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色のある世界

作者: もずく

恋愛物が書きたくなって書いてみたした。暖かい目でご覧ください。

いつからだろう、世界に色がなくなったのは。

 始めに自覚したのはいつだったか自分でもよく覚えていない。

 小学校のころから人気者で男女問わずに人気もあった、いじめられていたどころかいじめを止めたこともあった。

 中学生のになると周りが異性を気にしはじめて、女の子に人気が出るようになった。成績も常に上位で運動もできる、しかも生徒会に所属しており品行方正。

 高校生になると県でも屈指の進学校に入学し、ファンクラブのようなものまで来はじめた、男友達とも仲良くしてバスケやサッカーなど遊んだりもした。定期考察でも上位の成績を取り付け、先生方にも気に入られていると自負している。

 体育祭では団長を務め、生徒会では副会長の役についている。

 他人から見れば順風満帆な人生。でも俺にとっては生きることそのものが苦痛だったんだ。いつのまにか死にたいという気持ちが心のなかに住んでいた。

 常に笑顔の仮面を張り付けて、常に困っている人に気を配って、常に努力し続けてきた。

 でもその負担が限界に達したとき俺は自傷行為に走った、日に日に増えるその傷を隠しながら生活する。

 そうしていくうちに俺の視界から色と言うものがどんどんとなくなっていき、ついにはモノクロの世界で生きている。

 目覚まし時計が鳴り響く、また、今日も憂鬱で退屈な日常が幕を開ける。

 無表情な顔を無理やり笑顔に歪ませて、シワの無い制服に着替えて身だしなみをキチッと整えて、髪をワックスで見映え良くして、最後にリストバンドと時計でリストカットの痕を隠してから朝食を取り、笑顔のまま家族に挨拶して食事をとる。談笑しながら、このまま消えてしまえたら良いとの思考を読み取らせないように殊更笑顔を振り撒きつつ家を出て学校という耳にするだけでおぞましい場所に意気揚々と歩き出す。

 学校について下駄箱を開けるとまたこれか、ラブレターの類いが入っていた。恋愛というものが少しでも生きる希望になればと思い何人かと付き合って見たものの彼女の前ではいつも以上に「いい人」を演じなければならなくなってしまい、面倒になって別れた。

 これで放課後少し時間をとられるな。家に帰って一人で寝たいと言うのに。

 教室に入ると毎朝忌々しいことに皆が挨拶してくる。

 

 おはよー光輝くん!おはよう!おはよう光輝!おはようおはようおはようーーー

 

 朝の挨拶すらも面倒で退屈だがそれを表に出さずに今日一番に笑顔に顔を歪ませてあいさつする。

 

 「おはよう!みんな」

 

 その答えに女子陣からはきゃーきゃー奇声が聞こえて顔をしかめそうになるが俺の仮面は早々剥がれない。

 いつもの笑顔で対応して席につく。

 

 ああ、今日も憂鬱な一日が始まる。

 心を無にして授業に勤勉に耐えること六時間、その後に手紙にかかれていた体育館裏に向かうとそこには可愛いだろう女の子がいた。

 

 「先輩、来てくれたんですね!」

 

 「うん、で、話ってなにかな?」

 

 うんざりするほど繰り返したやり取り、この後は大抵こうだ。

 

 「(好きです!付き合ってください!)」

 

 ほら、やっぱりこうなったか。非常につまらない、包丁もって殺しに来てくれれば涙を流しながら感謝してその愛を心臓で受け入れるだろう、が、皮肉にもそんな気の狂った輩は今までで遭遇していない。

 

 「ごめんね、君の気持ちはすごく嬉しいよ。ありがとう。でもその気持ちには答えられないんだ。」

 

 「ど、どうしてですか?」

 

 君では俺の希死念慮をどうにかできないだろう、俺のことをぶっ殺してくれるんだったら付き合ってあげられるよ。

 そんなことを思いながら定型文を口にする。

 

 「今は生徒会と勉強が忙がしいんだ、だから彼女に構ってあげる時間がない、だから付き合えない。」

 

 「わかり、ました。お時間作っていただいてありがとうございました。」

 

 彼女が涙を流しながら走り去っていくのをぼんやりと眺めながらまたぼんやりと死を願う。女の子を泣かせた気分の悪さもなにも感じないあたり俺は大分壊れてしまっているんだろうか。

 かといって自分で死ぬのは家族に迷惑がかかる。困ったものだ、誰にも相談できない問題を何年も抱えるってものは。

 そこでふと教室に筆箱を忘れてきてしまっているのを思い出した。家にあった予備のシャーペンは一昨日壊れてしまったのであれを取りに行かねば課題ができない。俺の積み上げてきた「優等生」が崩れてしまうのはまずい。そう思って誰もいない教室を仮面を被らずに無表情で歩く。

