契約したみたい
第3話です。
空は真っ青で雲ひとつなく、見渡せば180度青く輝く海が見える。
ここは異世界アーティカルド。その中のどこかに位置する、周りを全て海に囲まれた孤島。島の地面は全て砂で出来ていて、島にはヤシのような実がなった気が1本生えているだけ。
つまり、木以外何も無い、海の上にポツンと位置する孤島。その島の中心には銀髪の少年が1人他佇んでいる。名前をノア=シルファ。先程この世界にやってきたばかりの人間である。
「……これ…詰んだな…」
「はぁーおかしいだろこれは…」
転生の門を潜り、激しい光に身を包まれた後、目を開けると目の前には青い海が広がっていた。
「転生しておよそ2秒で詰むって…はぁ、これからどーしよう。」
目に映る惨状に思わずため息が漏れる。何も無い島で、これからどう異世界を生きて行けば良いのか。
来て早々不安が募る。
「とりあえず、ここから出たいな。飛べたりできないか?魔法で。」
何か手段は無いか、と縋る気持ちで自分のステータスを確認してみる。
ノア=シルファ
力:S 防御:S 魔力:SS 魔防御:S 敏捷:S
スキル
異世界言語学
契約魔法
「バグですか?…ステータス高すぎない?ってかそれよりも、ランクはSまでって聞いてたんですけど。」
確認した自分のステータスは、全てがSランクに到達しており、魔力に関しては、聞いたことのないSSランクになっている。
「なんかもう、いいや…とにかくここから抜け出せれば何でもいい。」
女神様に聞かされてないことが起きすぎて、少々投げやりになる。そして、興味はスキルへ。先程転生の間で見た異世界言語学と、もうひとつ、見慣れないものを見つける。
「契約魔法?なになに…なるほど。」
ステータスのスキルの欄にある契約魔法の詳細が知りたいと無意識に念じると、頭の中に詳細が流れ込む。
要約すると、第一に契約魔法の呪文を唱え、魔物を召喚する。次に魔物と契約を結び、自分に従わせる。との事だ。所謂召喚魔法と同じようなもの。
「ざっくりしてるなぁ。とりあえずやってみるか。」
ノアはまず、自分の中にある魔力を感じるところから始める。意識集中させる。自分の血が、体の中を巡るのを感じる。少しすると、ドクドクと波打つ血の他に、血とは違うものが見えてきた。それは、血のように体中を巡る。魔力である。
魔力を感じたノアは呪文の詠唱に入る。体中を、巡る魔力を詠唱に注ぎ込む。頭の中に流れる言葉を声に出して読む。
「"契約の陣に従いて、その身を現せ"…かなり短くしたけどこれで大丈夫か?」
元々の詠唱文はもっと長かったのだが、全てを言うのは恥ずかしくなり、少々省いたのだ。一抹の不安を抱えていたが、それも杞憂に終わる。詠唱が終わった直後、地面に赤黒い魔法陣が描かれる。そして、そこから黒い煙と、赤い光が発せられる。
「くっ」
強い光に少し目が眩んだノア。ゆっくりと目を開けると、目の前には白い大きな影。
「っ!?」
目の眩みが治り改めて見ると、驚きで声が出ない。赤黒い魔法陣の上に座りこちらを見る白い者。
体長が3メートルを優に超す程のそいつは、お座りを、した状態でじっとこちらを見詰めている。体中白い毛で覆われた__
「狐?」
そいつの顔は、日本で見た事があるものよりも整っているが、紛れもない狐。しかしひとつ違うところが。
尻尾が9本。背中の後ろでゆらゆらと揺れている。
「__お前、九尾か?」
九尾。9本の尻尾を持つ霊獣、または妖怪と言われている。それが今、目の前にお座りをしている。
『はい。私は九尾、あなたに呼ばれて参りました。』
「えっ?」
思わず戸惑ってしまう。雪の様に真っ白でふかふかの毛を持った九尾が、喋ったのだ。氷の様に透き通った綺麗な声で、しかも直接頭の中にだ。
「話せるんだな。驚いた。」
『はい。声が聞こえるのはあなただけですが。それよりも、あなたが私を呼んだお方で間違いはありませんね?』
「あぁ」
『では、私と契約を結んで下さい。』
契約。そう言われて我に返るノア。思えば、この九尾は自分が契約魔法によって呼び出した者だと。
しかし、
「契約って、具体的にどうすれば良いんだ?戦って勝ったら、とかか?」
『私を呼び出した者が今まで1度も居なく、前例が無いので分かりませんが、あなたの魔力を私に混ぜて貰えれば良いかと。』
「それだけで良いのか?」
もっと複雑な儀式とかが必要になると思っていたので、少し驚く。まぁ、戦えと言われても正直言って困っていたが。
『それなら戦ってみますか?』
クスリと、微笑みを浮かべながら問いかけてくる九尾。
「いや、お断りしておく。」
即答。
(いや、無理無理!絶対勝てない。俺のステータスもやばいけど、こいつはもっとやばいわ。最初から威圧感が半端ない。)
『では、契約を。』
そう言われ、ノアは九尾の頭に手を翳し、自分の魔力を送り込む。
「ふぅ、これで終わりか?」
魔力ランクSSでも相当な魔力を消費したことで、こいつの凄さが分かる。
『これであなたは、私の主様です。主様、最後に私に名前を付けてもらえないでしょうか?』
九尾は座った状態から、身を屈めてお辞儀をしてくる。
「名前か、んー………ハク…はどうだ?」
安直だが、雪の様に真っ白で、綺麗な毛並みなどを表現するにはこれしか無いと思った。
『ハク…ありがとうございます。私に凄く合っていると思います。凄く…凄く嬉しいです。』
凄く喜んだ様子で感謝を伝えて来る。
『このハク、主様の為に誠心誠意尽くします。どうかお側に。』
「あぁ、これからよろしくな、ハク!」
こうして、第一の仲間が出来た。