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惑い恋  作者: 山口みかん
5/8

その4 初デート

 明日は誠司君と遊園地にデート。

 これは先日のリベンジというだけではなくて、誠司君と初めてのちゃんとしたデートなのです。


 明日の天気予報も色んなホームページで何度も調べた。

 どれもこれも降水確率0%の一日快晴、デート日和。


 明日の為の服も、初めてのデートは新しい服で行きたいなと思い立ち、今日慌てて買いに行った。

 お小遣いを貯めておいて良かった……

 お婆ちゃんがいつも言ってた『お金は無駄遣いしないで貯めておきなさいよ、いつ何があるか判らないんだから』という言葉は正しかったのです。

 お婆ちゃんありがとう…… 明日、誠司君とのデート頑張るね。


 どれが良いのか散々迷った挙げ句、ショップのお姉さんに泣きついた。

 お姉さんは、どんな彼氏か、どこに行くのか、楽しそうに根掘り葉掘り私を問い詰めて、服を選んでくれた。

 決まったのは、お姉さんお墨付きのネイビーブルーのギンガムチェック柄、膝丈フレアワンピース。

 白の丸襟と、リボンデザインの小さな銀のバックラーをワンポイントにした白の細いベルトでウエストをきゅっと締めてアクセントにしてあるのがとっても可愛い。


『すごくお似合い。 それに、これなら風に裾が綺麗になびいて、そこからちらりと覗くふとももに初心な彼氏なら貴女にドキドキよ。貴女も慣れて無さそうだからこれくらいが丁度良いと思うわ』


 ショート丈の制服のスカートより長いのに、これの方がドキドキするって本当かな? 見せない魅力って言われたけど……

 いつもと違うというのが重要なんだとか。


 鏡の前で何度もくるくると回っては確認しながら、明日のデートシーンを想像する。

 誠司君、褒めてくれるかな?


 そんな事を思っていたら、由佳里から電話がかかってきた。

「もしもし、由佳里、こんな時間にどうしたの?」

「えーと、明日何処か行かない?」

「明日? 日曜日だよ?」

「うん」

「自分のデートはいいの?」

「え? ん、あー、まあね。それは大丈夫」

 由佳里ってば、気を回しすぎだよ。


「そんな、気を使ってくれなくてもいいよ? 私も明日デートなんだ」

「え? ほんと?」

「うん」

「やったね、初デートでしょ? どこに行くの?」

「遊園地」

「……え?」

「大丈夫だよ? すごく楽しみだもん」

「そっか…… うん、そうだね! リベンジ頑張って!! 最後は絶対観覧車だよ?」

「……うん。そのつもり」

「よしっ、報告楽しみにしてるからね」

「えっ?」

「ぶっちゅーってのを期待してるよ!」

「ええええええ?」

「それじゃ、あたしとは月曜日ねー。早く寝て明日に備えなよ? おやすみー」

「お、おやすみ」


 由佳里に言われたからでは無いけど、寝不足で遊園地に行く羽目にならないようパジャマに着替えて布団に潜り込む。

 明日。観覧車に乗ったら勇気を出して…… うん、頑張る。

 そう思ったら、どきどきしてなかなか眠れませんでした…… 早く寝ないとー



 翌朝、目を覚まして真っ先にカーテンを開いた。


 天気予報の通り快晴です!

 なんとか睡眠不足という事も無く、ぱっちり目も覚めて体調も万全。

 いい一日になりそうです。


 無駄に入った気合いで、そんなつもりは無いのに可愛い下着を選んだりして……

 全然そんなつもりないですよ? ないですけど…… やっぱり気になります。よね?

 

 そして、昨日買ったワンピースに袖を通して、鏡の前で何度も髪に櫛を通します。

 いつもと同じ髪型なのに、鏡の前でにこっと笑ってみてリハーサル。


 ショルダーポーチの中ももう一度確かめて、お財布よし、ティッシュよし、ハンカチよし、リップよし

 お薬やソーイングセット、髪留めに櫛、手鏡、念の為整生理用品も。

 いつものセットが揃ってるのを確かめて、準備完了。


 そうやって何度も色々再確認しているうちに気がつけば時間も過ぎていって……


「由綺ー 出かけるんじゃ無かったのか? 時間大丈夫か?」

 階段下からお父さんの声が聞こえてきた。

 え? 今、何時?

