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惑い恋  作者: 山口みかん
3/8

その2 遊園地 <後編>

「ひっく、ひっく……」

 こ、怖かった…………

「大丈夫? はい、ジュース飲んで」

「ううぅ、有り難う御座います……」

「そんなに怖かったんだ。ご免ね」

「いえ…… 有り難う御座いました。少し落ち着きました」

「どういたしまして」


「ただいまー」

 あのトリプルループコースターをもう一度乗りに行った由佳里達が帰ってきた。

「落ち着いたか?」

「はい…… すみませんでした」

「いやいや、無理に誘ったのはこちらだし。それじゃ、これからどうする?」

 こーゆーのはもう嫌だ……


 そんな思いを察してくれたのか、大野さんが提案を出してくれた。

「それじゃ、僕らはおとなしい乗り物を回るから、深月達は好きなのを乗ってきなよ」

「うーん、それがいいかも…… ドラゴンスクリューも、スーパースプラッシュマウンテンとかも乗りたいし、スペースクラッシャーも…… 由綺、それでいい?」

「うん」

「それじゃ、決まりだね」


 大野さんって優しいな…… お兄ちゃんが居たらこんな感じ?

 小さい頃から兄や姉の存在に憧れて両親を困らせていた過去の夢がちょっと叶ったような気がする。

 そう思うと、ダブルデート?にも少し気が楽になって楽しむ余裕が出てきた。


 それから二手に分かれてアトラクションを回ることになりました。

 私の希望で、まず最初にメリーゴーランドを選んだ。白馬に大野さんが、馬車に私が乗るお約束。

 大野さんがちょっと気障にお姫様扱いしてくれたけど、そういうのは少し苦手かも。

 その後コーヒーカップでくるくる回りすぎて目を回したり、ゲームコーナーでは鬼にボール投げたり。

 二人とも上手く当てられなくて、景品のぬいぐるみは貰えませんでした……残念。

 誠司君はこういうの得意かな? 上手だったら、あのぬいぐるみ取ってくれるかも。


 お昼はフードコートに集合。

 私はたらこスパゲティー、由佳里はビーフシチューセットをがっつりいくらしい。

 あんなに怖い乗り物ばかり乗ってたらしいのに、それにいける?

 まだまだ知らない由佳里の一面を見た気がする。


「二人とも髪綺麗だよね」

 食事中の会話が髪の話になりました。

「努力してるし」

 由佳里が自慢そうに答える。

「由佳里の髪は綺麗だよね。手入れも凄いし」

 元々少しくせっ毛がはいってるのを逆手にとって、綺麗なゆるふわパーマっぽく見せている。

 あれだけ手を入れて、くせっ毛があって、それでも艶々な髪を維持するのは結構大変だ。

 天然茶髪もあるせいで入学当初は先生に随分と目を付けられてたなぁ、由佳里は。

「神埼さんも綺麗だよ? その長さのストレートでそんなに綺麗で艶やかな黒髪はそうはいないと思う」

 大野さんが褒めてくれたけど、言われるほどの事って気はしない。

「私はただ伸ばしてるだけですよ?」

「伸ばしてるだけじゃないよね、由綺の秘密兵器」

「秘密兵器?」

 深月さんが不思議そうに聞いてきた。

「そんなたいした物じゃないです。ずっと椿油を使ってるだけで」

「「椿油?」」

 大野さんと、深月さんの声がかぶった。


「そう!由綺の秘密兵器、椿油。中学からだよね」

「秘密兵器って…… お婆ちゃんがずっと使ってたのを私にもって勧められただけだし」

「女子高生で椿油使ってる人ってそうはいないと思うよ、神埼さん」

「まったくだ。おまけに中学からだろ?」

「由綺って割と考え方が古風だしね」

「お婆ちゃん大好きだったし、そういう方が落ち着くし」

「なんかいいね、そういうの」

 大野さんがにこっと笑いかけてくる。

「あ、ありがとうございます」

 ちょっとテレる。


「さてと、メシも食ったし、次いくか」

「行っちゃおー」

 由佳里と深月さん、いいカップル……かも?


 午後も私たちはゆっくりとアトラクションを回っている。

「プール……は、時期がまだ早いね」

「やってても水着持ってきてませんし」

 それに、いくらお兄ちゃんみたいでも、恋人でも無い男の人と二人でプールはちょっと……

「それもそうだね。それじゃ、あっちのボートでも乗ろうか」

「はい」

 三十分コースを選んで、二人乗りのボートに乗って向かい合わせて座った。

 スカート長めのにしといて良かった。

 深月さんがオールをぐいっと漕いで出発した。細く見えても結構力あるんだなぁ。

 池の真ん中の方まで行くと、騒がしく慌ただしい遊園地の中でここだけ時間がゆっくりと流れている気がする。


「神埼さんは、大沢さんと仲良いんだね」

「そうですね。性格も割と反対で、最初はそれ程には仲良くなかったんですけどね。普通の友達か、それ以下って感じで」

「そうなの?」

「はい。でもそれが返って良かったのかも。知らない面がいくつも出てきていつも新鮮で、凄く楽しいんです。多分、それは由佳里も同じだと思います。大野さん達はどうなんですか?」

