表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/68

10話

「……ふ、む?イツキ君は異世界から来たのだろう?」

「はい……そうです」

「女神が伝えた伝承の通りならば、イツキ君が勇者になるのではないか?」

「そう、ですけども……」


 ……いい加減、拘束を解いてくれないだろうか?


「俺だって人間ですよ?見たことない能力を持ってたとしても、『特殊魔法』が使えたとしても、痛いものは痛いし怖いものは怖いんですから」

「……そうかも知れんが……」


 ヘタレと言われても仕方がないが、俺は人間……いくら勇者だと言っても、痛いのは痛いだろうし。


「……てか、そろそろ拘束を解いてくれないですかね?」

「……だ、そうだ……シャル」

「そうですね……もう少し一緒にいてもいいですか?」

「ダメです早く解放しろください」

「色々と混ざっているぞ」


 この拘束……キツいんだが。


「……お父様、少しイツキさんと二人きりにしてくださいますか?」

「うむ……わかった」

「はっ?」


 グローリアスさんが尋問部屋を出ていく―――いやちょっと待て。


「し……シャル?」

「……………」


 部屋に残されたのは俺とシャル……しかも俺は拘束されている状況……これは詰みだな。


「イツキさん……」

「な、なに?」

「……この前の話、覚えてます?」


 ……この前の話って……?


「……『1週間以内にイツキさんを納得させる答えを探す』という話ですが……」

「……あ、ああ……この前ここに来たときに、そんなこと言ってたっけ……」


 シャルが媚薬を片手に近づいてきて―――


「す、ストップだシャル!そこで止まれ!」

「ずっと考えましたが……イツキさんを納得させられるような答えは、思いつきませんでした」

「俺の声聞こえてる?そこで止まって?」

「ですから、こう思ったのです」


 ―――鼻と鼻がぶつかりそうになる距離、そこでシャルはにっこりと微笑んだ。


「イツキさんから『シャルが好きだ』と言ってもらえれば、難しく考える必要がない、と」

「その発想に行き着くお前の思考が怖いわ!」

「この薬を飲めば、イツキさんは私に惚れてくれる……イツキさん、飲んでくれます?」

「無理だよ?」

「そう言うと思ってました……だから強制的に飲ませますね?」


 いや、『飲んでくれます?』って聞いた意味ねえじゃん。


「さあ、2人で夜の営みを―――」

「イツキ!何してるの!いい加減出てきなさい!」


 寸前、ランゼが扉を蹴破り中に入ってきた。


「ら、ランゼ様!ナイスタイミングだ!あんた神だ!助けて―――ランゼ?」


 室内を見たランゼが固まる。


「……卑猥」

「へっ?」

「こんな少女に手を出すなんて、卑猥!」

「お前はこの状況を見て、俺が加害者に見えるの?どう考えても被害者でしょ?」


――――――――――――――――――――――――――――――


「……でっけえな」

「そうね……これが別荘なんて、さすがは国王様ね」


 グローリアスさんに貰った別荘に来た。


「ね、ねえ!僕、二階を見てきてもいい?!」

「ああ」


 ストレアが二階に駆け上がっていく。


「……こんなところをくれるなんて、さすがは王様だな」


 ただ1つ、解せないのは―――


「なんでシャルが一緒なのか、だな」

「嫌ですか?」

「さっきのことがあって、お前に警戒心を持つなって言われても無理な話だな」

「そ、そんな?!」


 ―――シャルも一緒に、別荘で暮らすことになった。


「……まあ悪いやつとは思ってないけど、今日みたいなことが次にあったら、怒るからな」

「うぅ……わかりました」


 しょぼん、と肩を落とし、シャルがとぼとぼと中に入る。


「ったく……グローリアスさんも人のことを考えてくれよな」


 『娘が誰かと一緒に居たいと言ったのは、今回が初めてなのだ……一緒に連れていってくれないか?』って、あんな真面目な顔で言われたら、断れないっつーの。


「その……イツキさんは、『魔王』を討伐されるのですか?」

「唐突な質問だな……そうだな、俺は危険な目に遭いたくないし、痛いのも嫌いだから、『魔王』なんて放っておきたいな」

「ふふ……イツキさんらしいです」


 そう言ってシャルが腕に抱きついてくる。


「さてさて……どうしたもんかね」


 確か……『獣国』の護衛を頼まれてたな。

 『獣国』……名前からして、獣がいるんだろうか?


「でも、まだ日にちがあるな……」


 やることもないし……どうしようか。


「……ランゼ」

「ん、何?」

「この国の案内をしてくれないか?」

「この国の……?別にいいけど、何で?」

「えっと……俺、この国のことよく知らないからさ」

「……ほんと、イツキってどこから来たのよ」


 ……俺が異世界から来た、というのを知ってるのはグローリアスさんとシャルの2人だけだ。

 無論、2人には『絶対に誰にも言わないでくれ』と釘を刺しているので、他の誰かに知られることはないと思う。


「別に……案内が嫌なら、俺1人で行ってくるけど―――」

「それじゃ行くわよ」


 返事がはええよ。


「私も行きたいです!」

「……んじゃ、ストレアも呼んでくるか」


 1人で留守番はかわいそうだし。


――――――――――――――――――――――――――――――


「わあ……!『人国』って広いね!」

「そうですね……『竜国』と『騎士国』に続く大国ですからね」


 はしゃぐストレアの後をランゼが追いかける。


「『竜国』……って、何だ?」

「何だって……何がです?」

「その『竜国』だよ、どんな生物が暮らしてるんだ?」

「えっと、『竜国』には『竜族』と呼ばれる人種が暮らしています」


 『竜族』って呼ばれる……人種?


