読者様感謝企画~緋和さん編~
時刻は2時40分。窓の外は暗闇と、消えることのないネオンサインが渾然一体となって広がる。
普通の人なら、布団にくるまって夢を見ている時刻。いや、先程までは自分も同じように夢を見ていたなと苦笑し、少年はパソコンを立ち上げた。
使い込まれたキーボードはとうの昔に磨り減り、印字してあったはずのアルファベットは影も形もない。しかし少年の指は惑うことなく、まるでピアニストの指のように踊る。壁には少年が書いた小説の数々が書籍として保管され、じっと少年を見つめる、
紡がれていくのは、小説の骨子(一般的にはプロットと呼ばれる)だ。主人公のパーソナルデータが綿密に決定され、何もなかった世界に新たな人格が誕生する。さらに少年はメインキャラクターや世界観、小説のあらすじまで打ち込み、ほっと息を吐いた。
平凡で、何の力も持たないはずの少年が、世界を新たに創造することで、『創造神』になる瞬間。
打ち込み終わったプロットを再度見直しながら、小説の形に仕上げていく。途中でプロットから外れ、物語が予定していた方向から外れた時には、焦らず続きのプロットを書いていく。
いつしか空は白み始め、小鳥がさえずるようになっても、少年の指は止まらない。ただひたすらに小説を編んでいく。
その後ろには、やわらかく微笑む彼女がいた。
彼の人生を変えた、その笑みを浮かべて。