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怨みの花  作者: 桐生初
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彦三郎とカール

その頃、マリアンヌが留守番している山小屋に、ペガサス国王カールが訪ねて来ていた。


「アレックスは…。居ないの?」


「ええ。お仕事に出掛けたわ。人探しなので、暫く帰って来られないかもって。どうなさったの?殿下。」


カールは疲れた様子で、テーブルの椅子に腰かけた。


「ああ…。折角ペガサスで来たっていうのに…。困ったなあ…。」


「何かお困り?」


マリアンヌの目が輝いた。

アレキサンダー王がモデルの冒険小説にはまってから、やけにアレックスの仕事に参加したがるようになってしまっている。

だから、アレックスは、大人しくしているように、念を押して出て行ったのだった。


「マリー、君には絶対頼まないからね!?そんな危ない真似させたら、僕がアレックスに殺されちゃうよ。」


「しないわ。いい子で待ってるようにって念をおされましたもの。で?何でお困りなの?」


「ー実はこの間、我が国の端っこ。つまり、この麒麟国との境にある小さな村の住民が、一晩の内に消えてしまうという事件が起きたんだ。田畑は枯れ果てているし、調べたんだけど、原因も手段も全く分からない。消えた村人がどこに行ったのかも分からない。」


「それをアレックスに調べて欲しかったのね?」


「そう。でも、留守なら仕方ないな。竜国も同じ様な事が起きたって言うし、アデルさんに、一緒に調べてくれないか頼んでみるよ。」


「アデルお兄様の所に?またペガサスで?」


「だって、僕にはペガサスしか移動手段が無いもの。」


「でも、ペガサスでは、10日はかかってしまいますわよ?私のミリイで連れて行って差し上げるわ。」


「い、いいよ!危ないよ!」


「危なくないわ。そのまま竜国で、アレックスの帰りをおとなしく待っていればいいんですもの。どっちにしろ、獅子国か竜国へ行ってなさいと言われたし、フィリップにも会いたいし。ね?」


マリアンヌがいそいそと支度を始めた所に、彦三郎が現れた。

カールを見るなり、いきなり刀を抜き、斬りかからんばかりに構えて凄む。


「むむ!ボの字!間男しに参ったか!」


「ま、間男!?僕にとっては、アレックスが間男なんだけど!?それは兎も角、違います! アレックスに仕事の依頼で来たんだ!」


「未だアの字を恨んでおるのか!」


「う、恨んじゃいないけど、アレックスが現れなければとは思ってる…。」


「ほんに女々しい男だのう。して、アの字は?」


「あら。彦三郎さんもアレックスにご用なのですか?アレックスはお仕事で、今頃はアーヴァンク国でしょう。」


「そうかあ。この間、息子達の面倒を見てもらった時、そろそろこういう小さな稼ぎでなく、でかい稼ぎをせねばと申しておったから…。アーヴァンクの王子探しは、かなりでかい仕事だものな。」


彦三郎の言葉に、カールが反応し、驚きながら笑い出した。


「アレックスがベビーシッター!?あり得ないよ!どんなベビーシッターなの!?」


「ひたすら野山を駆け回らせて、剣の稽古をしてくれる。皆、疲れ切って大人しくなり、よく眠る。大層助かっている。」


「随分とまた苛酷なベビーシッターだね。嫌われそうだけど。」


「そんな事は無い。寧ろアの字は大人気だ。息子達の話だと、アの字と山に入ると、不思議な物が見れるそうだ。こんな小さな烏帽子を被った爺さんとかな。」


彦三郎は、手を床から30センチ位の所に持っていって、小さな爺さんの背丈を教えた。


「ええ!?何それ!妖怪!?」


「妖精であろう!バカ殿め!そんな事も知らんのか!麒麟国の妖精は大体そういう爺さんだから、土地に寄って違って面白いと、アの字が申しておったわあ!」


「す、すみません…。」


「その小さい爺さんは、背が伸びぬと悩んでおった次郎に小さな飴玉をくれたそうだ。食べた次郎は、背が伸び出した。な?良い妖精であろう。」


「ああ、本当だね。その飴、僕も欲しいな。」


「心が汚れきっておる、ボの字にはくれぬわ。」


「彦三郎さんて、僕の事嫌いなの!?さっきから、一国の王を捕まえて、言いたい放題!」


「うむ!嫌いだ!お主が一国の王だなんて、本当にペガサスの民が不憫でならん!」


「酷いよおおー!マリー!何とか言っ…。」


カールが救いを求めてマリアンヌを見ると、マリアンヌは笑いを堪えて、肩を揺らしていた。


「歯に衣着せぬ物言いが、彦三郎さんの良い所ですのよ、殿下。ところで、そのアーヴァンク王子探しは、大金が頂けますの?では何故彦三郎さんは、引き受けられなかったの?」


「俺は、鳥人間は嫌いだ。」


「そうなのですか。」


「うむ。なんだか気色悪い。一度、アーヴァンク人が泳いでいる所を見たのだ。つまり裸の背中をな。人間の身体から、にゅっとでかい羽根が、本当に生えているのだぞ?気味が悪い事この上無い。」


「そうですか…。それで、彦三郎さんのご用はなんですの?」


「うむ。先だって我が国の村から村人全員消える事件が起きた。それを老中から調べてくれと言い使ってな。かなりの額がもらえるので、アレックスもどうかと思ったのだが、アーヴァンクの方が高い。1人で調べる事にしよう。」


席を立とうとした彦三郎をカールが止めた。


「それ、何か分かったら、僕にも教えてくれない?」


「何故。」


「僕の用件もそれだったんだ。ペガサスも小さな村がやられた。アレックスに調べて貰おうと思って…。」


彦三郎はギロリとカールを睨みつけた。


「アの字に頼む前に、自分でも動け。全く、しょうもない。誰が教えるか。」


彦三郎は、マリアンヌだけに挨拶をして、愛馬のヨボヨボのおじいさん馬に乗って、行ってしまった。




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