表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/68

4話

「んー……どれがいいんだろ」


 棚に並ぶ服を見て、頭を悩ませる。

 ……この世界の服と元の世界の服とじゃ、そもそもデザインからまったく違う。

 この世界では普通の服が、俺にはコスプレに見えて仕方ない。


「……なあ、ランゼはどれが良いと思う?」

「うーん……あ、これなんてどう?」


 そう言って手渡してきたのは真っ赤な冒険服、いや派手だな!


「ほ、他にはないか?」

「他に……他に……じゃあこれは?」


 今度は黄色一色の冒険服……よし、よくわかった、ランゼに服を選ばせたらダメだ。


「……お、これなんて良いんじゃないか?」


 棚の中から、黒色の冒険服を取る。


「黒って……地味じゃない?」

「少なくとも、さっきまでお前が持ってきていた服の色よりはマシだ……すんません、これいくらです?」


 後ろからランゼが背中を殴ってくる。


「銅貨16枚だ」

「銅貨はねえな……じゃあ銀貨で」

「銅貨4枚のお返しだ……ありがとよ」


 ……この世界の店員って、みんな計算が早いのかな。


「次はどこに行くの?」

「もう帰るけど?」

「えっ?」


 いや、えっ?って何だよ。


「く、クエストには行かないの?」

「今日はいいや」

「えー?!行こうよ!最近ずっと採集クエストにしか行ってないの!お願い、イツキが一緒に来てくれたら討伐クエストでもクリアできると思うの!」

「いや、でも……」


 上目使いでこちらを見上げてくる……あーもうしょうがないな!


「わかったわかった、でも1回宿に帰ってからな」

「え、何で?」

「服を着替えたいんだよ」


――――――――――――――――――――――――――――――


「……あ、ここにベルトを通すのか」


 右肩から左腰にかけてベルトを通す。

 ……完全にコスプレじゃん、これ。


「あとはマントを羽織って……っと」


 黒く短いマントを羽織り、身だしなみを整える。


「……『魔導銃』はここに入れようかな」


 懐に『魔導銃』を入れ、部屋の扉を開ける。


「悪い、遅くなったな」

「……ん、似合ってるわよ」

「そりゃどうも」


 ……そういや、クエストってどこで受けられるんだろ?


「……なあ、クエストってどこで受けるんだ?」

「それも知らないの?『ギルド』よ」


 なるほど、ギルドとかあんのか。


「ギルドってここから遠いのか?」

「そうね……大体5分くらいかしら?」


 ……この世界の時間の数え方と、元の世界の時間の数え方は同じみたいだな。


「んじゃ早く行くぞ」

「そうね、そうしましょ!」


――――――――――――――――――――――――――――――


「……読めねえ」

「それじゃあ私がクエストを選ぶから、イツキはその辺に座っててくれる?」

「うい」


 ギルドに来たのは良いが、そもそも字が読めないのでクエストを選ぶことができない。


「いらっしゃいませ、ご注文お伺いします」

「あ、いや、すぐにクエストに行くんで……」

「かしこまりました、頑張ってくださいね!」


 ……今のは、ギルドの店員だろうか?


「……てか何も読めねえから、注文することもできねえんだけど」


 1人苦笑し―――誰かが俺の肩を叩いた。


「ん、クエスト決まったか―――」

「おいお前……何『リオン』ちゃんの注文を断ってんだ?」


 てっきりランゼがクエストを決めてきたのかと思ったら、全然知らない男が……6人、俺を囲むように立っていた。


「……リオンって誰?」

「何呼び捨てにしてんだ!リオンちゃんだろうが!」

「知るか、大した用事じゃないなら話しかけてくるんじゃねえよ」


 俺の言葉に、男たちの目がつり上がる。


「てめえ……リオンちゃんの注文を断っただけでは飽き足らず、俺らを挑発するとは良い度胸してんじゃねえか!」

「あ、あの、乱闘は止めてください」

「違う違うリオンちゃん、これは『決闘(デュエル)』だ。冒険者が決闘するのは何も問題ないだろ?」

「そ、それはそうかも知れませんけど……」

「と、言うわけだ。おいガキ、表に出ろ」


 いや、どういうわけ?


