始めるみたい
「異世界転生の道を選びます。」
秋は真剣な目をして、女神エインスフィールに告げる。すると、エインスフィールは微笑み、良かったぁと小さく呟いた。
「では、秋さんにはもうすぐ異世界へと行ってもらいますがその前に、異世界で生きていくためにあなたに力を授けます。まず、頭の中で"ステータス"と念じてください。」
秋は言われた通りに念じる。
ステータス
東城 秋
力: 防御: 魔力: 魔防御: 敏捷:
スキル:
「ん?数値とかは無いんですか?」
秋のステータスは名前と項目が書いてあるだけ。
恐らく数値が入るであろう場所は空欄になっている。
「今現在、秋さんは本当に実態がある訳では無い、つまり魂として存在しているので、ステータスが数値化されておりません。本来ステータスはこのようになっております。見てください。」
と言って、エインスフィールが秋に、1枚の板を差し出す。それは、薄い鉄の様な物で出来たプレート。手に収まる程の大きさのそれは、見ると文字が書いてある。
「えっと…読めないんですけど。」
しかし板を見ると、書いてあるのは見たことも無い文字の羅列。文字の配置からして、先程のステータスと同じ物だと考えられるが、明らかに地球のものでは無い文字は読むことが出来ない。
「あっ、すみません!えっと…はい、これで大丈夫だと思います!」
エインスフィールは慌てて秋の頭に手を翳す。手には淡い光を灯している。
大丈夫だと言われたので、秋はもう一度プレートを見る、すると先程まで読めなかった字が見慣れた日本語に変換されていた。やはりこれはステータスプレートのようだ。
「おぉ。凄いですね。」
「すみません、すぐに行うつもりだったのですが。今異世界の文字を読み書き出来るようにする能力を与えました。これで多少の不便は無くなったと思います。」
「大丈夫ですよ。ありがとうございます。」
女神様は少し天然なのか、と思いつつも、いい能力を貰ったと内心感謝する秋。
そして、ステータスプレートの内容を詳しく見る。
ステータス
名前
力:E99 防御:D99 魔力:C99
魔防御:B99 敏捷:A99
スキル
異世界言語学
「それはステータスをわかりやすく説明する為に作った物です。まず上から名前、そして五種類の項目と、スキル欄があります。」
「まずは項目について説明しますね。各項目の詳細はある程度分かると思いますのでここでは省きます。数値についてですが、左にはアルファベットがあり、下はEから上はSまであります。これはいわばランクであり、一ランク100ずつ、AからSにいくには1000かかります。まぁSランクを持っているのはほぼいませんが。」
「次に、スキルです。そこに書いてあるスキルは、先程渡したスキルです。数値やスキルは、努力することによって上がることがありますので頑張ってください。」
「はい。ありがとうございます。詳しくは、生活していく中で覚えていきます。」
秋は微笑みを浮かべ、エインスフィールに感謝を告げる。
「あ、1つだけ、その黒い髪と目の色、それに東城秋という名前は珍しいので少々目立ちます。変えなくても宜しいですか?」
確かに、と納得する。異世界アーティカルドは黒目黒髪の人間はいないに等しいらしい。東城秋という名前も明らかに合わないだろう。今まで付き添って来たものに別れを告げるのは少し惜しいが、秋は目立つのがあまり得意では無いので、変えてもらう。
「……はい、出来ました。どうでしょうか?」
差し出された鏡を見ると、銀髪碧眼の男が映る。
ステータスを念じて、名前を確認してみる。
ステータス
ノア=シルファ
力: 防御: 魔力: 魔防御: 敏捷:
スキル
異世界言語学
「…見慣れないので、変な感じです。」
「大丈夫。かっこいいですよ。」
にこり、と笑顔を向けるエインスフィール。
秋は思わず赤面してしまった。
「では、そろそろ。最後に、これは私からの餞別です。」
エインスフィールは今度は、秋、いやノアの胸に手を翳す。頭に当てられた光よりも強い光が、秋の胸に入っていく。
「スキルを少しと、身体能力を増強させて起きました。どうか楽しく、そして死なないで。」
エインスフィールの、微笑みにどこか憂いの混ざった様な表情は、今まで見た彼女の中で一番綺麗だった。
「行ってきます。」
「はい。お気をつけて。」
場所は光を放つ大きな扉、転生の門前。
「ノアさん!あなたは異世界で何をしたいですか?」
「そうですね、俺には大した事は出来ませんが…とりあえず、生きる意味を探します。」
振り返らずに告げた言葉は、エインスフィールに届いたかは、分からない。
しかしまぁ、
「あなたの第2の人生に幸あらんことを!!」
届いたのだろう。
説明会終了