 時計を見ると…………うわっ、危なかったギリギリだ。

 慌てて家を飛び出して、駅に向かいました。


「誠司君ー」

 駅前で既に待ってくれている誠司君を見て、つい駆け足で走り寄りながら声をかけた。

 それに気がついた誠司君が手を振ってくれている。


「待った?」

「いや? ついさっき来たばかりだよ」

 いつかしたような会話に、つい笑いそうになった。

 そして、そうやって心が緩んだ瞬間を狙い澄まされたかのように――――


「由綺、その服可愛いね、由綺に凄く似合ってると思う」

 ぇあ? うわっ…… わわわ…… その不意打ち、反則っ。

 顔が凄く熱い。きっと真っ赤だ。

 かっ、顔が上げられないっ……

「あ、えっと…… その…… ありがと。 お世辞でも嬉しい」

「お世辞じゃないって。凄く可愛い」

 だっ、だから、それ反則っ……

 恥ずかしくて顔を上げられない。


 えと、その、えと…… あ、そうだ時間。電車の時間!


「あ、もうそろそろ電車来るよっ。急がないとっ!」

「うん、切符は買ってあるよ。それじゃ行こうか」

「ありがとう。後でお金渡すね」

「これくらいは俺に払わせてよ」

「あ、うん…… ありがとう」

 そんな少しの気持ちがなんだか嬉しい。


「それじゃ、行こうか」

「うん」


 そう言って切符を受け取り改札へ向かおうとした、その時……


「あっれー? 大野の彼女じゃない。可愛い恰好してんね。これからデート行くの?」

「大野?」

 誠司君がその名前に反応した。

 彼女は、そう言われて初めて誠司君に気がついたらしく、彼に顔を向けて問いかける。

「んん? 誰? あんた。この子の何なの? 友達? まさか、彼氏じゃないよね?」

「彼氏、だけど…… 貴女、誰ですか?」

 年上風な彼女に誠司君が問いかけた。

「私? 私は大野の友達だけどさ」

 そう言いながら、顔を私の方にむき直した。

「貴女やるわねー。大野とこの子の二股かけるとか流石だわ。誰に見られるかわかんないこんな所で堂々とデートするとか、可愛い顔して大胆ねぇ。そっちの地味な彼氏はキープかな? かわいそー。とんだ悪女ね」