「……なああんた」

「も、申し訳ございません!……あの人たちは私の……その……」

「ファン?」

「……みたいなものでして……何度止めてくださいと言っても聞かなくて……」


 ……このリオンって子は、迷惑してんのな、かわいそ。


「……はあ、その決闘ってやつのルールは?」

「え?」

「だから、ルールは?」

「ルール、ですか?『相手を戦闘不能、もしくは降伏させれば勝ち。なお、決闘には『回復魔法』が使えるものを立ち会いに立てるものとする』……という感じですが」


 なるほど……戦闘不能にしていいのか。


「6人いれば俺に勝てるとでも思ってんのか……バカばっかだな」

「本気ですか?!6人を相手に―――」

「本気だってんだよ……『回復魔法』が使えるやつはいるか?」

「私が使えますけど……」


 おっと、リオンが使えるのか。


「じゃああんたが立ち会いに立ってくれ」

「それは構いませんが……本当に1人で6人を相手にするんですか?!」

「ああ……戦闘不能にしていいんなら、簡単だ」


 ランゼがクエストを決める前に、ちゃっちゃと終わらせるか。


――――――――――――――――――――――――――――――


「ルールは『相手を戦闘不能、もしくは降伏させる』ことです……準備はよろしいですか?」

「もちろんだぜリオンちゃん……野郎共!あのくそガキを、生かして帰すな!」

「「「「「うおおおおおおおっ!」」」」」


 おーおー元気だなあ、このおっさんたち。


「……あなたも、準備はよろしいですか?」

「あーオッケオッケ……」

「……無理だけはされないでくださいね」

「あいあい」


 心配そうにこちらを見るリオンを無視し、俺は懐から『魔導銃』を抜く。


「それでは―――模擬戦、開始!」

「やっちまえ!」

「くたばりやがれぇえええ!」

「うぉおおおおお!」


 気合いだけは充分みたいだな―――


「さて―――ヤるか」


 ―――『魔導銃』を構え、殴りかかってくる男たちを撃つ。


「ぐっ?!」

「い、痛?!」

「足、足が……!」

「急所は外したから安心しろ」


 1人には脇腹、2人には足を撃ち―――


「―――ふんっ!」

「ぐぼっ?!」


 ―――一番近くにいた男に飛び膝蹴りを入れる。


「―――な」

「これで終わりだな」

「うっ!」

「ぐはっ!」


 振り向きざまに残る2人の肩を撃つ。


「……で、どうするのおっさん。まだヤる?」

「ぐ、ぬ……」


 肩口を押さえたおっさんが悔しそうに俺の顔を見上げる。


「す、すごい……あの人数を、たった1人で倒してしまうなんて……」

「んー……いちいち『魔導銃』を懐にしまうのって面倒だな……」


 ……レッグホルスター的なものがあればいいんだけどな。


「あ、あなたは一体何者なんですか……?」

「あー?……別に大したやつじゃねえよ」


 ……ランゼはまだギルドの中なのかな?


「それより、そのおっさんたちに『回復魔法』を使ってやれ……一応急所は外しといたけど、痛いだろうからな」

「わ、わかりました……『キュア』!」


 リオンの詠唱に従い、おっさんたちの傷が塞がっていく。

 ……なるほど、これが魔法か。便利だな。


「イツキー!」

「お、クエスト決まったか?」

「ええ決まったわよ。じゃなくて!」

「うるさいな、大声を出すんじゃねえよ」


 ギルドから出てきたランゼが、俺の肩を掴み、前後に振る。


「何してんのよ!ギルドに来ていきなり決闘するなんて!」

「いや、俺は悪くない、絶対」

「そんなことを聞いてるんじゃないの!イツキ、ギルドに来たの初めてなんでしょ?!そんな人がいきなり決闘したら―――」


 ……ああ、『よそ者が何暴れてんだ?』ってなるってことか。

 決闘を眺めていたギャラリーが、白い目で俺を―――


「す、すげえ……」

「ああ……なんだあいつ?」

「見ねえ顔だな、どっから来たんだろうな?」


 いや、白い目どころか尊敬の目で見てるやん。


「てか早く行こうぜ?帰りが遅くなっちまう」

「そうね……久しぶりの討伐クエストだし!」


――――――――――――――――――――――――――――――


「『ゴブリンの群れ』の討伐?」

「ええ、最近この『ユグラ樹海』でゴブリンが暴れているらしいの」

「……ゴブリンか」


 まあRPGではメジャーなモンスターだな。


「にしても……この森深いな」

「そう?この森は小さいくらいなんだけど……」


 異世界の大自然半端ねえな!


「―――ん」

「どうしたの?」

「静かに……何か聞こえるな」


 子どものような叫び声が、森の奥から聞こえてくる。いや、子どもにしては声が低い。これは―――?


「―――ギャキャァア!」

「ゴォオオオオオ!」


 ……あれが、ゴブリンか?

 俺的にはもうちょっと可愛い感じで吼えると思ってたんだけど。


「ちょうど良い機会ね。イツキ、私の魔法を見せてあげるわ!」

「あい、どうぞ」

「何でそんなに適当なのよ!」

「おい大声を出すな、ゴブリンが俺たちに気づくだろうが」


 こちらをジロッと睨むランゼ―――杖を構えた瞬間、その雰囲気は一変した。


「『破滅魔法』―――『ビッグバン』!」


 ―――小さな光の塊が、ランゼの手から放たれる。

 ……いやしょぼっ!


「さあ……弾けなさい!」

「ぇ―――」


 瞬間、光の塊が急激に膨張し始め―――


「ゴァ―――」

「ギャ―――」


 ゴブリンの群れだけでなく、周りの木々や、俺まで吹き飛ばし―――やっと光の膨張が止まった。


「……お、お前は俺を殺す気か?!」

「あ、巻き込んじゃった?」


 吹き飛ばされた体を起こし、辺りを見回す。

 ……なんてデタラメな威力だ。

 木々は根本から吹き飛ばされ、地面には大きなクレーターができている。

 さらにはゴブリンのものだったと思われる手足が散らばっていた。


「はー!久しぶりに『破滅魔法』が使えてスッキリしたわ!」

「そりゃよかったな……って言いたいとこだけど、あれ」

「え?」


 今の爆発音を聞いて、別のゴブリンたちが集まってきている。


「え、ど、どうしよう?!私、もう魔法使えないし……」

「はあ……ちょっとお前がスゴいと思った俺がバカだったよ」


 ゴブリンの群れに向けて『魔導銃』を構える。


「とっとと終わらせて帰るぞ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