 そのまま教室へ向かい誰もいない教室のドアを開けると想定外にも一人の女子生徒が机で勉強していたらしく、こちらを見てきた。

 俺は即座に笑顔を何とか取り繕いその女子生徒に声をかける。

 

 「お疲れ様、飯田さん。勉強していたのかな?」

 

 この女子生徒は飯田のどか、顔は不細工でも可愛くもない平均的な顔立ちでいつも教室で本を読んでいるようなおとなしい人だ。

 

 「はい、でもどうしてここに高橋くんが?」

 

 「あはは、忘れ物をしちゃってね。でもこれとったらすぐ帰るから、邪魔しちゃってごめんね?」

 

 「いえ、構いませんけど...」

 

 「ん?どうしたの?」

 

 「ずいぶんと辛そうに笑ってますね。」

 

 その言葉を聞いたとき俺の中でなにかが壊れるような感覚があった。

 

 「そ、そんなことないよ?いつも楽しいから笑ってるだけだよ。」

 

 「でも、いつも辛そうですよ。なにか無理してませんか?」

 

 無理してませんか?だって?してるに決まっているじゃないか、俺は何年も無理やり笑顔を張り付けて明るく元気よく心に根付く死への願望を押さえながら戦っているんだ!

 

 「全然大丈夫だよ。疲れてるのかな、あはは。じゃあ、また明日ね。」

 

 俺は逃げるように教室を出ていった。

 家についた俺は体調が悪いと親に伝えて部屋に引きこもると不安に教われる、いつから気付かれていた?いや、本当に気づいているのか?思考がどんどんと悪い方に進んでいく。考え疲れていた俺はいつの間にか眠っていた。

 

 翌日から飯田のどかに気を配りつつも品行方正に生活し、思い過ごしだと少し安心した頃、放課後生徒会の急ぎの仕事で荷物を教室においたままにして生徒会の活動を終えたあと、教室に向かうと今日も飯田のどかがいた。どうやら彼女は毎日ここで勉強をしてから帰るらしい、他人の目を気にしつつ笑顔で明るく勉強をする気には絶対になれないので俺は帰って勉強をするが。

 俺は教室にはいるなり今日一番と言えるほどの笑みを浮かべて飯田さんに話しかける。

 

 「やぁ。今日も勉強をしているの?」

 

 「ええ、そうですね。」

 

 「偉いなぁ、俺も勉強頑張らなきゃ。」

 

 「高橋くん成績トップじゃないですか。」

 

 「努力しただけだよ、頑張らなきゃいけないからね。」

 

 「凄いですね、尊敬します。」

 

 「ありがとう!じゃあ、また明日ね!」

 

 飯田さんは危険ではないとこの数日の観察でわかっていたので早々に帰ろうとするが、それは叶わなかった。

 

 「待ってください。」

 

 「えっ?どうしたの?」

 

 「以前話した時から私のこと、監視してましたよね。」

 

 「っ!なんのことかわからないんだけど。」

 

 「無理、してるってことじゃないですか?相談くらいなら乗れますよ?」

 

 この女、監視に気づいてやがった。しかも相談にのれるだと?俺は何年も何年も何年も気をはって生きてきたんだ!その努力を踏みにじるような発言に頭が沸騰するがなんとか意思の力でねじ伏せ、笑顔を創作する。

 

 「気を使ってくれてありがとうね、でも、心配要らないよ。大丈夫だから。」

 

 煮え繰り返そう心に蓋をして、なるべく優しげに、いい人に見えるように、かっこよく見えるように練習していた笑顔で答える。

 

 「高橋くんいつも笑顔で優しいから、相談なんてできないんじゃないかと思って。私でよければ話しだけでも聞きますよ?」

 

 その言葉に俺の心にしてあった蓋が一気に外れた、作り物の笑顔を憤怒に塗り替えて、気を使っていた態度をかなぐり捨てて殴り付けるように言葉を発する。

 

 「お前に何がわかるって言うんだよ!人の気も知らねぇで気軽に相談に乗りますよ何て言うんじゃねぇよ!お前には解決できないことなんだよ!」

 

 「話してくれないと解決できるかできないかわかりません。」

 

 「あぁ、言ってやるよ俺には自殺願望があるんだよ!すべてが退屈で憂鬱で鬱陶しくてしかたがないんだよ!ずっと、ずっとだ!俺は「いい人」になるためにずっと仮面を被ってきたんだよ!解決してみろよ!俺を殺してみろよ!殺してくれよ...はぁ、はぁ、はぁ...」

 

 ああ、俺はなんてバカなことをしてしまったんだろう今まで培ってきたすべてを無に返してしまった。こんな話が広まったら何年も続けてきた努力がすべて水の泡だ。くそ...くそ...