 突然の言いがかりに言葉も出せない私に、彼女は誠司君の方に向いて更に続ける。


「そっちの彼、悪い事言わないからこんな女、さっさと別れた方がいいよ。あの大野と付き合ってる彼女なんてロクなもんじゃないからさ」

 別れを促す言葉にはっとして誠司君の顔を見ると、彼は真っ青になっていた。

 それを見て、私も事の重大さを思い知らされた。


「せ、誠司君……」

「……ごめん由綺。 今、俺、何も考えられそうにない…… ほんとにごめん。 気持ちの整理がつくまで一人に…… 一人にしてくれるかな。ごめんっ!!」

 そう言うと誠司君は全力で走り去ってしまった。

 それを見て私も咄嗟に追いかけようとしたものの…… 駄目だ。私じゃ誠司君には追いつけない……


 走り去る誠司君を見ながら、彼女は私に声をかけてきた。

「あー、それが正解よね。残念ね、キープには丁度良さそうな彼だったけど、あんな真面目そうな子を騙そうったってそうは問屋が卸さないわよ?」

 それでも、私は彼が走り去っていった方を見つめたまま後悔と罪悪感で頭が一杯で、彼女の相手をするどころじゃない。

 電話? メール? とにかく連絡しないと。

「なによ、だんまり? ま、そうよね、何も言える筈もないわよね。つまんない子。それじゃねー」

 彼女は言いたいだけ言って満足したのか、どこかに行ってしまった。


 うん、それどころじゃない。

 とにかく連絡を……

 そして、必死に電話したり、メールしたりするけど電話は取って貰えないし、メールの返事も返ってこない。


 ごめん、ごめん、誠司君……

 泣きそうになりながら必死に連絡を取ろうとしていると、傍らから声をかけられた。


「あれ? 由綺ちゃん、どうしたの? そんな顔をして」

 それは、この件のもう一人の当事者、大野さんだった。


「とにかくこんな所でそんな顔をしてたら目立って仕方ない。 そこの喫茶店にでも入ろう」

 半ば放心状態の私は大野さんに引っ張られるように喫茶店に入り、目立たない隅の方の席に向かい合わせに座った。

「どうしたんだい? 由綺ちゃん。 あんな所で」

「………………」

 私は俯いたまま何も話すことが出来なかった。

「彼氏……の事かな?」

 その言葉に反応してぱっと顔を上げると、大野さんが苦笑いしながら話を続けた。

「やっぱりそうか。 ごめんね。遊園地で由綺ちゃんが帰った後に初めて君に彼氏が居るって聞いたんだ」

「はい…… 由佳里に…… 聞きました」

「知ってたら…… いや、キスしただろうね、やっぱり」

 キスと言われてつい、キッと大野さんを睨んだ。


「そこで怖い顔されると困っちゃうな。僕は由綺ちゃんが好きだよ?」

「……私は…… 好きじゃ無いです」

「それは、僕を知らないからじゃないかな?」

「知りたくもないです」

「ははは、由佳里ちゃんが言ってた通りだね。一途で頑固。一度決めたら一直線」

「駄目ですか?」

「駄目じゃないよ。けど、もったいない」

「もったいない?」

「うん。その彼氏が本当に由綺ちゃんにとって一番最良の彼氏かどうか、どうやって判るの?」

「どうやって……って」

「本当に一番良い人を見つけるまで、いろんな人と付き合って比べてみるのが悪いことだとは僕は思わない」

「…………………」

「僕はそうやって色んな人と付き合って、その中で由綺ちゃんが一番だと思った。だから君にも比べて欲しいんだ」

 その理屈は解らない話でもない…… でも、私は……

「由綺ちゃんに僕を見て欲しいな。君にとって彼氏は初めての彼氏でしょ?」

「…………はい」

「だったら、どんどん比較して欲しいな。どっちが君にとって最良か。僕はその彼に負けるつもりは無いよ」

 大野さんが私を…… 正面から真剣な顔で言われると正直、心に動揺がはしる。

 けど、私が好きなのは誠司君の筈で…… 私の本当の気持ちは……

 それに、誠司君にこんな私が相応しいのかどうかも……


「…………少し……」

「ん?」

「少し、考えさせて下さい。今は何も冷静に考えられそうにないですし」

「何があったの? それが聞きたかった」


 私は、駅前であったことを…… 大野さんの友達に言われたことを。

 それで誠司君が傷付き、その場から走り去ってしまったこと…… 全部話した。


「そうか…… それは僕にも原因があるから、彼の行動に思うところはあっても何か言うことは許されないな。

 わかった、待つことにするよ。でも僕にも少しはチャンスが欲しい。何か直接連絡できる方法を教えてくれないかな」

「電話番号は駄目ですけど、普段使っていないメールアドレスなら……」

 先日、何かあったときの為にと由佳里が予め作ってくれていたメールアドレス…… これなら。

「渡す情報は最小限に…… 嫌ならすぐに気軽に消せる…… からか。なるほどね。うん、それでいいよ」

「はい、それじゃ」

 メモにフリーのメールアドレスを書いて渡す。すると、大野さんはすぐにそのアドレスにメールを送った。


 ぴろりーん

「なるほど、そのスマホに届くなら間違いなく読んでは貰えるんだね」

「はい」

「わかった、ありがとう。僕に何か連絡したい事があったら、今のそのアドレスに送ってね」

「わかりました。それでは私、帰ります」

 早く帰りたい…… 許しては貰えなくても誠司君に連絡を取りたい…… 声だけでも聞きたい……

「うん。またね」


 喫茶店を出て、家に帰りながら誠司君に受けて貰えない電話をかけ続けた。それは睡魔が私を無理矢理に覆い潰すまで続いたのだった。

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