揺れるしっぽ
気がづくと、僕は、いつもそのしっぽを目で追っていた。
風になびくしっぽ。君と一緒に揺れるしっぽ。
僕がそれを初めてみたのは、窓から桜の見える季節だった。
僕の前の席に座る君の後ろ姿と、しっぽ。
プリントを配ろうと君が振り返る度に、しっぽが揺れる。
授業中の発表で君が立ち上がる度に、しっぽが揺れる。
最初は、何気なく、ただ眺めていただけだった。
さらさらの毛で、艶があって、綺麗な黒色。
けれど、いつの間にか、そのしっぽに惹かれていて。
…いや、違う。
僕が惹かれたのは、僕の気持ちが向いている先は、しっぽの先にいる、君だ。
だけど僕は、君の後ろ姿しか、まともに見ていられなかった。
声をかけることなんて、もちろんできなかった。
もし君に拒絶されたらどうしようと思うと、怖くて、勇気が出せなくて。
だから僕は、いつも遠くから、君のしっぽを追うことしかできなかったんだ。
席が替わって、僕の目の前からしっぽがなくなっても、君の声が聞こえる度に、君の名前が呼ばれる度に、君のしっぽを探していた。
僕の視界の中に、君のしっぽを見つけても、僕には何もできなかったけれども。
僕が君を見ていることがばれないように、君のしっぽが揺れているのを、こっそりと見ているだけだった。
それは、初めて見た時から、三度目の桜を見るまで続いた。
最後の日、僕の横を駆けていった君の揺れるしっぽが、君の後ろ姿が、僕は忘れられなかった。そのまま君は、桜吹雪の中へと消えて行って。
結局僕は、ずっと、何もできないままだった。
あれから、もう随分時が経ったけれども、今でも僕はそれを見つけると、目で追ってしまう。
その先にいるのは君じゃなくて、全くの別人だとわかっているのに。
それでも、無意識的に反応してしまう。惹かれてしまう。
あの時の、君のしっぽ。
ポニーテール。
優しいお話が書きたくて、昔書いたものを再考しました。
青春っていいですね。