「僕らか。うーん、神埼さん達と同じかな。やっぱり正反対っぽくて、仲良くて……って感じ」

「見た感じのままなんですね」

「そう? 意外とはよく言われるけど」

「そうなんですか?」

「付き合ってれば解るよ」

 そうなんだ。由佳里にデートの報告を聞く楽しみが増えたかも。


 それから少し話をして、マジックミラー迷路で迷ったり、ゲームコーナーに戻ってもぐらを叩いたりしているうちにそろそろ帰る時間に。


「合流して最後に同じ乗り物に乗ろうってさ」

 深月さんからの電話を受けた大野さんがそう言ってきた。

「同じ乗り物ですか? 怖くないといいなぁ」

「それは多分あれだし大丈夫だと思うよ。ひとまずフードコートに集合だって。行こうか」

「はい」

 あれってなんだろう。


 由佳里が最後に選んだのは、由佳里にしては意外な乗り物だった。

「この遊園地の最後はやっぱり観覧車よねー」

「そうなの?」

「そう、この遊園地最大の目玉なのよ」

「へー」

 確かに大きいけれど、目玉と言うほどに凄いようには……


「じゃ、カップルでねー 私たちがお先。由綺、頑張ってね」

「え? え!?」

 由佳里はそう言い残すとさっさと深月さんと二人でゴンドラに乗り込んだ。

 頑張って? って、どういう事?


「神埼さん、それじゃ僕らも乗ろうか」

「え? あ、はい」

 そして、私と大野さんは次に回ってきたゴンドラに二人で乗り込むことになった。


「高いですねー、遠くまでよく見える」

「だね。ここからだとポートツリータワーまでよく見えてくるでしょ」

「はい」

 ゴンドラ横の窓から外を眺めると、本当に良く見える。

「このまま頂点まで上がっていくと、それと後ろの風景が重なってハートマークに見えるんだ」

「そうなんですか?」


 わ、それ誠司君と見に来たい。

 ちょっと子供っぽいけど、思わず窓に張り付いて外を眺める。

 あれかな? まだハートマークには見えないけど……もう少し上がったらわかるのかな。


 こうやって高いところから見ると、遊園地園内が一望できる。

 全体を眺めていると、誠司君とデートする時のコースをつい下見している気になってきた。

 大野さんのお蔭で誠司君と回ってみたいコースや所要時間も大体イメージできたし、今日回りきれなかったところとかも行ってみたい。

 特にフラワーガーデンや、今日の服だと濡れて透けるのを心配して遠慮したウォータースライダーには行きたいし、最初のスリル系アトラクションや、時間がかかった迷路を外せば大丈夫そう。

 シーズンになったら誠司君とならプールもいいな……いや、それならいっそ海に行きたい。

 そうして、外を眺めながら誠司君と二人で遊園地を回ったり、海に行ったりしている光景を思い浮かべていた私は次の言葉を聞き逃していた。


「知ってる? だから、この観覧車の一番頂上でキスした二人はずっと幸せでいられるって……」


 え? 大野さん、何か言った?

 振り向くと、そこに大野さんの顔がすぐ間近に近づいていた。

 なに? 大野さんの顔が近い……近いって…え? んっ……


 気がつけば大野さんの唇が私の唇に重なっていた。

 なに? なにこれ…………私、今、キス……されてる……の?

 誠司君ともしたことがない…… 私のファーストキス…………


「ははっ、良かった嫌がられなくて。 神埼さん……いや、由綺ちゃん、これからよろしくね」


 呆然とする私に大野さんが話しかけてくる。

 よろしく? よろしくって……なに? なにが……よろしく……なの?


 観覧車から降りると先に下に降りていた二人に囃し立てられた。

「やったなおい、見てたぞ、キスシーン」

「ああ、ありがとう」

「由綺ったらぼーっとしちゃって、可愛いなぁもう」


 なに? なんなの? なにがおきてるの?

 状況を把握できないままでいる私を由佳里が引っ張っていく。


「どう? 大野さん、いいでしょ。由綺にはあんな柏木みたいな地味男より、こういう格好いい人の方がお似合いだよ。感謝しなさいよねー」


 感謝? 感謝ですって!?

 そう言われた瞬間私の中で何かが切れた。


 パ――――――ン!!!


 そして気が付けば由佳里の頬を思い切り平手打ちしていた。


「ゆ、ゆき……?」

 何が起こったのかわからない…… そんな顔をして私を見る由佳里。


「由佳里に……由佳里なんかに誠司君の良さなんて解らないわよ!!!ふざけないで!!!!!」


「由綺ちゃん?」

 大野さんが戸惑いを隠せない顔をしながら近づいてきて私に手を伸ばしてくる。


「触らないで!」

「ど、どうしたの? 由綺ちゃん」

「……ご免なさい。私、わたし………… 帰ります」

「由綺ちゃん!」


 この場に居たくなくて、誠司君に会いたくて、私は逃げるように遊園地から走って出て行った……

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