういうわけにも……」
「……で?」
「ワタクシが『七つの大罪』だとしたら、『勇者』は黙っていない……『魔王』と戦うには、『七つの大罪』の力が必要ですので♪」
再び、恍惚とした表情を見せ、『水鱗女王』が続ける。
「『『七つの大罪』の力が必要だ、俺に付いて来い』と言う『勇者』!『ワタクシは『水鱗女王』……民を置いてあなたに付いていくことなどできません』と断るワタクシ!『ならば、力ずくで奪わせてもらおうか!』と『勇者』が乱暴にワタクシを連れ去り……!」
「スゴいなお前。言葉だけでここまでドン引きさせられたのは、お前が初めてだ」
「んんっ……♪……あなた、本当に良いですわぁ……♪あ、そうですわ!あなたには、ワタクシのご主人になってもらいましょう!」
「ふざけろ。後ろの6人だけで手一杯だっての」
椅子から立ち上がる―――前に『水鱗女王』が俺の隣に立ち、腕を掴んでくる。
「お願いしますご主人様!ワタクシ、あなたのような遠慮が無くて、鬼畜な人を望んでいたんですわ!」
「誰が鬼畜だ!ってかご主人様って呼ぶんじゃねぇ!そんなに誰かの下僕になりたいんなら、側近の騎士とかに頼めばいいだろうが!」
「一国の国王が騎士に頭を下げるなんてできませんわ!ワタクシはあくまで、ワタクシの事を『国王』とではなく、1人の『女』……いいえ、1人の『下僕』として扱ってくれる方を望んでいるんですの!」
「お前その歳で性癖拗らせすぎだろ!」
掴まれた腕を振り払い、『水鱗女王』から距離を取る。
見た目が美人で、最初の挨拶の時点では好印象だったのに、今ではただの変態にしか見えない。
「わ、わかりましたわ!それでしたら、もう少しワタクシとお話しませんか?ワタクシ、もっとあなたとお話ししたいです!具体的には、あなたの性癖と、どういったプレイが好きかを……!」
「絶対嫌だ」
「少しでいいのです!ほんの少しお話できれば―――」
『緊急連絡!緊急連絡!現在、町の中に『ゾディアック』『山羊座』と『双子座』が現れました!近隣の住民の皆さまは、ただちに避難してください!繰り返します!現在、町の中に―――』
『水鱗女王』の言葉が掻き消され、大音量の声が流れる。
甲高い警報……聞き間違えるはずもない。これは―――!
「『ゾディアックセンサー』……しかも、2人同時って、マジかよ……!アクセル!サリス!」
アクセルとサリスを呼び、『ゾディアック』の所へ―――
「イツキぃ!後ろ見やがれぇ!」
「は?何を―――」
瞬間、眼前が黒い霧に包まれた。
―――――――――――――――――――――――――
「はい、奇襲作戦……大・成・功」
先ほどまでイッチャンたちがいた場所……黒い霧に覆われた後、そこには誰もいなかった。
「サリス!」
「ストレアちゃん……!『人王』に『獣王』も!」
「なんだあいつは……『ゾディアック』なのか……?!」
「わからないね……でも、ここに残っているのは、僕たち4人だけみたいだよ」
狙いを定める獣のように眼を細くし、『獣王』が目の前の少女を睨む。
……不気味な少女だ……のほほんとした雰囲気と、強者の放つ覇気と合わさって……不気味だ。
それに、少女の頭から角が生えており……
「えっとぉ……あれ?『七つの大罪』がいるって聞いたんだけど……間違って飛ばしちゃったかな?」
「君……『鬼族』?」
「うん?違うよ?あたしは突然変異で角が生えただけ……そういうあなたは『鬼族』だね?『乙女座』の話だと、『鬼族』は全滅させたって聞いたんだけど?」
こてん、と首を傾げ、ストレアちゃんと向かい合う。
……間違いない、こいつは『ゾディアック』だ。
「ふむ……『ゾディアック』か」
「どうするのグローリアス?」
「どこかへ消えてしまったイツキ君たちも気になるが……彼らなら大丈夫だろう。それより……いつもイツキ君に任せていては悪いからな。今回は私が戦うとしよう」
普段、シャルちゃんの前では見せないような表情……強者が見せるそれとはまた違う、その表情は―――
「私が『大魔導士』たる所以……少し見せてやろう」
「……あたしは『山羊座』の『カプリコーン』……お手柔らかにね?」