 

 うずくまる俺の前に誰かが立っているのを感じた俺はふと涙に濡れた顔をあげる。そこには微笑みを浮かべた飯田さんがいた。

 

 「辛かったですね、何年も、ずっとずっと苦しかったのに吐き出せなかったんですね。でももういいんですよ。私の前でなら吐き出しても、高橋くんのことは誰にも言ったりしませんから。だから、泣いてください。」

 

 そういって飯田さんは小さな体でうずくまる俺を抱き締めた。

 すると堰を切ったように涙がとどめなく溢れてきて呼吸もままならなくなりすがり付くように飯田さんの背に手を回し、抱き締めながらボロボロと涙をこぼす。何年も貯めてきたその涙は一時間近く止まらなかった。

 漸く涙がおさまった俺は平穏を取り戻した心で飯田さんにお礼を言う。

 

 「飯田さん、ありがとう。その、ごめんね、変なこといっちゃって。」

 

 「いえ、気にしないでください。私でよければいつでも吐き出してください。私もその方が嬉しいですし。」

 

 「うん、その時は頼らせてもらうよ。飯田さんといるとありのままの自分でいられるから。」

 

 「はい、ありがとうございます。あの、よければ明日どこかに行きませんか?」

 

 「明日?明日は学校だけど...」

 

 「サボっちゃいましょう、ありのままの自分で遊びにいきましょう。死にたくなったら私が止めます、命を懸けても。」

 

 「さぼり...そんなことしたことなかったよ。でも、面白そうだね、うん飯田さんと一緒なら面白そうだ。」

 

 その翌日、親には代休だと嘘をついて、学校には病気だと嘘をついて私服で駅に向かう。なんだかドキドキする、こんなに気分がいいのはなぜだろう、何年ぶりだろう。

 電車を乗り継いで目的の場所へと向かうとそこには既に飯田さんがいた。

 

 「ごめん、待たせちゃったかな?」

 

 「いえ、待ってませんよ。それよりもまた無理して笑ってますね、無理しなくていいんですよ。」

 

 そう言われてハッとする。無意識に笑顔を張り付けていたみたいだ。俺は気を抜いて無表情になるとそれを見ていた飯田さんは嬉しそうにうなずいた。

 その日は一日中飯田さんと遊んだ、ボーリングで俺がストライクを連発するのにたいし飯田さんはガーターばっかりでむくれてしまい飲み物をおごった気分を和ませたり、俺が発作的に死にたくなると人気のないところで抱き締めてくれたり、ダーツをしたりビリヤード、カラオケ、ホッケー、クレーンゲーム等々たくさんのことをした。夜も更けてきた頃夜景が見える人気のない公園で飯田さんは言う。

 

 「今日、楽しかったですか?」

 

 俺は無表情のまま答える。

 

 「ああ、すごく楽しかったよ。俺は今日のために生まれてきたのかもしれないって思うほどに。」

 

 「それはよかったです。でもまたいつでも遊びにいけば楽しいことがたくさんありますよ?」

 

 「そうか、そうだよな。ねぇ飯田さん。これからも、ずっと、俺といてくれないか?」

 

 自然と口から言葉がこぼれ出てくる。

 

 「えっ?あの?それは、どういう意味ですか?」

 

 すごく恥ずかしいがこれは言葉にしなければいけない気がした。

 

 「俺は今までモノクロの時間を過ごしてきたでも君のお陰で世界に色がついたんだ、だから、好きだ。」

 

 飯田さんは口を押さえて涙を流している。そしてしばらく口を押さえたあとに手を離して答えた。

 

 「はい!私も高橋くんのことがずっと好きでした。」

 

 「キス、してもいいかな。」

 

 飯田さんは目を閉じて顔を上にあげてきた俺も目を閉じて、ぎこちないキスをする。

 数瞬ふれあった唇が離れてお互いが目を開けたので視線がぶつかり、気恥ずかしくなった俺は顔を横にそらす。すると今までモノクロでしか見たことなかった夜景が色鮮やかに目にうつる。

 

 俺の世界に、色が戻った。

お読みいただきありがとうございました。

別作品の白焔の覇王も読んでいただけたら狂喜乱舞する所存ですよろしくお願いいたします。

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