「え?人が暮らしているのは『人国』と『騎士国』だけじゃないのか?」

「うーん、何と言えばいいのでしょうか……『人国』や『騎士国』に暮らしているのは『人族』、『竜国』に暮らしているのは……人間と竜が合わさった『竜族』……純粋な人間ではないのです」

「……悪い、さっぱりわかんねえや」

「……実際に『竜族』を見た方が早いかも知れませんね、いつか行きましょう!」


 うーん……異世界って難しいな。


「その……国ってどのぐらいあるんだ?」

「国ですか?私たちが暮らす『人国』、『獣人』と呼ばれる人種が暮らす『獣国』、先ほど説明した『竜国』、『人国』以外に『人族』が暮らす『騎士国』……この他には、ストレアさんが暮らされていた『鬼国』、『妖精族』が暮らしている『妖精国』、『マーメイド』と呼ばれる人種が暮らす『水鱗国』、そして『エルフ』が暮らす『森精国』……この8国ですね」

「……この前グローリアスさんが言っていた……あの、何だっけ……ああ、『人国 アンバーラ』『ベニアルマ』『テルマ』『シュリーカ』……って何?」

「それはお父様が治められている国の名前です」


 ということは……グローリアスさんは4つも国を治めてるってことか?


「……他には?」

「ええと、『騎士王』が治められる『騎士国 ファフニール』『ゲムゾレア』『セシル』……『獣国』の国王、『獣王』が治める『タイゴン』『オルシウス』『ランサード』『ロズクリア』、『竜国』の国王、『竜王』が治めている『ドラギオン』『ガルドバーン』『サルクルザ』、『妖精女王』の治める『ティターニア』『オベイロン』『シェイクス』、『鬼王』が治め……られていた『ヒューラゴン』『プラシア』、『水鱗女王』の治められる『ウィアル』『ヘレシア』『ニルベン』、そして『森精王』が治める『エルフィーナ』『ファニア』、ですね」

「多いな」


 何1つ覚えられなかったぞ。


「イツキー!早く早く!」

「あーわかったわかった……行くぞ、シャル」

「はい!」


 ランゼとストレアの後をゆっくりと追う。


「あ……シャル、もう1個聞いてもいいか?」

「何でしょう?」

「『氷魔法』……って魔法はあるのか?」

「『氷魔法』……?」


 この前ヴァーゴと戦ったとき、ヴァーゴは『氷魔法』と思わしき魔法を使っていた。


「いえ……『氷魔法』というのは聞いたことがないです」

「ならヴァーゴは何で……?」

「おそらく、『アイシクルユーザー』という能力を持っているんだと思います」

「『アイシクルユーザー』……」


 ヴァーゴは『能力持ち』だったのか……


「……お、ランゼ、ストレア!ちょっと待ってくれ!」

「ん、どしたの?」

「あそこの武具店に行きたいんだけど、いいか?」

「うん!別にいいよ!」


 武具店に入り、店主を探す。


「……らっしゃい」

「あーっと……オーダーメイドってできる?」

「……おーだー、めいど?」


 俺の言葉を聞いた店主が首を傾げる。

 ……オーダーメイドって言葉はないのか?


「……じゃあ特注ってできるか?」

「できるぞ……武器か?防具か?」

「どっちでもないんだよな……」


 ますます店主が首を傾げる。


「えっと……俺が欲しいのは―――」


――――――――――――――――――――――――――――――


「……ん、何あれ?」


 武具店を出て、そろそろ家に帰ろうと―――したところに、人だかりが見えた。


「何でしょう……近寄ってみますか?」

「ええ……面倒事は嫌なんだが……」

「文句言わない!行くわよ!」

「おー!行ってみよー!」

「おい、俺の話を―――痛いっ!わかった!わかったから引っ張んな!」


 ランゼとストレアに引っ張られるようにして、人混みに向かう。


「―――てめえ……もういっぺん言ってみろ!」

「何度でも言ってやろう……人を連れ去ろうとするなどクズのすることだ、と言っているのだ」

「この、クソガキ……!」


 ……女の子だ。

 シャル……よりは歳上だろうか?男3人が、その女の子を囲んでいた。


「女の子にしては、言葉遣いがたくましいな……」

「言ってる場合?!早く助けるわよ!」

「あー……俺が?」

「もちろん」


 ざけんなよこいつ。


「……面倒事はマジで嫌なんだけどな……」


 ため息を吐きながら、ガシガシと頭を掻く。


「『アースバレッド』!」

「『シャドウボール』!」


 男たちの詠唱……それに続いて、『土の弾丸』と『闇の球体』が現れ、女の子に―――


「……『ヘルフレイ―――」

「『クイック』」


 ―――当たる直前、女の子を抱き抱えて魔法を避けた。


「ああ?何だてめえは!」

「……嫌々ながら女の子を助けさせられた、可哀想な男だよ」


 女の子を抱えたまま、男たちに目をやる―――


「……あれ?てめえどこかで見たような……?」

「はあ?何寝言を言って―――」

「おい……お前、まさか……!」


 ―――あ、もしかして。


「……この前ランゼに絡んでたやつらか?」

「ひっ、ヤバイ!こいつはヤバイ!おめえら、ずらかるぞ!」

「あ、兄貴?!」


 ……この町のワルって、あいつらしかいないのかな?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