「『人王 グローリアス・ゼナ・アポワード』だ……行くぞ、ライガー」
「はぁ……わかったよ」
獲物を前にした、猛獣のような表情だった―――
―――――――――――――――――――――――――
「みなさん!大丈夫ですか?!」
「……ここって……マーメイク……?」
「瞬間移動的な『能力』かぁ?あそこから一気にここまで飛ばされるなんてよぉ」
「ここから『水鱗国』に『破滅魔法』撃ったら、『ゾディアック』倒せないかしら?」
「何言ってるのよ!国にはまだ一般国民もいるのよ?!そんなことしたら、大量殺人になるわ!」
『水鱗国』の近くにある湖……私と、アクセルさんと、ランゼさんと、マーリンさん……ここにいるのは、4人だけみたいだ。
「ちっ……めんどくせぇがぁ、戻るしか―――ッ?!」
アクセルさんとマーリンさんが、突如背後を振り向いた。
何事かと振り返る前に、背後から声が聞こえてきた。
「あれ?あれれ?たったの4人?少ないね?」
「てめぇ……『ゾディアック』かぁ?」
「うん、そうだね。僕は『双子座』の『ジェミニ』。あ、攻撃しない方が良いよ?僕が反撃しちゃって君たちが死んだら、後味が悪いからね」
歳は、私と同じくらいだろうか。
幼く、まだあどけない笑みを浮かべる姿は……間違いなく、子供だ。
「バカ言ってんじゃねぇよぉ……たった1人で、4人を相手にできんのかぁ?」
「もちろん、もちろんさ……と言っても、僕が言われたのは『七つの大罪』を殺すこと、なんだけどね?」
「え……」
なぜ『ゾディアック』が『七つの大罪』がここにいる事を知っているのか?
おそらく……『水鱗女王』の噂を聞いて来たのだろう。
だとすれば、相手は『水鱗女王』が『七つの大罪』ではない事を知らないし、ランゼさんが『七つの大罪』である事も知らない。
(……ランゼさん)
(ど、どうしよう?私、殺され―――)
(落ち着いてください。落ち着いて、右手を隠してください)
(……?わ、わかったわ)
さて……ここからどうする?
私は戦えない事もないが、アクセルさんやマーリンさんと並んで戦うのなら、足手まといになるだろう。
「……『人王』の娘さんよぉ、ちょっとそいつと一緒に下がってろやぁ」
「は、はい!」
いつもなら『傲慢の姉ちゃん』と呼ぶのに、そいつと呼んだ。
アクセルさんも、『相手がランゼさんの事を『七つの大罪』だと知らない』ということに気づいたのだろう。
「さぁてとぉ……手ぇ貸せや騎士の姉ちゃん」
「なんで上から言うのよ!」
『獣王』の護衛と『騎士王』側近の騎士が、敵意を剥き出しにして、戦闘態勢に入った―――
―――――――――――――――――――――――――
「……どこだ、ここは」
「一応、『水鱗国』ですわ……王宮の反対側にある所ですけれど」
「ふむ……分断された、という感じか?」
「そうだろうな」
逃げ回る住民……大方、『ゾディアックセンサー』の警報で、パニックになってるんだろう。
「―――みなさん!落ち着いてくださいまし!」
軽やかな鈴音のような声……『水鱗女王』だ。
その声を聞いた住民が、希望を見つけたように歓喜の声を上げる。
「女王様!町に『ゾディアック』が―――」
「わかっていますわ。大人たちは老人や子どもに手を貸して、速やかに避難してくださいませ!」
「は、はい!」
「行くぞ、みんな!」
おおう……あんた、誰?
さっきまで変態発言してた人と同一人物とは思えないんだが?
「さて……とりあえず―――」
「あら、あらら。君が『水鱗女王』だよね?」
……うん、大体わかってる。
こういう時、場違いな事で話しかけてくるやつは―――
「……お前……『ゾディアック』だな」
「うん、そうだね。僕は『双子座』の『ジェミニ』……そこの『水鱗女王』が『七つの大罪』だって聞いたから―――殺しに来たよ」
『ヒュッ』と、『水鱗女王』が恐怖に息を呑む音が聞こえた。
まぁ、誰だって『殺す』った言われたら怖いよな。
「うん……うんうん。兄さんも戦い始めたみたいだし、僕も始めようかな」
ユラリと剣を抜き、『双子座』が不気味に笑った。




