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惑い恋  作者: 山口みかん
1/8

その1 告白

 お昼時間。育ち盛りな高校生には貴重なランチライム。

 その貴重な時間を無駄にして…… ううん、決して無駄ではないけど……

 とにかく、その時間に私は薄暗い校舎裏に立っています。

 別にこんな所でぼっちご飯をするというわけではありません。お互いに友達と呼べる友人は沢山いますし、親友と呼んで差し支えない友人だっています。今だって一番の親友に心配されつつも最終的には頑張れと送り出されてここに居るわけでして……


 うん、そんな事はどうでもいいですね。 

 とにかく、昼間だというのに薄暗くて誰もこんな所でランチタイムなんか過ごしませんよ、という人っ子一人居ないこの状況こそが今の私にとって重要な訳です。


「おちつけー、おちつけー」

 すーはー、すーはー


 今、必死に気持ちを静める為に深呼吸しながら、私はある人を待っている。


「朝早くに来て下駄箱に手紙は入れた。誰にも見られてない。入れた場所も間違えてない。きっと来てくれる」


 誰も居ないのに気持ちを口に出さないと落ち着かない。

 告白すると決意して、既に一ヶ月。

 その間、何度も何度も手紙を書き直して、結局最後に書けたのは『お昼休みに校舎裏で待ってます』という言葉だけ。我ながらなんて情けない……

 それでも、明日告白だと友達と盛り上がってテンションを高め、何とか今、私はここにいる。

 いつもより三時間は早く登校して、周囲に誰も居ないことを確認し、何度も何度も場所を確認してあの人の下駄箱に手紙を入れた。

 大丈夫だ……きっと大丈夫……


 心臓の鼓動がすごく早いのが自分でも判る。ひょっとして、ドキドキいってる音が回りに聴こえるんじゃないかってくらい。

 校舎裏へ生徒が出入りできる唯一の入り口を見ることも出来ずに、背中を向けて俯いたまま時間だけが過ぎていく。

 駄目……だったかな…… じわっと目頭が熱くなる。

 その時。


 バタンっ!


 勢いよく扉が開く音にびくんとして顔をあげた。

 そして、駆け足の音が聞こえて……

 

 たったったったったっ……

 私がそちらに振り向くのとちょうど同時に


「ゴメン。すごく待たせた」

 

 待ちわびてた彼が来てくれた…… 誠司君。

 

「う、ううん。私も今来たとこだから……」

「え? いや…… そっか、ごめん。 それで、この手紙くれたの神埼さん…… だよね?」

「うん……」

「名前が無かったし、俺がこういうのを貰える筈無いと思ってから誰かの悪戯かと思ってたんだけど」

 え? あれ? 私、名前書き忘れてた? 私の馬鹿。


「それで、そのまま教室に残ってたら大沢さんに早く行けって怒られて」

「由佳里が?」

「うん」

 由佳里って、友達の中ではどちらかと言えば誠司君を否定してた側なのに……


「えーと、こういうの初めてで…… 勘違いしちゃいけないって思って迷ったんだけど」

 彼の顔が赤い…… 多分、私も同じ…… 顔が熱い。

「ううん、それ、多分間違ってない……から」

 大丈夫。これはきっと嫌われてない。大丈夫…… だから……だから…………私から……


「……う、うん、えーと、俺……」

「あ、あのっ!」

 言うんだ。

「はっ、はいっ」

「わっ……わ……わたっ」

 私から言うんだ。本気だって伝わって欲しい…… だから手紙を出したんだ。

 頑張れ私!

「私と…………私と、付き合って下さいっ!」

 言えたっ!


「……………………」

「……あの……」

 な……なにか……

「俺……神埼さんと釣り合うほど格好良くないし、俺なんかで…… いいの?」

「うん。なんかじゃないよ? ずっと……ずっと好きでした」

 そう、私が彼を初めて知ったのは、私の大好きだったお婆ちゃんから彼に助けて貰ったという話を聞いてから。

 それまでは家が近所で同じクラスでも、騒がれるほど格好良い訳でもなく、特に目立たない地味な人という印象しか無かった彼。


 それから彼が気になるようになると、掃除や、グラウンド整備、移動教室の準備の手伝いとか、体育祭や文化祭の裏方だって、人が面倒がる仕事を人から言われる前からいつも率先して動いて、一生懸命にやっている事に気がついた。

 そんな頑張りを全然アピールもしないし、とても自然だから誰も彼を特別視しない。


 それから気がつけば自然と彼を目が追うようになっていた。

 学校の中だけでは無くて、地域会でもいつだって一生懸命で優しくて……そんな彼をずっと見てきた。

 そのうちに彼だけを特別な目で見るようになったのは何時だったのかは判らない。気がつけばもう彼だけが私にとっての特別だった。

 私にとって、彼はなんか(・・・)じゃない…… 彼だから(・・・)好きなんだ。


「ありがとう。 うん、俺からも御願いするよ。神埼さん、俺と付き合って下さい」

「はい、これからよろしくおねがいします」

「こちらこそ、よろしく」


 私に、生まれて初めて恋人が出来ました。




 教室に帰ると真っ先に由佳里につかまった。

 彼女は、大沢由佳里。小学校からの大親友。

 ちょっと思い込みが強い面もあるけど、元気で友達思いの美人さんです。


「どうだった? 由綺」

 そう言われて、私は顔を赤くしながらにっこりと微笑んで、指で小さく丸を作った。

「やったね由綺、おめでとう。まー、由綺が断られる筈無いって思ってたけどさ。これで由綺も売約済みかー」

「ばいっ………… って、なんて言い方するのよ。心臓が飛び出るかと思ったじゃない。それに、自信なんて全然なかったよ。オッケー貰えるまで、ほんとにもうドキドキだった。 それに有り難う、由佳里…… 柏木君に言ってくれて。由佳里が言ってくれたのが本当に嬉しい」

「どういたしまして。でも、本当に柏木で良かったの? あんなにいっぱい告白だってされてたのに全部振っちゃって、由綺くらい可愛かったらよりどりみどりなのに」

「一人だけでいいです。それに外見だけの人って嫌だし。人間中身だってお婆ちゃんも言ってたし」

「う……それはあたしへの宣戦布告ね?」

「え? えーと、そういうわけじゃ……ない……かな?」

「なんで疑問系で言うのよー」

 由佳里はその外見を裏切らずに本当によくもてる。おまけに、本人も惚れっぽい。しかも面食い。

 だけど長続きしないのだ。それも大抵の場合、振られるパターン。ほんと、なんでだろ?


「いいのよ、あたしは駄目な女ですー」

「え? あれ? ひょっとして…… また?」

「ううう。またです」

「えー? つきあい始めたのって、ついこの間じゃない」

「うわーん」

「いい加減、落ち着きなよー」

「今度は落ち着いたって思ったんだもん……」

「もう」

「次こそは――――」

 また、駄目そう…………

短編からの大きな変更

・彼氏の名字を巻島から柏木に変更

理由:「ショ」と言わせたくて仕方なくなるから……

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